第12話 明かされた真実

「リズ、司祭がいらっしゃったよ」


 ガチャと扉の音と共にカノンの声が聞こえてきた。


 あの竜巻の事件から三日。僕はまだ錬成光マナの使い過ぎによる後遺症から完全に回復することができていなかった。


 司祭――オルディン叔父さんは中央神都シンシア側の竜巻の処理状況を確認するため、早々にアリアを発ってしまった。しかし、その際に数日したら見舞いに来ると言い残していった。

 

 まさかユークリッド食堂の二階まで訪ねて来るとは正直思っていなかったが、叔父さんは約束を守ってくれた。


「加減はどうだ?」

「だいぶよくなってきました」


 僕は上半身を起こすと、叔父さんを迎え入れた。

 カノンは気を利かせて出て行ってしまったので、部屋には二人きりだ。


「そうか。それはなによりだ……」


 叔父さんは作業机の椅子を引き寄せると、ベッドの横へ座る。

 オルガが引き起こした爆発で一部が焼けてしまった外套はすでに新調したようだ。


「司祭――」

「すまん。やはり、叔父さんでいい」


 陽炎ノ塔で言われた通り『司祭』と呼んだが、どういうわけか叔父さんはそれを否定した。理由はわからなかったが、心境に変化があったのだろう。


「じゃあ、オルディン叔父さん」


 改めて呼びかけて、知りたいことを聞き始めた。


「信号弾はすぐにわかった?」

「あぁ……。黒と緑はシュラークとノーテが好んで着ていたからな。それをわざわざ信号弾で打とうというのはお前ぐらいなものだろう」


 そう言うと叔父さんはフッと笑った。


「しかし、どうして空を直せると知っていた?」

「マチルダの話を聞いて気付いたんだ。直せないとおかしいって」


 世界エイリアの気候は安定しているため、街ひとつ吹き飛ぶほどの災害は歴史上でも稀だ。そのため、僕はオルガからマチルダの竜巻の話を聞いた時、今回と同様、上空には黒点が発生していたのではないかと推測した。

 だが一方で、現在はそれに関する報告や噂が飛び交っていないことを考えると、黒点は既にないと考えるのが妥当だろう。つまりは消滅させることができたということだ。

 そして、その経緯を時の司祭が知らないはずがない。


「なるほど。そしてその推測は合っていた、というわけだ」

「どちらかというと、叔父さんが間に合うかどうかの方が心配だったよ」

「俺が来ないとは思わなかったのか?」

「んー……。なんとなく来てくれるって、そんな気がしてた」


 あの時、助け起こされた記憶が蘇ってきて、つい笑みがこぼれてしまった。 

 叔父さんは「そうか」と言って少し困ったような表情を浮かべていた。


「おまえのアーミエの拡縮の……なんといったか……」

「オルガ?」

「あぁ。オルガには助けられた。あいつが圧縮技法の応用で爆発を起こさなかったら、アリアは危なかっただろう。……お前の入れ知恵か?」

「まぁね……」


 圧縮技法とは、等級が上がるごとに大きくなる根源石クリスタルを、錬成の力はそのままに、体積を圧縮する加工方法を指す。この技法は『司祭の許可なく実行した者には厳罰に処す』と法典に定められていて、細かい規定がある錬成界でも珍しく認可制となっている。

 また、技法の研究資料は未だ公開されておらず、詳細を垣間見れるのは開発者の手記だけなのだが、その中に気になる記述がある。それは友人へ宛てた手紙の一文で、『昨夜、街の半分が消えてしまった……。』と滲んだ文字で書かれていた。


