死んでらぁ
愛する夫を亡くしてから
やっと一年季節が巡った
忘れ形見の娘がふたりに
毛並みの整った猫が一匹
緑映える庭を造る使用人
モーニングティータイム
財力ありきの華美な日常
それが今では枯れ草乱れ
食器を洗う者も去り行き
夫亡きあとは友人知人も
我が家寄り付く暇は無し
残ったのは優美な記憶と
とうに流行りの過ぎた
虚しさ誤魔化す嘘を付き
補充のない財も直ぐ尽き
そんな折、立派な馬車が
私の目の前揺らりと停車
出てきた紳士が言うには
彼も妻を亡くしたらしい
「僕には娘がひとり居ます
それでも良ければどうか
きみの娘も一緒に連れて
僕の屋敷に参りませんか」
連れて来られた屋敷には
長テーブルにオードブル
シャンデリア踊る銀食器
これら全てが、私のもの
あゝ神様なんという事を
再び私に栄華を下さる?
記憶にこびり付いた贅沢
そんな
視線をずらして横を見る
そこには微笑で会釈する
見目麗しい少女がひとり
少女は儚げでしとやかで
可憐で優美でガラスの瞳
それに比べて私の娘達は
いたずらっ子のならず者
少女は私を求めて懐いて
私も少女に愛情を注いだ
心が通うのに時は要らず
少女と私は母娘になった
そうしてしばらく経つと
なにやら違和感を覚える
少女の顔に腕に足に背に
青い痣が日に増えるのだ
どうしたの? と訊くも
なんでもないわ、と少女
どうもなにかがおかしい
どうもなにかがおかしい
私はそっと夜中に起きて
少女の部屋を覗き見ると
そこには腕を振り上げて
罵声を放つ鬼の形相の彼
「なぜ言う事を聞けない?
なぜ言う事を聞かない!
早くふたりの娘を殺せ!
母親諸共、殺してこい!」
衝撃の場面に息を呑んだ
頭の理解が追いつかない
耳をすまして詳細探れば
彼の冷たい声はこう続く
「お前の母親が死んだのは
全てあいつの夫のせいだ
お前の母とあいつの夫は
僕に内緒で愛し合ってた
だから俺はあいつの夫を
探して殺してやったのさ
事実告げるとお前の母は
自ら命を絶つ事を選んだ
全ては復讐、因果応報さ
理解したのなら今すぐに
継母とその娘たちを殺せ
それでこそお前は僕の娘」
そうして彼は少女を殴る
私は恐怖に震え目を瞑る
翌朝起きて食卓につけば
そこには偽りの笑顔の彼
気づけば私の二人の娘も
虐めいたぶり少女を殴る
どうしてこんなことに?
どうしてこんなことに!
……そうだ、守るべきは
娘たちではなくこの少女
心の優しいこの少女こそ
かけがえのない私の宝物
二人の娘を推すフリして
私と少女も共に舞踏会へ
そこで出会った王子様は
果然少女に目を奪われる
さあ行って、王子の元へ
後はこちらに任せなさい
非道な彼と我が愚女達は
私がすべて請け負います
夜深の鐘で魔法が解けて
血飛沫滴るシャンデリア
ナイフ片手に踊り狂うは
淑女のフリした
【短編連作】シン・むかしばなし 千鶴 @fachizuru
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