岩船
文重
岩船
夜半に降った雨が山道を濡らし、みゆきは積もった枯れ葉に何度も足をとられかけた。夜が明けたとはいえ、未だ厚い雲が太陽を覆い隠し、鬱蒼とした竹林の中はほの暗いままだった。
誰とも行き交うことなく、しんと静まり返った獣道を黙々と登る。誰かいてくれれば心強いのにと思う一方、この狭い一本道で誰かとすれ違うのもそれはそれで恐ろしい気がした。ここで殺人鬼にでも遭遇しようものなら逃げ場はない。殺人鬼に会わなかったとしても、足を滑らせたらそれこそ奈落の底に真っ逆様だ。
気ははやるものの、転ばぬように慎重に歩を進めるうちに、ようやく竹林の間から明るくなった空が見えてきた。
「みゆき、こっちこっち!」
「遅いじゃない、みゆき!」
忘れ物を取りに戻ったみゆきを置いて先に辿り着いていた2人が、生まれたままの姿で岩の上から手を振っている。
「こんなところに露天風呂を作った人の気が知れないわ!」
みゆきの口から思わず恨み言が漏れた。
岩船 文重 @fumie0107
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