 これらのことから想像するに、圧縮技法による失敗、もしくは応用は、多大なる影響を及ぼすほどの力の開放が起こるということであろう。


「多重錬成を習得していない僕たちは、錬成であの竜巻を止める手段がなかった。だから、それ以外で対処する必要があったんだ」

「それであえて圧縮を失敗させ、根源石クリスタルの暴発を狙ったというわけか……。全く、これで錬成士になり立てだというのだから末恐ろしい」


 叔父さんは、話している内容は褒めているようにも感じられたが、半ば呆れているような表情であった。


「言い訳にはなるが、多重錬成の反動は大きい。頭の片隅には入れておけ」


 カノンから聞いた話では、叔父さんは率いてきた仲間と空の修復――つまり、黒点を消滅させたが、すぐには竜巻の排除に動けなかったという。

 どうやら、多重錬成は連発できるような代物ではないらしい。


 僕は神妙に「わかった」と言いながらも、心の中ではいたずら心が芽生えるのを止められずにいた。叔父さんの厚意を台無しにするようではあるが、どうしてもイジってみたいことがあった。


「でも叔父さんの場合、その前の錬成が尾を引いたと思うよ……?」


 いつの間にか錬成ノ塔からアリアまで空中道が伸びた、というのは巷で話題を呼んでいた。崩壊の危険があるとか何とか言って、さっさと撤去してしまっていたが、やり過ぎてしまった恥ずかしさもあったのであろう。

 いくらアリアへ早く到着するためといっても、このイメージを実現できる錬成士はそういない。街から街へと道を通したら、どう考えても錬成光マナが枯渇するのは目に見えている。


 それでもなお、連続して多重錬成を発動させたのだから、錬成光マナの総量は底なしだ。


 「すっごい登場したらしいじゃん!」と煽ると、叔父さんは「言うなっ!」と顔を赤くして怒った。

 そのやり取りは昔を彷彿とさせて、僕をとても懐かしい気持にしてくれた。

 

「ま、まあなんだ……、何せよお前のアーミエは粒ぞろいだな。あの風の特異錬成士も大成するだろう」


 叔父さんは腕を組み直しながら言った。話題をすり替える口実にされた感はあったが、カノンとオルガの実力を認めているようであった。


「みんなにも伝えておくよ。司祭に褒められたって聞いたら喜ぶだろうからさっ!」


 最近の最も嬉しいと思う瞬間は、仲間が褒められた時だ。

 

 僕はきっと場を和ませるぐらいにはニコニコしていたのだろう。

 いつもより柔らかい顔をした叔父さんは「あぁ」と優しく言った。


 

 それからしばし沈黙が流れると、叔父さんは意を決したように口を開いた。


「やはりお前には話しておくべきだったのかもしれんな……」

「え……?」

「俺たちが『何をしようとしていたか』を、だ」

「――っ?!」


 幼かった僕たちは、父さんと母さんを失ったことに理由を求めた。より厳密にいうのではあれば、二人の死には理由がなくてはならなかった。


 そう。それも僕たちが納得できるような理由が――。


 今ではもう、二人が世界エイリアのどこにもいないのだというのは理解しているつもりだが、未だに納得はできていなかった。いや、そもそも未来永劫、納得などできないのかもしれないが……。


 ユナは時間と共に考えを変えていったようだが、僕は依然、二人の死に理由を求め続けていた。


「俺とシュラーク、ノーテは三司祭がアーミエが組んでいたのは知っているな」

「うん、もちろん」

「お前たちもアーミエを組んでいるが、どうしてアーミエが必要か考えたことはあるか」


 深く考えを巡らせたことはなかったが、大方の予想はつく。


「より強力な錬成をできるように……」

「半分正解だ。では、質問を変えよう。なぜ三属性の錬成士がアーミエを組む」


 これは難しい問いだ。確かに言われてみれば、三属性の錬成士でなくても錬成を連鎖させることは可能だ。現に義母さんとカノンが同系統の錬成を発動した時、能力が向上しているような気配があった。


 だが、アーミエとしては、それぞれの属性が一人ずつでなくてはならないという規定がある。


「……わからない」


 僕は様々な方向に想像を巡らせたが、答えにたどり着くことはできなかった。


 叔父さんは微動だにせず僕の回答を待っていたが、白旗を挙げるとため息交じりにひと呼吸してから、ようやく答えを教えてくれる。

 

