第8話 パンクなマンション

 宇宙人たちが俺たちに技術を授けてから数週間が経った。

俺たちは一通り体が爆発する感覚を楽しんだのち、宇宙人たちからのギフトを開封し始めた。

宇宙人たちも日進月歩で技術を磨いているはずなので、うかうかしていると全く不本意なタイミングでループが終わってしまう。

 ループボケがかなり進行していた地球人には久しぶりの冷や汗をかくスリルだった。



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 ということで、ギフトの開封と解析はすんなりと済んだ。

彼らは宇宙空間と大気圏で速さの異なる波を使い、宇宙空間を光よりも早く通信する技術を持っていた。

 しかし、光より早い情報の波は大気圏に入るとその速度を犠牲にし、情報の保護にエネルギーを全振りするので、地球のような星では外からの書き込みができないらしい。なのでネットワークの解放を要求して来たみたいだ。


 それほどの技術があれば、問答無用で地球に到着次第、物理的にネットワークを乗っ取ることもできたのだが、ギフトの情報によると、彼らは所有権や自らの気付き・納得をとても大切にしていることがわかった。

 素晴らしい考え方だが、明確なやるべきことと手段を与えられた俺たちは、もう思考のフェーズにはいなかった。

 速攻で準備を済ませ、まず24時間以内に宇宙船をどれだけ早く作れるか、宇宙船作りタイムトライアルを開始した。


 人類の数だけ、オリジナルな宇宙船ができた。

みんなでアドバイスし合い、みんなが思い思い作った。


 最初に24時間以内に宇宙船を完成させたのは36歳の香港人の女性だった。彼女は屋上にあったサウナテントと薪ストーブを組み合わせ魔改造し、23:59に丁度地面から3cm浮いていた。

 リセットした瞬間みんなで祝福に向かった。


「着想がいいよね。ロケットって感じじゃないし、何かメッセージ性を感じるね。」

『ありがとう!東アジアのスチームパンクが着想なんだけど、昔あった九龍城砦という建物に模したわ。新宿マンションという名前があるの。』

『誰も拒まずに、全員受け入れて縛られずに行こうって考えを表しているわ。』


「いいね。どうして新宿なの?」

『なんかカッコ良いじゃない?新宿ってクールだわ。』


 ちなみにスチーム要素は静止した時に、無数に空いた入口から完璧なランダムで蒸気を吐くところらしい。見てみたいが改良中で見せられないと言われた。

 遠くへ行けそうな印象はまるで感じないが、彼女のモノづくりへの情念に敬意を示し、

「私もあなたのような温かい心で、ものづくりに励むよ。」

とお礼をし、握手をした。

「是非、次の打ち上げは俺も乗せて欲しい。君の新宿マンションは拒むかな?」

『いいわ。私たちの乗り物は誰にでも開かれているのだから。』


 次の打ち上げの時、俺は大火傷を負いながらスチームと一緒に空中に放り出された。

「パンクだったぜ!」

めちゃくちゃ刺激的な乗り物で、打ち上げに参加したみんなで打ち上げの飲み会をしたが、大いに盛り上がった。 


 自分のロケットの制作に戻った。

俺のロケットはレクサスのエンブレムの形で作っていた。

理由はレクサスが格好いいと思ったが、車種とかはわからないため、リスペクトを込めエンブレム自体を船体にすることに決めた。元々ない知識を後から思想のために付け足すのはナンセンスだ。オリジナリティを大切にしたい。

 動力はもちろんディーゼルエンジンだ。レクサスといえばディーゼルだろ?


 しかしこの選択のため、俺の宇宙船作りは非常に困難を極めた。

 詳しいことは省くが、ディーゼルエンジンで宇宙に行くためには大きな燃料タンクが必要で、それを浮かすためにはさらに大量の燃料が必要だというジレンマに突入してしまった。

 エネルギー還元効率を極限まで最大化させた結果、宇宙船どころかハンドスピナーくらいのレクサスのエンブレムが出来上がった。


 丁度その頃、宇宙船の原型が大体絞れたから、みんなこっちを参考にして取り掛かって、と通信が来た。

 それはレクサスのエンブレムとは程遠い、流線型だったり薄い板状の無機質な形だった。


 まあ、諦めも肝心だ。と自分の宇宙船作りは一旦やめ、最後にハンドスピナーくらいのレクサスのエンブレムを飛ばしてみた。

 一瞬で天高く上り見えなくなった。

気分は悪くない。内装を少し凝ろう、と考えリセット後から開始できるよう、原っぱに寝転んで構想を練ることにした。


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 そこから数100年で人類は24時間以内に宇宙船を作り上げ、打ち上げ、そして情報の波に反応があった星を片っ端から回った。


そしてまた数万年が経過したが、ループが終わることはなかった。



続く

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