Merry Christmas and Happy birthday



 親は共働きで年中忙しかったから敢えてクリスマスなんかやんないし、息子の誕生日にケーキがあったのは確か小学生迄だ。

 プレゼントはまぁ欲しいものは買ってくれたし、サッパリはしてたけどどこもそんなもんだろうと思っていた。

高校で彼女が出来て誕生日を聞かれるとみんな若干引いた顔をした。そりゃそうだ、クリスマスなんて彼氏が色々頑張る日なんだろう。クリスマスデートで一切俺の誕生日に触れなかった猛者もいた。俺にとってはどうでもよかったが、結局理由はそれだけでは無いにしろ長くは続かなかった。

 だから誕生日やクリスマスにそんなに思い出も思い入れもない。ここ何年も彼女も居ないし、仕事も忙しい。年が明ければひとつ年を取るみたいに思っていた。


「真白さん、知ってました?今年の12月24日って日曜日なんですよ」

 先月、今年最後のキャンプに行った帰りに以千佳が助手席でそんなことを言い出した。

「へぇ」

 どう答えていいのか分からず適当に返すとスマホを繰りながら「土日空けといてくださいね」と笑った。

まぁ俺は問題無いだろうが、オマエの方がヤバいんじゃないのかと横目でチラリと見たが何やら楽しそうなので放っておくことにした。


 転職してはや2ヶ月。

新しい職場は正直ウェルカムな雰囲気ではなかった。

デスクを並べる同僚は競合他社から来た俺に興味を持って色々話に来たし、アドバイスを求める奴も居たがボスが俺を好かなかった。俺の置き土産の商品が予想以上にヒットしたことも要因のひとつみたいだったが、そんな事知ったこっちゃない。

 とりあえず初めはともかく2ヶ月経った今でもデザインに関わらせてもらえてなかった。

さすがの俺も胃の痛い日が増え、楽しそうに仕事の話をする以千佳に八つ当たりしては反省したりとあまり良い状態ではなかった。

 無駄に燻っているのも馬鹿らしいと帰りの電車でふと思い、そのまま人事にメールを入れると少し気持ちが軽くなった。

 それからは早かった、会社側は半ばスカウトのような採用だったにも関わらずこの結果になった事をひたすら詫びていた。何度か面談を重ね、ハラスメントやらで訴えられないようにとかもあるのだろう、別部署や子会社、下請けなんかも紹介すると言われたが丁重に断った。残ったとして多分あのボスがこの先俺に仕事を回したとて上手くいくはずがない事は明らかだった。

 俺の再就職のこともあろうと2週間で何とか手続きをすると言うことになったので、めでたく年内に無職になる事が決まった。


週末仕事帰りに以千佳が家に寄り、軽くつまみながら飲んでセックスをした。翌日は映画でも観ようと言っていたが、以千佳が急遽会社に呼び出しを喰らい、名残惜しそうに出ていったのを見送ったのが1ヶ月前だった。

 何ひとつはっきりしない中で愚痴や悩みを以千佳にぶつけていいものなのか、退職してから間も無い期間でこんな事を言うのもみっともない気がして遂に言いそびれてしまっていた。

 呼んでくれたにも関わらず一度断ったデザイン事務所を経営する先輩に頭を下げに行った。「お前は小規模な事務所が向いてるよ」ともう一度手を差し伸べてくれた。受け容れやら仕事の立て込み具合やら勿論あるようで、1月は週3日程度のバイト扱いで2月から正式採用という事になった。それも先輩の少しゆっくりしろ、という心遣いだった。


 23、24と泊まりで出掛けるので空けておいてくださいと言われていた。

 1年で最大のカップル需要の繁忙期に諸々予約とか絶対無理しただろう。水を差すようで何も言わなかったが、怒涛のようなこの数週間でだいぶ疲弊し、正直クリスマスに出かけるようなハッピーな気分になれなかった。

「しばらく連絡出来ずすみません、明日昼頃迎えに行きますね。真白さんに早く会いたい」

「色々ありがと。んじゃ待ってる」

こんな時電話だと声色で気持ちがバレてしまいそうだが文字なら何とか隠せる気がした。

メッセージを送ってしまうと何だか寂しくなる。

 ああ、俺もずっと以千佳に会いたかったのだとその時解った。

 