「それは、神を錬成するための儀式――大錬成のためだ」


 語られた正答は想像の遥か上を行くものであった。


「神……様……?」


 あまりに突拍子もない話に、僕は空いた口が塞がらなかった。

 辛うじて出たのは、未知の存在を示したその言葉だけだ。

 

世界エイリアには神が必要なのだ……」


 僕はしばらく呆気にとられていたが、やがて全てを悟った。

 父さんと母さんは、叔父さんと共に神をつくろうとしていたのだと――。


「そんなバカげたことのために、二人は命を投げ出したっていうのっ?!」


 ようやく分かり合えたような気がしていた叔父さんに、僕は敵意をむき出しにして絶叫した。

 

「バカげたことではない! バカげたことではないのだ」


 叔父さんは僕を落ち着かせようとしたが、怒りは収まらなかった。


世界エイリアのためにやっていうなら、そんなの――生贄と変わらないじゃないかっ!!!」


 生贄。それは神への捧げものとして扱われる供物。

 生まれて、そして死ぬための命。

 

 ムイミナイノチ――。 


 そんなのは受け入れがたい。酔狂で神をつくろうとしたというなら、両親や叔父さんを恨めばよかった。だけど、世界エイリアのためにやったというのなら、僕は誰を恨めばいい。


「お前たちがいた世界と世界エイリアは違う。神がいなければ、世界エイリアは壊れてしまうのだ! お前もあの黒点と竜巻を見ただろう?」


 僕はその台詞を聞いてハッとする。


「じゃあ、どうしてこんなことになってるの?!」


 叔父さんの言い分は、竜巻のような事象を起こさせないように神様が必要だということだ。しかし、神様はすでにつくられたはずだ。


 だとすれば、可能性としてはふたつ。

 ひとつは神様と竜巻のような事象は関係がなかった。もうひとつは――。


「…………俺たちが失敗したからだ」


 そうか。そういうことだったのか。

 僕の頭の中で、バラバラだったピースが一枚の絵を描き出した。


 特務という組織がつくられて旅をするように促されたのも、叔父さんがあそこまでして僕を助けに来たのも、理由があったのだ。


 気持ちを整理するために僕はしばらくの間、目をつぶった。


「……みんな、命は賭けたけど、投げ出すつもりはなかったんだよね?」

「あぁ。無論だ」


 父さんと母さんは、僕とユナを含めた世界エイリアを守ろうとしたらしい。

 僕とユナは捨てられたわけではなかった――。


「やっぱりまだ神様がどうってのはわからない」

「…………」

「だけど、旅を続けるよ。自分のために、ね」

「そうか……」


 叔父さんは胸を撫で下ろしたようだった。それは、世界エイリアとか神様とか、そういうことを抜きにした感情だったように思う。


 僕は旅における真の意味を理解した。その意味を全うするかどうかは別にして、そこまでして父さんと母さんが守りたかった世界エイリアを見て回りたいと、自らの意思で思い始めていた。


「叔父さん、話してくれてありがとう」

「ノーテならもっとうまく伝えたんだろうが……」

「ううん。僕こそ感情的になってごめん」


 伝えるべきは終わったということだろうか。叔父さんは椅子から立ち上がった。


「旅をしていけばいずれ神の存在にも触れることになるだろう。どうするかは、お前の心が赴くままに決めればいい」 


 叔父さんは部屋を後にしようと扉を開けた。が、そこで立ち止まると背を向けたまま口を開いた。


「リズにはもっと早く会いに来るべきだった。すまなかった……」


 叔父さんが一番伝えたかったのは、きっとその言葉だったのかもしれない。

 僕はそう思った。





 叔父さんが訪れてからさらに数日後、ようやく僕の身体は全快した。


 思い通りに動くようになった身体で、報告がてらアリアの詰所を訪れると、延期されていた下級錬成士の任命式を数日後に行なう次第となる。


 まあ任命式といっても本来であれば、陽炎ノ塔や詰所の一室でこじんまりと行われるのが一般的であるのだが、今回は近くの広場を使って大々的に行うらしい。


 誰かに見られていても普段通りに振舞えるようになってきた僕ではあったが、やはりこの手の式典には苦手意識があった。できることなら、普段通りの任命式を行なって欲しいとすら思っていた。


