第9話 最終話

「今日は金曜日だから、明日は土曜日だ」

『やっと休みだな、三連休だ。』


 明日から三連休がやって来る。

先週の土曜日は仕事だったから、今週はとても長く感じた。

今日は飲み会もないし、溜めていたサブスクの週刊マンガを全部読んで、遅くまで起きてよう。

 土曜日は彼女と昼頃合流して二人でキャンプして、日曜日の朝ごはん楽しみだな。なんだか日曜日のこと考えるとすごく憂鬱になってきた、でも月曜も休みだし、、、


 人類がループし始めて〇〇年が経った。

どうして俺がこんなアホみたいなことを考えているのかというと、

結果的にループしていることを忘れるようになったのである。



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 人類が宇宙空間に解決策を探し飛び出してから、数万年経った。

壁にぶち当たっていたのだ。


 情報の波は限りなく速さを増したが、我々人類の移動速度は光速を越えられなかった。はるか昔に分かっていた事が、どんな技術を持ってあたっても乗り越えられない壁として立ちはだかっていた。

 情報の波により、宇宙にはかなりの数で我々のような知的生命体が存在し、返答をよこすもの、全く反応のないもの、様々だったが、24時間で到達できないものには会いに行けなかったのである。

 情報の波に改造を試みたが、ものすごく時間がかかった結果、答えはそこには無かった。


 もうどれだけ時間が経ったのかわからない。

X に今何回目の金曜日なのか、カウントをつけるやつもいなくなり、ほぼ植物のようになった人類には、虚無感が蔓延していた。


 虚無の象徴はこの手に持っているスイッチだ。

そしてどうやら俺たちは本格的に死ねなくなった。



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 最初の変化は、出勤する男だった。

そいつはネクタイを締めて、

「一年中クールビズがいいな」

などとブツブツ独り言を言いながら走っていた。

ほぼ木になった俺たちはそれを、口を開けて見ていた。


 そこからポツポツと、ループ以前の生活を模倣しているような奴らが現れて、ついには地下鉄やバスが動くようになった。


 俺たちはループしているという苦しみから逃れるため、ついにループしていることを忘却できたのだった。

 なんの苦しみもなく、軽やかに。

 昨日まで封筒から頭がピョコッと出たような服を着て宇宙船を運転していた男が、作業着で朝のバス停に並んでいる。

 全ての人類と心を通わせた女が、死ぬ寸前の表情で地下鉄のラッシュアワーに飛び込んで行く。

 飲酒運転に轢き殺されても笑って許していた男が、コンビニの外国人店員に鬼の剣幕で弁当の温めがぬるいとまくし立てている。



 そうして俺たちはループしていることを完全に忘れ、来る日も来る日も全く同じ日を繰り返した。

 環境問題も、人権問題も、全て解決まで導びく理論をもち、優れた技術を自動で構築する体制を築き上げた人類は、永遠に続くという恐怖に勝てなかった。

全て捨てて、アホだったあの頃に戻ることを自然と選択したのだった。



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 こうしてループは参加者が全員その存在を意図的に忘れ去った時、消え去った。

僕たちはいずれ滅びてしまうかもしれないし、

いつかループしていた頃と同じ文明水準までたどり着くかもしれない。


あなたは自分がループしていないと証明できますか?

無事明日にたどり着けますように。



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今日は金曜日だから、明日は土曜日だ 牧場 流体 @liftdeidou

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