第2話 - 出会い

「いつまで子供扱い。。いつかはあの壁も全部壊してここから出て自由になる。そして、お父さんを見返す。俺はお父さんみたいに何もせずに毎朝起きて不味いスープを飲むだけの生活はしない!自由にいろんなところに行って好きに生きてやる!!」


 サルバは山頂に向かう途中左側の水平線の上に聳え立つ壁に向かって走りながら叫んだ。自分達が住んでいる島のことや世界のことは本ですべて読んで想像してきたサルバはまだ経験していない世界に対しての好奇心が強く。今の環境への苛立ちがあった。


 父の部屋で見つけた本で、十二島ような島が時計のように丸く並んでいると知った時は興奮した記憶もあるが、すぐに島は今サルバの目に映る壁が囲われており島外の人はその壁を『ギルテの籠』といい、その中には罪深く、汚らわしい存在の『ギルテの下民』が住んでいるとして差別をしているということやアコーリ諸国の人々はの生まれた島で生きて死んでいく運命であるということを知った。


 正義感が人一倍強いサルバは11歳になった今年のある日の夜サルバはオハンの部屋に入り唐突に言い放った。


「なぜここで生まれただけで外には出れないの?島の人たちはこんな扱いを受けないといけないの?みんな自由に好きなことをすればいいのに!好きなところで生きていけばいいのに!なぜ王族と貴族に住む場所を決められたり、生まれた場所で決まった生活をして死ぬの。。?世界はこうなの?この本は嘘だよね?だって変だよ!」


 立て続けに疑問をぶつけるサルバの肩に手を乗せてどこか悲しい目をしたオハンはじっとサルバを見つめながら話した。


「サルバ理不尽だと思うかもしれないがそーゆものだ。それが私たちが住んでいる"世界"だ。そして、どんな世界より大事なのが"命"だ。命がないとこうして理不尽だと思うことも感じることすらもできない。命を守れるなら力には抗わない。本で書いてある世界はまだ美しい。本当の世界は更に残酷で不平等だ。生まれた場所や環境で人生は決まるものだ。王と貴族は偉いから決めれるんだ。そこに疑問を持つな。でもここにいるとサルバは絶対に安全だ」


 オハンの話を聞いたときサルバは心の奥で綺麗に抜き取れない疑問が残り続けていたが見たことない悲しそうな目のオハンにそれをぶつけ続けることはできず頷いた。しかし、その時から心の中では強い違和感と自由のある世界で生きたい気持ちがあった。


 その日から数日後の別の日の夜、オハンから直接今の王族と貴族は人間を滅ぼそうとしていたが今の世界を救ったのだから偉い。だからこそ力があると話を聞かされた。でもサルバはオハンの目が真実を言ってはいない気がした。オハンは大きい力にビビっている嘘つきだと思ってからは意見衝突も増えている。


 一方でマリガティア共和国で生まれ物心ついたときには家族はなく、雑用をこなしながらいろんな家を渡り歩きながら育ってきたオハンはサルバの感情に共感できないところも多々あった。参考にできる父の姿が思い浮かばない彼の愛情の伝え方は11歳の少年にはただの息苦しい規制で束縛の抑圧になっていた。


 「ハァ、ハァ、もうちょっとで湖につくぞー最速記録だ!!」


 家から2km程上に登った場所にある湖、晴れた日も湖が終わる場所が見えず、一見海のように広いこの場所をサルバは気に入っている。空の雲も湖一面に映る幻想的な独り占めのテーマパークだ。


 目の前に湖が見えた瞬間、そのままサルバは湖に飛び込んだ。


 「ジャンプー!あー気持ちいい。いつ来ても静かでいい場所だなー。こんなに広いのに魚一匹、モンスター1匹いないのが不思議だな。。まぁ静かでいいけど!最高だああー!」


 少し泳いで前に進んでサルバは家を出るときの行動を思い出した。


 「あ、、戻ったらお父さんに謝っていずれはこの島から出たいと伝えよう。お父さんも話せば絶対理解してくれるはずだ!前回みたいに言わずに出ようとして捕まるのはごめんだ。。まだ思い出すだけでおでこが痛い。」


 20分くらい泳いだだろうか。サルバは水面に一体化したように浮いて空を眺めていた。


 その時だった。


 「ピッ、ピ、ピ」


 初めて聞く鳴き声、サルバは聞き逃すことなくすぐに声に反応した。湖に一人で来るようになって3年。ここに住んでいる初めての"何か"にやっと出会えるのかもしれないと期待感で胸が躍ってきた。


  (湖の真ん中あたりか!?)


 「行ってみよう」


 先ほど聞こえていた鳴き声はその後は聞こえなくなったが、好奇心旺盛な11歳の少年には直接行って自分で確認してみないといけない気持ちが先行してた。音が聞こえた方向へ泳ぎ続けていく。しかし、まだ昼にもなってないのに何故か空が少しずつ暗くなってきた。


 「危ないところには絶対に行くなよ。いつもの場所もいつもと違ったら危ないと思え」


 また変なところに行くなと怒っていたオハンの姿も頭に浮かぶ。


「やっぱりやめよう。。」


 空の色の変化と同時に先程まで少し温かった湖が肌を切るような冷たさに変った感じがしてきたので、サルバは本能的に不安を感じはじめていた。そして、反対方向に体を向けて泳ぎはじめた。


 その時だった。


 「マ・テ」


 静かな湖が強く波打ち、薄紫の光の柱が湖の底からサルバの1mほど前から突き破るように空に伸びてサルバは一瞬気を失った。


 「ピ!ピピ!ピ」


 (うるさい)


 「ピッ!」


  (痛っ、湖の中に落ちたはずなのになぜ息ができる、なんだこいつは。。)


 「お前の鳴き声だったのか。。!でもなんだここは湖の中だよな、なぜ話せて息ができるんだ。。?これもお前がやっているのか!?」


 サルバの前にはピーピーと飛んでいるのか泳いでいるのかわからない初めてみるモンスターがいた。羽もない丸く黒いフォルムに白い大きい目で小さい口で鳴いている。腕も足もあるかわからないくらい短く大人の拳くらいの大きさだ。いつもなら家にあるのモンスター図鑑本にも載っていない新モンスターとの出会いに騒いだはずのサルバだが今はその余裕はない。体の周りは薄緑の膜で覆われてて自由に身動きも取れなくつれていかれていて声だけが出せる。


「自分の意思も関係なく、なんでこいつの後ろをついていくんだ。。?おい、黒いの!ピしか言えないのか?俺の言葉はわかるのか?今どこに向かっているんだ!」


「ピピ!」

 

 無抵抗に"何か"の後ろをついていき3分ほど経っただろうか。湖の中に浮遊する薄紫の丸いポータルがあった。ポータルを認識したのとほぼ同時に"何か"はサルバを連れてポータルに勢いよく突っ込んだ。


「まぶしい!」


 もう一回目の前の世界が変わった。


 そこは明らかに湖の中ではない、白い幹に薄紫の葉が生い茂る大木。大木の前をよくみてみるとその前には石板が浮いていた。そして、その上に"何か"が止まってこっちを見ていた。


「そっちに来いとでも言いたいのか?」


サルバが眩しそうにもゆっくり歩いて近づいてみると浮いている石板の東西南北には掘られた穴があった。


「なんだよ。。これは」


 そして、声が聞こえた。


■□■□■

<世界観情報> *この時点公開可能なものに限る


①モンスター:時の神プーネが愛した人間に裏切られた怒りで創造したとされる生物。家畜やペットなど違い攻撃性を持つものも多く。全世界の地域に生息している。

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