 そんな想いをオルガに吐露すると――。


「街を救った英雄なんだから盛大にやるのが当然だろっ!」


 そう息まいていたが、やはり僕は乗り気にはなれなかった。


 

 式典当日、街を救った錬成士たちの晴れ舞台を見ようと、広場にはたくさんの街人が集まってきていた。


 僕たちは最前席に設けられた席に着くと、式次第について説明を受ける。

 それによると、下級錬成士の任命は式の最後で、その他にも様々な人たちが表彰されるらしい。


 初めは中央神都シンシア側の竜巻対処で活躍した錬成士たちと補助スタッフ。

 次いで、アリア側の竜巻対処で活躍した街人と見習い錬成士、補助スタッフ。

 最後に、竜巻を消滅させた新たに下級錬成士になるものたち、という流れらしい。


 後に聞いた話だが、中央神都シンシア側の竜巻に関しては、アリアへ接近した竜巻と比較して規模が小さかったらしい。しかも、中央神都シンシアへ常駐する粒ぞろいの上級錬成士と共同で対応したこともあり、さほど苦労することなく消滅させることができたのだという。

 その際、活躍したのはアドレーニ上級錬成士で、竜巻を一撃で氷漬けにしたとか……。噂は尾ひれが付くものなので鵜呑みにはできないが、司祭の秘書ともなるとただものではないようだ。


 こういった事情もあり、中央神都シンシア側の竜巻対応にあたったアリアの面々には、あまりスポットライトが当たらなかったようだ。

 あの竜巻に立ち向かうにはかなりの勇気が必要だったことを知っているだけに、不憫だな、と僕は思ってしまった。


 一方で、アリア側の竜巻消滅を支援した街人は、勇気ある者として一夜にして名が知れ渡った。


 特に前線で活躍した義母さんは人気を博していて、その英雄が営む店としてユークリッド食堂は連日超満員となっていた。錬成士でないにも関わらず錬成光マナ移譲を行ったユナもそれに拍車をかけていたと思う。


 あまりの人手不足に僕たちも手伝いを買って出たのだが、余計に客が増えるということでお役御免になってしまった……。


 しかし、義母さんはブランクがあったにも関わらず、カノンと同等以上の錬成を発揮したのには驚きしかなかった。現役の錬成士として活動しても全く遜色ないレベルであったので、後日復帰しないのかと問うと「まっぴらごめんだね」という回答が返って来た。理由は定かではないが、意思は固いようであった。


 そんな大活躍の二人の功績と名を読み上げられると、会場からはひと際大きな歓声と拍手が沸き起こった。二人は居心地が悪そうにもモゾモゾとしていたが、僕が義母さんとユナの名を呼ぶと、照れくさそうに手を振っていた。


 もちろん、同様に義母さんとユナ以外の補助部隊の面々も街に名が知れ渡っていて、読み上げられる順番が来るたびに、それぞれが喝采を浴びた。


 そして到頭、最後に僕たちの番がやってきた。

 僕とカノン、オルガ、そしてクラビアは仮設で設置された舞台へと上がった。


 舞台からは目を疑うような光景が広がっていて、一目僕たちを見ようというのか、広場に入りきらず、そこへ続く道にまで人だかりができている。


 あまりの人の多さに僕は少々眩暈を感じるが、隣のカノンが「やったね!」と微笑みをかけてくれたので、なんとか笑顔になることができた。


「此度の竜巻襲来によるアリアの損壊を免れたのはこの四名によるところが大である! よって、リズ殿、カノン殿、クラビア殿、そしてオルガ殿を下級錬成士に任命する!!」


 ヴィレス所長が広場に響き渡る声で功績を発表すると、広場に集まった街人たちは大歓声をあげた。それは地面が揺れているのではないかと錯覚する程の熱狂っぷりで、辺りからは僕たちの名を呼ぶ声であふれ返り、謎の歌まで出来あがっている始末だった。