翌日以千佳はレンタカーで迎えに来た。「真白さんの車だと結局真白さんが運転しちゃうから」というよく分からない理由だった。

ディナー用にジャケットと革靴を一応持って行ってくださいねと急に言われ、慌ててクローゼットの奥から黒いジャケットを引っ張り出した。

「一体どんなとこ連れてく気だよ」

「何かいつにも増して隈凄いし疲れた顔してますね、温泉浸かってゆっくりしましょう」

俺の質問には答えず、顔を寄せてキスをすると俺の手から荷物を取って「じゃあ行きましょう」と笑顔で言った。

 到着したのは長野にあるリゾートホテルだった。

「もうちょいこじんまりしたところが良かったんですけど、時期的に取れなくてすいません」

「いやいや、すごくね?」

鬱蒼とした木々が茂るエントランスを抜けると既に夕方に差し掛かり薄暗くなった中にライトアップされたホテルが現れた。

 チェックインのピークは過ぎていたのでロビーは静かだった。以千佳がフロントで手続きを済ませ戻って来ると部屋に向かった。

 部屋は12階で充分に暖められていた部屋の大きな窓からはライトアップされた庭園の奥に黒い森が見えた。テーブルにはウェルカムドリンクとフルーツの盛り合わせが用意してあり『Happybirthday MASHIRO』とプレートが乗っていた。驚いて固まっていると以千佳は後ろから俺を抱きすくめるとお誕生日おめでとうございます。たくさんお祝いさせてくださいね、と恥ずかしげもなく言い放った。

「お前、ちょっと俺の誕生日ごときにやりすぎだろ」

慌てて言うと

「今年忙しかったし、真白さんのデザインしたシェーバーでボーナスも結構出たので、いいじゃないですか。真白さん功労者なんだからちゃんと恩恵受ける権利あるし」

 そんな事より、と俺の耳殻に唇を充てると夕食は8時だからそれまでゆっくりしましょと囁く。時計を見ると5時を回ったところだった。


「だからすいませんって」

「別に何も言ってないだろうがよ」

「いや、もう顔が怖いですって」

抜きっこしましょとか言いながら以千佳は俺のを咥え、指で散々後ろを弄りまくり2回もイカされその上潮まで吹かされた。怒ったっていいだろう。


 華やかなフレンチオードブルの説明を一通りして給仕のスタッフがテーブルを離れた。

鮮やかなグリーンのテリーヌを口に運ぶとさっぱりとした酸味と塩味が口に拡がった。

「こんな食事いつぶりだろうな」

 ぽつりと呟くと向かいに座る恋人が嬉しそうに笑った。ちゃんとしたフルコースでメインは魚と肉と両方だった。

「めっちゃ種類多いけど量少なめでちょうどいいわ」

「肉か魚か選んでも良かったんですけど、ちょっと欲張っちゃいました」

「確かに、鯛も鴨も選べんな」

「真白さん、ワインもう少し飲みます?」

「うん。以千佳さ、この後バーで1杯付き合ってよ」

 そろそろ真面目に仕事の話をしなければと思っていた。デザートはクリスマス仕様だったが、ここでも「Happy birthday」と書かれたプレートが現れた。恥ずかしくて直視出来ずにいる俺に給仕の女性が「お誕生日おめでとうございます」とにこやかに言い去っていくと以千佳がニヤニヤしながら「見せて下さい」と言って嫌がる俺に皿を持たせて写真を撮った。


