第5話 - キルカーン・アラクネ


「ピ。。」


 サルバと一緒に閉じ込められたアポにもサルバの感情が伝わっていたからだろう。既に湖で体力を使い果たしたアポも悲しそうにサルバを見ていた。


「俺が死ぬことはいい。サルバと話をさせろ」


「うるさい!何も話すな!力を使うそぶりを見せても殺す!目を合わせても殺す!」


 ひざまずいて下を向いていたオハンだったが、アラクネの声とガレアの流れから彼女の状態が正常ではないとすぐに分かり、諦めたように話し続けた。


「わかった。でも俺が死んだら息子は生かしてほしい。お前の部下は全員殺した小さい子供を1人生かしてもバレないだろう。この場で騎士として誓え。。そうすればお前の望み通りにしてやる」


「下民が指図をする位置にいると思うな!それは私が決めることだ!」


「誓え、守らないのであれば殺す。これは本当だ」


 破壊的な殺気がアラクネを再度襲った。ただの声のトーンが変わっただけなのにもかからわず息をしないとこのまま死にそうなくらい重たい殺気だ。


「わ、、私は貴族だ。自分で決めて自分で行動する。何か指図を受けるならそれは私が仕えるギアリア王国のイステリオン家のみだ」


 震える声を隠すように話すアラクネは最初の威勢よく高貴な立ち方で全てを上から見下ろすかのような姿勢から一転していが、より声だけは大きくなっていた。


「仕方ないか。。。」


「ま、まて!イステリオン陛下に向けて、キルカーンの先祖に向けて誓おう。君の息子には手は出さない。。でも!これは私の意思だ!決してお前に言われてやってるのではない」


「それでいい、どうでもいい。約束を守らなかったら死んでも君を殺す」


「何度も言わせるな!私は誇り高き!」


「黙れ、刀を渡せ、お前らはいつだって誇り高きの意味を履き違えている。手に持ってるものはおそらく神器だろ、神器があってもお前では俺は殺せない。。俺は俺が殺る」


 そして、オハンは声を小さくして下を向き優しく弱いトーンで話し続けた。


「ヒルア、絶対に殺されるなと。。サルバを守ってって言ったよな。今そうする方法がこれしか見つからないな。。11年ぶりに会おう。あの子は君が思っているよりとても強いんだ、俺の11歳の時なんかと比較にならないだろうー。なのに一度も褒めてやれなかったもう少し自由にしてあげればいろんなところに一緒に行ってやればよかったな。。」


 カラン。


 双剣がオハンの視界に見えた。美しい水色の刃で凛と伸びている神器オフイ。癒しと斬られるの相容れない二つの言葉が同時に浮かぶ不思議な感情になる剣だ。


 剣を両手に取ったオハンは顔をあげてまっすぐにサルバを見つめた。サルバが初めて見る最高の笑顔だった。


「サルバ!お前のせいじゃない!お前は強い!お前はお前の夢を追え!必ずできる。俺と。。ヒルアの息子のお前なら!!全部やり遂げてからこっちにこい!」


 そして両手を広げて双剣を高く持ち上げた。


 何度叩いたのだろう、何をしても割れない硬い膜をたたき続けてやめろと叫んだサルバの拳は血だらけになり、声はかすれてほぼ出ない。アラクネにも届かない小さい声だが、一番大きい声で叫んでいる。


「やだ!!いつもみたいに弱いって言ってよ!!強いとか今言うのか!ずるいよ!そう今日すごいことがあったんだ!!私がやりたいこと話してなかったよね!!でも俺は弱いからお父さんに色々教えてもらうんだ!全部話すからあんなやつ倒してよ!!」


 サルバの口元を見て、オハンはもう一度笑顔で笑って話した。


「サルバありがとう!君が夢を叶えて自由に笑う世界を創れ!」


 オハンはサルバの部屋の机を片付けた時に紙に書いてあった自由に笑える世界と書いてある文字を忘れずにいた。わかっていながらも息子に自由を与えることができなかった悲しみを抱えていた父はずっとに胸の奥に閉まっていた本当に伝えたかった言葉を皮肉にも今言うことができた。


 ブスッ。


 双剣を両手で持ち上げたオハンは自分の胸に力強く交差するように刺した。


「やめろ!!!!!!!!!!!!!!!」


 正気では見れない状況に衝撃を受けたサルバは叫んだ直後に気を失い、アポは何も言わずサルバの肩に乗ってアラクネの後姿を凝視していた。


「ほっておけばいつまで喋るんだ下民ども、ここまで聞いてあげたことを光栄に思え」


『アシド・ダンドゥデ』


 膝まずいて双剣が刺さって動いていない状態のオハンをアラクネは更に痛めつけた。決して生き返れないようにと彼女の恐怖が現れていたのかもしれない。


 アラクネが初めて経験した最大の脅威はあっさりとしかしながら深い刻印を彼女に残したの間違いないだろう。光る黄眼の視点の先はオハンを見ていなかった。ただ振り回すだけの攻撃が終わった。


「もう大丈夫だろ。紫眼が。。こんな島に存在してはならない。ギルテの下民に紫眼なんてあってはならない。。いや、最初からいなかった。何かの小細工だったろあれは。報告する内容にも値しない」


 そう言っては気を失っているサルバのところに向かって行き、自分のロングヘアをばっさり切っては燃やし始めた後刀を鞘に入れた。そして、ゆっくりと家紋が刻印されたボタンをサルバの横に置いた。


 その瞬間アポがアラクネの指を噛んだ。


「痛っ、君もこの子を守っているのか。。?サルバと言われていたな。聞こえてないと思うが聞け。この日のことを私はどこにも言わない。誰にも信じてもらえないことだろう。この小さい友人もあの化け物も君を守った。そして君を生かすと約束をした以上私も君の命には責任がある。さらに私は強くなる。あの化けもの。。。いや、君の父親も届かないようにな。君も足掻いて生きろ」


 そう言い残したアラクネは一人でゆっくりと山を下りはじめた。灰眼の偵察隊15人が合計4秒で全滅、実質命乞いをしたのは自分の方。わずか数分で起きたとは思えない状況を消化することはまだ18歳のエリート少女にはできていないだろう。いや。おそらく死ぬまで消化することはできないだろう。


 今日ここで起きたことはどこにも記録として残ることはない。しかし、世界を大きく変えるきっかけとなる日になった。


 アラクネが去ってから3時間が経っている。アポの声と体当たりにも起きないサルバは起きた時に目の前に広がる残酷な現実を直視したくないかのようにずっと眠り続けていた。


■□■□■

<世界観情報> *この時点公開可能なものに限る


①貴族の序列

 貴族は第一~第十三まで番号を持つ、その次にはその家紋を象徴する言葉が前につくが、数字は順番は強いや弱いを意味するものではない。

 ex)第2 花の貴族 キルカーン



  


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