 ヴィレス所長は僕たちに存分に歓声を浴びせた後、順番に握手を求めた。

 初めに握手したオルガを見ていると、所長は労いの言葉をかけているようだった。


「アリアを救ってくれて、ありがとう。そして、任命させていただいたこと、誇りに思いますぞ!」


 僕の番が来るとそんな風に言ってくれたので、「こちらこそ!」と返して強く握手を交わした。


 全員と握手を終え、ヴィレス所長は「もう一度大きな拍手を!」と呼びかけると、再び地面が揺れるほどの大歓声があがった。


 それに応えるようにオルガが拳を高く上げ、カノンとクラビアも顔を赤くしながら優雅に手を振っていた。

 僕はみんなのようにはできず直立不動でいたが、近くから「お兄ちゃん!」と手を振るユナの姿が目に入った。先ほどとは逆の光景に思わず手を振ってしまうと、会場からはひと際大きな歓声があがった。


 そんなつもりはなかった僕は想定外の歓声にビクっと驚いてしまったが、そんな姿を見て、カノンとオルガ、クラビアまでもが笑っていた。恥ずかしいやら、誇らしいやらで、結局雰囲気に呑まれ会場に求められるままに、僕は高く拳をあげる。


 その先には眩しいほどに輝いた青空と太陽が光り輝いていた。


 改めて広場に集まった街人たちの嬉しそうな顔を眺めていると、僕はこの街アリアに住む人々の日常を守ることができて、本当によかったと強く感じるのであった。




 

 その夜、開かれた祝いの席で僕たちは四人で席を囲んだ。


 オルガはいつものように大量の食べ物を何皿も運んできては、また取りに行ってと繰り返していた。

 カノンとクラビアもオルガに「これはうまいぞ!」などと次々と取り分けられて、いつの間にか皿を山にしていた。彼なりの配慮らしい。


 竜巻は燦燦さんさんたる爪痕を残して行ったが、世界エイリアは冬真っただ中だったこともあり、農作物にさほど大きな影響はなかったので、こういった宴を開催するに至った。

 もちろん、冬の味覚は失われてしまったが、春を待てるだけの食料は確保することができていた。


「私たち、本当にアリアを守ったんですね……」


 クラビアはようやく実感が湧いて来たのか、しみじみと言った。


「うん。司祭が黒点をどうにかしてくれなかったら危なかったけど、竜巻から守ったのは僕たちだ」


 僕も未だに夢だったのではないかと思う時があったが、一度街に出ると街人から次々と感謝を伝えられていたので、徐々に現実のものと受け止めるようになっていた。

 カノンは同じように思うところがあったのか、隣で何度も「うんうん」と首を縦に振ってクラビアの言葉を肯定している。


 オルガは大きな豚肉が刺さっている串から一気二つを引き抜いて頬張ると、そのままモゴモゴと喋った。


「それいえば、リズ。どうしてあの技法を最初から使わなかったんだ?」

「圧縮技法は元々、ああいう使い方じゃない」


 そんなに口に入れてから喋るなよ、と僕は顔をしかめると、それが伝わったのかオルガはゴックンと飲み込んでから質問を重ねる。


「それはわかってるけどよ。緊急事態だったんだからよかったんじゃないか?」


 その答えにはカノンとクラビアの二人も興味があるようで、いつの間にか手にしていたフォークを置いていた。


「わかった。本当のことを言うよ」


 三人からの注目を浴びた僕は、根負けして話してしまうことにした。


「あれは高度な錬成が出来なくても、街ごと破壊できる威力を出せる裏技みたいなものなんだ。つまり、ある程度の量の錬成光マナを扱うことができれば、あの爆発を再現することができるってわけ」