 バーは照明を落としていて静かに話をするには良さそうだった。カウンターに座り、俺がロックを頼むと以千佳も「同じものを」とバーテンに伝えた。

「今日はさ、ありがと」

「あれ、まだまだこれからなんですけど」

戯ける以千佳に「変態」と横目で窘める。

「…何か話があったんじゃないんですか?」

やれやれお見通しだ。観念してここ数ヶ月のことを掻い摘んで話した。

「真白さん、ごめんなさい」

話終えると思い詰めた表情でそう言った。

「え?何が」

「元気ないなとは思ってたんですけど、自分の忙しさにかまけてちゃんと真白さんに向き合ってなかったって」

「え、いやまぁでも自分の事だし」

「でも真白さんの中に辞めるって選択肢があって良かった」

「まぁ結構頑張ろうかと思ってたんだけどさ、こないだわー!もう無理だわってなってさ」

「あなた自分で思ってるよりずっと繊細なんですから」

そう言うと膝に乗せていた俺の手に手を重ねた。

「先輩のところ決まって良かったけど、もう少しゆっくりしても良かったんじゃないですか?」

「うーん、2ヶ月ロクに仕事してなかったから何か早く普通に仕事したいんだよな」

「ホント社畜体質ですよね」と笑った。


 部屋の内風呂は広く、男二人が湯船に浸かっても充分余裕があった。以千佳が持ってきた入浴剤を入れると湯がトロトロになった。

「ひえ、これが噂のローション風呂」

「じっくり解しますね」

以千佳はそう言って俺を膝に乗せ、後孔に指を滑らせた。

「んん、はぁ、あっ」

触られることで上がる体温と温めとはいえ湯船の中だ、身体はすぐに火照り頭はぼうっとしてくる。

「さっきしたからもうトロトロで気持ちいいですね」奥深くに差し込んで中で指を拡げると卑猥な音が聞こえた。

 ベッドに移っても以千佳は前戯を続けた。

「以千佳、もういいって挿れろって」

奥が疼いて堪らなくなり焦らす以千佳のペニスを握って、後孔に宛がった。

「真白さん可愛い。でも欲しいのはもうちょっと待って」

そう言うと俺を俯せにして舌を捩じ込んだ。

こいつの執拗な愛撫で数ヶ月の内にすっかり開発されまくった身体は憎らしい程に以千佳を求めてしまう。

俺はもう二度と女は抱けないだろう。


「考え事?もの足りない?」

気づいた時には既に遅く、一気に奥まで挿入した。パンっと乾いた音がして身体を起こされると目の前がチカチカした。

「てめぇ、久しぶりなんだからもちっと優しくしろよ」

「じゃあ俺に集中してください」

ツインベッドルームで部屋にはベッドが2つ並んでいるが、ベッドの幅は広く男二人が乗っても十分に余裕がある。繋がったまま俺を仰向けに転がすと今度はゆっくりと奥深く突いてくる。

 一定のリズムで突かれると次第に全ての感覚がナカに集中して行き、何も考えられなくなって行く。

「あぅ、んんーー、いちか」

「真白さん、気持ちいいですか?」

「うん、きもちぃ、はぁもっと…」

そう言うと以千佳は身体を寄せて俺を抱き竦める。角度が変わり、より深く侵入したまま動きが止まった。

「深ぁ、ん?何、どうした?」

以千佳は身体を付けたまま、今度は顔を寄せて深いキスをした。

「24日です。真白さん、お誕生日おめでとう」

ベッドサイドの時計から視線を戻すと今度は唇を食むように角度を変えて何度も口付けた。


その後のことは曖昧だった。多分3回はイカされ、以千佳も確かそのくらいゴムを変えた。

目覚めると使わなかった方のベッドで横になっていた。身体は拭いてくれたのか不快感は無かった。寝返りを打つと「真白さんおはよう」と頭上から聞こえた。上を向くと「32歳おめでとうございます」と言うので

「去年はまさかお前のチンコをケツに入れてるとは夢にも思わなんだよ」

「はは、俺もです。夢叶って嬉しいです」

そう言うと腕枕にしていた腕をグッと引き寄せて俺を胸に抱いた。来年も再来年も一緒にお祝いしますからと言うとまだ眠そうに小さく欠伸をした。

「どうせギリギリまで忙しかったんだろ?もう少し寝てろよ」

「んー、そうします」

うとうととする以千佳に

「以千佳、ありがと」

耳元に囁くと

「あれ?それだけですか?真白さんからキスして欲しいなぁ」

珍しくそう甘えた声を出した。仕方なく触れるだけのキスをするとこれからはもっと真白さんからしてくださいとかむにゃむにゃ言いながら眠ってしまった。

俺も以千佳に話してしまった安堵でだいぶ気が抜けた。

身体を伸ばして薄い唇にもう一度キスをすると、温かい胸に顔を埋めて目を閉じた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

monochrome dawn 雨ノ森 @amenomori_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