あとがき 四月と七月

 ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました。

 ここではまず、二〇二四年四月完結時点の後書き、さらに改稿後の七月の追記がございます。カクヨムコン10の参加に際し、少々手直しをしております。


 *

 この作品は当初、二〇二〇年のKACにて書いた短編二篇でした。冒頭「月下の桜」および、中盤の「熱と代償」の一部、メリーノが可哀想な回がその時に書いたもの。合わせて一万字ない分量。

 その際に「長編になりそう」「長編化」のお言葉を読者様からもいただき、当時から構想があって、まずは「賢いヒロインコンテスト」で五万字。当コンテストで求められる作品にはならないだろうと、カクヨムコン9を見据えて書き続け。

 コンテスト中には終わりません、二月中に終わらせます、三月には、イースターには、と言いながら長引き長引き。

 ついに蜜柑桜未曾有の二十二万六千字ほどとなりました。

 一年に長編は一本のわたくし。

 二本分ではないですか。



 KACの頃からだったと思いますが、セレンが教会に属する人物であること、しかし教会の上部組織そのものが腐っていた背景は決定していました。そして長編執筆の際には、私は常に最初の時点で終盤が頭にあって書き始めています。

 つまり、作者の中では冒頭から、クルサートルの絶望と自責がある。書いていて不憫でしたね。彼に憑依されるほど。


 いつも通り後書きにて、テーマに関して少し。物語から読み取っていただく内容とも思いますので、飛ばしていただいても構いません。


 まずお断りしておきます。蜜柑桜は無宗教です。お墓だけ仏寺ですが、特定の宗教に対する信仰はありません。

 そしてこのお話のテーマは信仰ですが、現実の特定の宗教について語っているのではありません。私が西欧に馴染みが深いため、教会の建築描写等はキリスト教会がモデルになる部分もありますが、キリスト教と直接の関係はありません。

 また、私は特定の宗教を否定する気は全くありません。また、特定の宗教をとりたてて奨励する気もありません。


 信仰に絶望し、教会を厭い神を呪うクルサートルと、神の名のもとに信じることを手放さないセレンと、両方とも人の心だと思います。

 信仰は人を救うことも大きいと思います。セレンの言葉で語らせたように。救いがあると思えば頑張れる。

 一方、信仰の名の下に、争いや簒奪、差別が行われてきたのも歴史的事実だと思います。

 そして悲しいことに、現代もなお、そうした行為は消えていないのではないでしょうか。

 神がいるかどうかは私たちには分かりません。しかしもし神がいるとしたら、それは御心でしょうか? 

 神がいないとしても、やっていいことでしょうか。

 

 神の存在は見えません。人の心も同じ。邪推と疑念とが膨れ上がれば不安になります。

 信仰と関係なく、そうだと思います。

 私もそうです。本作は自作中でも一番のシリアス展開となり、読者様も静かに読んでくださっていました。良いのかな、ちゃんと面白いかな、不安が大きくありました。

 でもそれが、没入して読んでくださっているのだということが分かり、書き続けて来られたのです。

 簡単なことではないかもしれないけれど、きっかけがあれば気持ちも変わるし、信じられると思います。


 書きたいことは山ほどあるのですが。

 珠を三つとか二つにすれば早かったのに……ですがそうはいかなかったのでした。

 この話の基本材料として、有名な四元素の考えがあります。リストの交響詩『前奏曲』はもとより彼の男声声楽曲『四大元素』の序曲として作られましたが、声楽の付された詩はオートランの詩『四大元素』。各元素が何を表すのかは諸説あります。


 しかし本作ではお読みいただいた通り、もう一つ、がありました。

 思想において、四大元素を総べるもう一つを加えた五大元素の考えがあります。アリストテレスほかのヨーロッパ思想がそれ。五つ目を上位に置くかは別として、五つの考えは道教や仏教にもあります。

 作者は四大元素も五大元素も信奉しているというのではありません。全否定もしません。面白い考えだと思います。本作を動かす鍵として使いました。


 そしてそして……このお話は初めてづくし、挑戦づくしになりました。

 まず、二十万字越えの長編は初めて。

 ここまでのシリアスも初めて。

 ジュブナイルではない大人めな話に挑戦してみたかった。

 戦うヒロインも初めて。

 さらに……


 まさかこんな恋愛要素が強くなるなんて思わなかったよう……自分史上最も恋するヒロインが生まれました。

 さらに気がついたら、ヒロインが二人の男性から熱烈に想われているとかいう。溺愛ものを書くつもりはないしそうしたつもりもないのですが。

 どうしようもない男たちが爆誕しました。

 ちょっとそこに正座しなさいバカサートルとダメリーノ。あなたたち純情なセレンを困らせてどうするの。

 メリーノはKACの時に既に好色馬鹿が決定していたので、私が吐き気催すほど気持ち悪い書き方しなくてはいけないところも出てきちゃったし。

 クルサートルは裏の事情で闇堕ちしているので、もうねえ、って感じなんですがところどころで暴走するし。いやでも、この人に関しては事情がありましたので、読者様から「もっとはっきりしろよ」なお声をききつつ、「彼が一番辛いんだ……なんて不憫な……」と同情を禁じえませんでした。