「つまり、中級ぐらいの錬成士なら誰でもできちまうってわけか」

「そういうこと。だから協会は認可制をひいて、その事実をひた隠していたんだ」

「おいおい……ってことは俺は、それを世間にバラしちまったってことか?!」


 オルガは事の重大さに気付き、顔色を曇らせた。

 そう。これが僕がこの手法を積極的に使いたくなかった訳だ。


 いくらオルガが大胆な性格をしているからといっても、彼が常識人であることには変わりない。故に詳しい説明は、あえてしていなかったのである。


「実行を指示したのは僕だ。それに司祭も称賛こそすれ、断罪はしないはずだ。現に会った時、オルガへの感謝を口にしてたよ」


 僕は誇らしい内容を伝えたが、オルガは「そうか……」と言ったまま黙り込んでしまった。

 手元の串には豚肉が刺さったままだというのに、彼はしばらくそれには手を付けなかった。


「リズのせいでもないよ。あれのおかげでアリアは無事なんだから……」

「そうですよ、お二人とも。あなた方は英雄です。胸を張ってください!」


 爆発の手法を知らしめてしまった罪悪感と、その事実を話してしまった罪悪感が波のように寄せては返していたが、カノンとクラビアからの励ましを受けて、幾分それは中和されていった。

 それでも気持ちは晴れなかったが、せっかくのお祝いムードをお通夜にしてしまうのはどうかとも思ったので、僕はそれ以上、気に病むのはやめることにした。


「ありがとう。そうだよね、まずはアリアの無事を祝おう!」


 オルガも「そうだな」と頷くと、すぐに皿に盛った山のような食べ物を掃除機のように平らげ始めた。

 繊細なんだか、図太いんだか、彼の生態は本当に謎が深い……。

 

 

「そういえば、皆さんはアリアを出るんですよね? どちらに行かれるんですか?」

「ノースニコー。俺の故郷だ」

「私は班と合流したら南東へ行くことになっているので正反対ですね……」


 クラビアは僕たちの行先を聞くと、しょんぼりとしてしまった。

 せっかく仲良くなったのだ。少しは一緒に旅ができるかもと期待していたのかもしれない。


「まあ、数カ月後には塔へ集まるんだ。その時にまた会えるじゃねーか」

「うん。またその時にたくさんお話しよう?」


 オルガとカノンが口々に前向きな言葉をかける。

 すると、クラビアはすぐに考えを改めたようで、しょげていた顔を上げた。


 このコロコロと変わる雰囲気は誰かさんと似たような気がしたのは僕だけだろうか。


「そうですね。いっぱい依頼をこなして、もっと錬成を磨きます! オルガさんのようになれるように……」


 クラビアが付け加えたその一言に、僕とカノンは「おっ?」と顔を見合あわせたが、何も聞かなかったことにした。

 だというのに、この男にはそういった機微は通用しなかった。


「なんで俺なんだ? リズとかカノンの方がすげぇぞ」

「そ……それは、オルガさんが私と同じ拡縮だからですよ!」

「おお、なるほどな! 俺も負けねーぜっ!」

「私だって負けませーん!」


 クラビアの先が思いやられたが、オルガとやり取りする彼女は実に楽しそうな表情を浮かべていた。きっと今は、それだけで良いのかもしれない。


 それぞれの想いを抱えて、僕たちの旅は続いていく。

 例えそれが、思い描いた未来と異なる世界につながっているとしても、今それを知る術はない。


 僕はカノンと一緒に、二人の意地の張り合いを眺めながら、笑い合った。


 テーブルの下でつないだ小指が、いつまでも離れないことを祈って――。

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神様はつくれますか? 秋田 夜美 @yomi_akita_38

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