第27話 オファー
「おはよー!ユウキ兄――じゃなかった……師匠!!」
ミーアとの師弟関係を結んだ翌朝、ミーアの元気な声が響いた。
でもその〝元気〟はルカさんの死を敢えて考えないようにした空元気だろう。
弟子入りを急いだ理由もおそらくそれだ。
何かに集中してそこを心の拠り所にしたいのだろう。
今のミーアには支えとなる存在が必要だ。
もし、その一端を俺が担えるならそうなりたい。
そんな親心のような気持ちがある一方で、ミーアの俺に対する恋愛感情を思うとあまり優しくしても返ってミーアを傷付けかねない。いや、すでにもう傷付けてしまっている。
そんな、何とも複雑な関係となってしまったわけだが、ともあれだ。
とりあえずは師弟関係としてミーアの支えになりたいと思う。
弟子入りの体裁としては住み込みではなく、通いという事になった。
ミーアの要望は住み込みだったのだが、こんな少女とひとつ屋根の下で暮らすのはどうにも憚られる思いがしたのと、何より、残されたルカさんのあの家を空き家にするのは死んだルカさんに対して如何なものかと、俺がそうミーアへ進言した事が方針を固める決め手となった。
「あぁ、おはよう。じゃ、早速始めるか」
「はい!よろしくお願いします!」
敬語に加え、丁寧な所作で頭を下げるミーアが何とも新鮮で思わず笑みが零れる。
「――あ。今、笑いましたね?あたしの事ちょっと馬鹿にしましたね?」
ムッとした表情で詰め寄るミーア。
俺は苦い笑みを作り弁解する。
「いや、そういうわけじゃなくて……ただちょっと面白かっただけだ」
「――だから。それが馬鹿にしてるって言ってるんですよ!」
「まぁまぁ……。そう怒らずとも、早く始めるぞ?」
「そうですね!よろしくお願いします!師匠!」
「じゃ、前にも言った通り、まずは包丁作りからだ!いいな?」
「はい!」
1日でも早くミーアには包丁作りをマスターしてもらい、早く売上に貢献して貰いたい俺は、今日からしばらくの間はミーアにその技術を教え込む事に時間を割こうと考えている。
という事で、ミーアと俺の師弟関係がスタートしたのだった。
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夕方。
「じゃあ、今日のところはこれで終わりにしようか」
「はい!ありがとうございました!」
「それにしても、やはりミーアには鍛冶職人としての才能があるようだな。中々にいい感じだ」
「ホント!?じゃなかった――本当ですか?」
思わず敬語が抜けてしまいそうになったところを繕うに言い直すミーア。
「なぁ、ミーア。今日はもう終わりだ。いくら師弟関係とはいえ、いつまでもそんな堅苦しい言葉遣いはしなくていいんだぞ?」
健気で可愛いな、と思いつつ、俺はそう言ってミーアにいつも通りにするよう促す。
「うん。じゃあそうする。正直、慣れない言葉遣いだから疲れちゃうんだよね」
その後軽く談笑を挟んだ後、ミーアは帰った。
「さてと……行くか」
ここ2日間エルとの交流をサボっていた俺は今日こそはと孤児院へと向かう。
「――お客様!!お待ちしておりました!!今日は何をお求めですか?」
銀髪美少女――エルはこれまでにない自然な笑顔と声で俺に接してきた。
エルの隣りにはマリーさん。
俺と目が合うとマリーさんはウインクしてきた。
その意図はおそらく合図だろう。
その意図を汲むとすれば今日今すぐにエルへ目的の話を進める事。
「実は、今日はエルに話があって来たんだ」
「はぁ。それはどういった……」
エルはこれまでみたいに取り乱すこと無く、俺の話を聞いてくれた。
「――と、そういうわけで、俺はエルを雇いたいと思っている。どうかな?」
「わたしが魔力持ちだと知った上で、わたしを雇いたいと?」
「あぁ、そうだ。むしろエルが持つその
「わたしではなく、わたしのもつ魔力が欲しい、ですか……」
心なしか、エルの表情が暗くなったような、気がするが……。
もしかして魔力を目当てにした勧誘のやり方が悪かったか?
「……ど、どうかな?……やはり、魔力を使う仕事は抵抗があるか?」
「……いえ。わたしのような奴隷に仕事を選ぶ権利はそもそもありません。むしろこんなわたしを求めてくださる事を嬉しく思います。お客様の奴隷として、一生懸命働きますゆえ、よろしくお願い致します」
「そうか!ありがとう!だが、俺は君を奴隷として雇う気は無い。従業員として雇いたいと思っている。そもそも君はもう奴隷じゃないんだ。だから給金も支払うし、もちろん休暇も取らせる。確かに俺は君の魔力を見込んで自分の為にオファーしたわけだが、君は君で、自分の為に働けばいい。改めて聞くが、どうかな?俺と一緒に、夢の設備〝金型〟を作らないか?」
「はい!!よろしくお願いします!」
こうして、金型造りがスタートしたのだった。
エンジニア転生!異世界で鍛冶職人となり日本刀を造り出す!~趣味でフィギアも量産しながら美少女たちと暮らす夢の生産スローライフを!〜 毒島かすみ @busumiya
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