 一方でメリーノは長編構想が立った時点でああなる計画でしたので、後から評価上がるんだろうなぁ……クルサートル不憫な、と。

 ちなみにメリーノは、三角関係の「当て馬」とした意識がありません。そもそも当て馬って概念が自分にはなくて。まあもともとここまでの三角関係にするつもりはなかったですしね。そんな意識生まれようもなかった。

 メリーノも一人の人間。きっといい友達になれるのでは。


 予想外に出てきちゃったのはメリーノ姉です。当初は友人男性にしようと思っていましたが、男多すぎ問題(よくやる)から女性。姉にしちゃえと登場直前に決まったとか。

 もうお一人はクルサートルの側近。もとはフィロの彼氏がクルサートルを諭す人になるはずでした。上司に対して歯にモノ着せない部下ができました。あと衛士。私はどこまで脇役が好きなのか。

 お気に入りはミネルヴァ先生です。


 話の構成も長く、本当に読者様に面白いと思っていただけているのか——自信が無いから不安ばかりが募って、未曾有の苦しみを味わいながら、完結までこられて良かったです。大切な物語になりました。

 セレンの素性や、もう一つの宝にお気づきだった方はどれほどいらしたのでしょう。


 最後の前に一言。

 世界で起こっている宗教や信仰が根幹にある、またはそれを理由にした戦争、そして人種や国の別から起こる紛争、迫害、その他。

 いますぐに、やめて欲しい。



 そしてあとがきの最後にひとこと。


 読者の皆様、本当に、本当にありがとうございました。いただいたコメント、レビュー、近況ノートやSNSでの励まし、時に泣きたくなるほどでした。執筆を続け、完結できたのは皆様のおかげです。


 それではまずはこの辺で。最大級の感謝を込めて。満開の桜からの花吹雪が美しい、晴天の日に。


二〇二四年四月九日 佐倉奈津こと蜜柑桜 拝🌸


🍊🍊🍊七月追記🍊🍊🍊


 桜の時期が去り、夏みかんの酸っぱさが美味しい季節、灼熱の八月手前です。蜜柑桜です。

 カクヨムコンのち、五月にはすでに月色乙女の大改稿が始まりました。長編ファンタジーコンテスト開催、また他サイトさんのコンテストも視野にあったのですが、とにかく書き直し。

 そして驚く誤字脱字の数々。後から判明したところ、私の執筆アプリがパソコンとモバイルの間で正しく同期されず、せっかく直したところが全く反映されずにカクヨムコン期に掲載されていた章多々……と思われます。単純な見直しミスではすまなかった量なので。反省とともにいい文章をお届けできなかったこと、非常に悔やまれます。


 改めまして、話を冒頭から全面的に直しました。散りばめた伏線をさらに深めたり、因果関係を明確あるいは論理的にしたり。

 こだわったのは心情描写でした。もっと深くしたかった。

 そして出来上がったと思ったらおよそ二四万字。全101話。


 改稿最中にも不安が増すばかりでした。「最後になってこの話はどう映ったのか」という全体の読後印象、満足度が他の長編に比べて手探り感が強かったのです。

 全体としての合格点にいけたか、自問自答しつつ……


 スピンオフで書いていた最終話も大幅に直して、エピローグに加えました。

 改稿していく中、もっとセレンの奥底にある弱い部分もちゃんと描いて、最後は救ってあげたかったのがあるのだと思います。やっと居場所を得られるように。

 最後の新しいエピローグで、ようやくそこまで書けたと思っています。


 なんだかんだいって人を生かすのは、自分の居場所なのではないか。個人的な意見ですが。


 さて、本編終了後、苦しみの本編の反動でふざけたスピンオフが沢山できました。


✨ 「神の祝福」

https://kakuyomu.jp/works/16818093075368850284


 本編は緊迫しておりましたが、こちらは後日談。多幸感いっぱいの日常です。フィロの作ったドレスと、それを着たセレンと、そしてクルサートルです。

 羽間慧さまが本編途中で「クルサートルにはセレンに夜会用ドレスを作ってあげて欲しい」とおっしゃってくださり。ならば! と。

 極甘特濃です。


✨「因縁が何かに変わる手前」

https://kakuyomu.jp/works/16818093076869158820


 クルサートルとメリーノの騒がしい平和な喧嘩です。

 夜会にて、酔っ払ったメリーノ相手にクルサートル対峙。笑ってください。


✨「日常と非日常の狭間」

https://kakuyomu.jp/works/16818093081221883275


 エピローグ直前のセレンとクルサートルが昼食を食べている時。セレン視点です。ここで仕事に行くとか言っていた勤勉な男が……苦笑

 文字通りセレンの神頼みは効かず。



 とくにメリーノとクルサートルのバトルは笑って読んでいただきたい! と思っています!

 ぜひ、遊びにいらしてください。

 少しでも多くの方に響きますように。


 冷凍みかんが食べたい蜜柑桜より大感謝をこめて。


 灼熱の七月二十七日 電車の中より。


 蜜柑桜拝🍊🌸

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