第5話

 とある日、さくらからLINEが来た。二人で会わないか、という内容だった。ぼくは労働により疲れ切っていたので、良い気分転換になるだろうと思い承諾した。彼女は自由が丘に住んでいるらしい。ぼくは洗足に住んでいるわけだから、近所ではないか。ぼくらは大岡山で会う約束をした。彼女がぼくのアパートに来る可能性を考慮して、アスカのフィギュアを押入れにしまっておいた。

 土曜日、ぼくは約束の五分前に大岡山駅前に着いた。すると後ろから肩を叩かれた。「お兄さん、久しぶりっ」さくらだった。ぼくは「早いね、待たせちゃったかな」と応えた。ついさっき来たところだよ、と彼女は言った。「お兄さんの歌、また聴きたいな」と彼女が言うのでまずはカラオケに行くことになった。

 ぼくはKinKi Kidsの「to Heart」で98点を出した。さくらはすごいすごいと感嘆したが、ぼくはやはり悔しかった。また百点じゃないのか。完璧に歌ったつもりなのに。「お兄さんはどんな曲を聴くの?」と彼女から問われたので、ぼくは椎名林檎だよ、と答えた。そうしたら彼女は、「じゃあ歌ってあげる」と言い、ぼくのリクエストに応え「丸の内サディスティック」、「茜さす帰路照らされど…」を歌ってくれた。上手かったが、椎名林檎の特徴を捉え損なっていたのが残念だった。それでも彼女の好意が嬉しかったので、ありがとう、と拍手を添え言っておいた。

 二時間が経ったので、ぼくらはカラオケ屋を出た。次は居酒屋へ行くことになった。さくらは童顔なので、ぼくはてっきり高校生くらいに思っていたが、実は二十歳の大学生である由。彼女は、ファッションセンスにやや難があるが(いわゆる量産型女子大生だ)、顔はかわいい。そしてフェラチオも上手い。告白されたらどうしようかと考えていると、一杯目のビールがやってきた。二人の再会に乾杯すると、彼女は一気にビールを飲み干してしまった。そして「くぅ〜」などと言うので、エヴァンゲリオンに登場する葛城ミサトみたいだな、と思った。ぼくは、「きみ、学部は? 何を研究しているの?」と訊いた。「文学部。研究って訳じゃないけど、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』を読まされてる。ぜんぜん面白くない。わたしはライトミステリの方が好き」「じゃあ青崎有吾だ」「あー! 『体育館の殺人』は大好き!」読書という意外なところで趣味が合ったため、ぼくは嬉しくなった。その後もぼくの、本の推薦などで会話は弾み、あっという間に二時間が過ぎた。

 居酒屋を出たが、さくらは泥酔していた。「お兄さんの家近いんでしょ。泊まらせて〜」やはりこうなるか。「一駅分だし、酔い覚ましに歩いて行こうか」ぼくは提案したが、彼女はすべてどうでもいいような状態だった。帰り道も賑やかだった。ぼくの軽口に、彼女はいちいち大声で笑った。楽しかった。ふと、手を握られた。ぼくも握り返した。照れた彼女の顔も可愛かった。自宅に着いた。二人で居間に入ると、急にさくらはぼくに抱きついてきた。「今度はイカせてあげる」

 やはりさくらのフェラチオは上手かった。ぼくは身体を180度回転させ、シックスナインの体位を取った。ヴァギナにしゃぶりついてやると、ん、ん、と彼女は喘ぎだした。五分くらいそうしていたが、まだぼくは射精できない。彼女は身体をビクン、ビクン、とさせ「いっちゃったぁ」と言った。そして「もう入れてよう」と言うので、ペニスをヴァギナに挿入した。十分ほど、体位を変えつつ腰を振るぼく。彼女は二度目の絶頂に達した。「まだイカないんだ。じゃあ口でしてあげる。そのまま出しちゃっていいからね」と彼女は言い、またぼくのペニスをしゃぶりだした。なぜぼくはセックスで射精ができなくなってしまったのだろう。精神分析の教えによれば強迫神経症ということになるのだろうか……。「ごめん、おしっこしたくなっちゃった。トイレどこ?」とさくら。そこでぼくは閃いた。「良いこと思いついた。ちょっと待ってて」ぼくは彼女から離れバスルームに向かった。そこで洗面器を取り、戻ってきた。「ここにおしっこして」「は? 嫌だよ。トイレ貸してよ」「いいからいいから」逃げようとする彼女の身体を押さえつける。「漏れちゃうよう」彼女は泣き出した。そして洗面器にチロチロとおしっこの放物線を描いた。ぼくはそれを見ながらペニスをしごき、射精した。彼女は泣いていた。ぼくはどう声を掛けたら良いかか分からず黙っていた。やがて彼女はパンティをはき、服を着て、「変態。気持ち悪い」と吐き捨て去って言った。(了)

 

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羅刹国 片山勇紀 @yuuki_katayama

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