探偵役をお願いいたします。

硝崎ありね

探偵役をお願いいたします。

これはこれは、客人のご遺体ではございませんか。使用人たちが駆け寄り、死体の状況を確認しました。次に、館の主人と妻、娘、残りの客人である記者と助手が相次いでやって参りました。


事件が起きた館の作りはいたって単純なものでございます。一階に食堂、応接室、リビングルーム、シャワールームといった共有施設が設けられており、二階には廊下の一本道と皆様のベッドルームがございます。被害者は最上階である二階の客室で亡くなっておりました。二階へ繋がる階段は二つ、廊下の突き当たりの両端とそれぞれ繋がっております。階段以外で一階と二階を行き来する方法はございません。


遡ること二時間ほど、つまり被害者である客人が館を訪れて一時間ほど経ち、再び来訪者が現れました。招かれざる客は記者と名乗り、館で寝泊まりすることを懇願しました。ご主人様は許可を下し、皆様は人数が一人増えた晩餐を引き続き楽しんでいらっしゃいました。


死亡推定時刻はその一時間後。では、皆様のアリバイをご覧になりましょうか。館のご主人様は応接室にて記者からの取材を受けていたとのこと。そして奥様とお嬢様は仲良くリビングルームでポーカーをしていたそうです。最後に、助手と使用人は一方の階段の踊り場で世間話をしていたそうで、その間階段を通った方はいなかったと。犯人はもう一方の階段を使って犯行現場へ向かったのでしょうか。


おや、これでは誰も犯行が出来ないのではございませんか。どうやら事件は迷宮入りでございます。記者と助手は帰る支度をし、館に改めて日常が戻ることでしょう。










何かがおかしいと、おっしゃいますと?


ああ、人数に違和感でしょうか。人数の詳しい表記はどこにもございませんよ……ふむ、使用人に関する描写が引っかかる、と。「使用人たちが駆け寄り」という文章から、使用人は複数人いることを読み取れますが、アリバイの説明では一人分のものしかございませんでした。意図的に隠されてる使用人がいるのではないか、と貴方様は考えていらっしゃるのですね。


また何か気になるところがございますか?次は、被害者についてですか。被害者である客人は記者が来る前の一時間ほどに館へ到着いたしました。気がかりなのは助手と呼ばれた方。「人数が一人増えた晩餐」、つまり記者は独りでいらっしゃったというわけでございます。しかし助手も「残りの客人」の括りの中にいらっしゃいます。その通り、助手は最初の客人である被害者の同行者だったわけでございます。


助手がつく職業、例えば作家、教授、などがございますね。とても素晴らしい、貴方様の推理には感服いたします。とは言うものの、これには何の意味がございますか?事件の解決とどう関係が?


たしかに、アリバイを持ってない人は一人だけいらっしゃいますね。ですが、どうやってその人を……


そこまで行けば解決と言っていいでしょう。ええ、全ては「使用人たち」の一人である、名もないわたくしの犯行でございます。もう片方の階段を登って、客室へ入りましたよ、それはもう堂々と。お見事、さすがはでございますね。


降参いたしましょう。










なんて言うとでも思われましたか?貴方様なら薄々気づいていらっしゃるかと。


心配しなくとも、貴方様の推理はこの館の誰にも届きません。なぜなら、死体役は喋れませんから。


いつから、とおっしゃいましたか?


もちろん、貴方様がこの館に入ったページを開いた時から、でございます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

探偵役をお願いいたします。 硝崎ありね @syouzaki_arine

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