第46話

「私はこれまで同性婚の合法化、消費税一時廃止、ディスカッション練習の教育カリキュラムへの導入、被災地訪問と物資支援をおこなって参りました。それに現地での青空会議と日々の夜間オンライン国会の開催兼中継も。どれも、国民の皆さんに平等な主体性を持っていただくためです。それが、この国の再生に繋がると信じております。日々の青空会議やオンライン国会において、ご意見くださる皆さんには大変感謝しております。今後は語学を含む各資格取得に必要な費用の補助、実技実演の機会を教育機関の内外に設けるため、皆さんのお力をお借りしたいと存じます。最終的にはこの国を某大国から独立させます。そうしなければ、皆さんは精神的にも経済的にも自立できません。外国人だから、日本人だからという概念は私にも少なからずあります。そう思うように教育機関に仕立て上げられましたからね。自分で考える機会をことごとく奪われてきました。だからこそ、この国全体が他力本願であると痛感しています。それを変えるには今しかないんです。大人が変わり、子どもも育つ。本来ならばこのような会見をする時間も惜しいのですが、私が熱を出してしまったがためにご心配をおかけしました」

「いや、誰も心配していませんから」

「何を勝手に心配されているんですか」

 記者数名が野次を入れたが、私は気にせず続けた。

「この国は課題だらけです。それも深刻なものばかり。正直、課題があり過ぎて何から始めればいいか分からないほどです。ですから、私はまず仕組みを変える必要があると思いました。そもそもの根本が解決しないと、全国各地に蔓延している課題を解決するなんてムリですから。そのためには国民の方々、各自治体の代表者にご協力いただく必要があります」

「何を協力するんです?」

「休んでください。そして体調が整ってからオンライン国会もしくは現地での青空会議に参加してご意見ください。今晩のオンライン国会も、体調がすぐれている方のみお待ちしています」

「そんな簡単に休めませんよ」

「いいですか、この仕事では報われないと一瞬でも感じたら、逃げてください。その職場の仕組みは理想的ではないんです。自分を守るための逃げは勇気です。なぜなら、二度と戻ってこない時間をも守ることになるからです。企業側も自覚してください。低賃金よりも罪なことは、労働者の時間と自由を奪うことです。最も重い罪と言っていいでしょう。これは会社を潰すことと同等なほど重いんです。そうなる前に、一度通常業務を止めてまで、仕組みを変えることに時間と労力を割いてください。そこまで考える力をすでに奪われた方、勇気をもって自分を変えてください。そうしなければ死ぬまで今と同じことの繰り返しです」


 私はこの後、週休三日制と各地域の最低賃金一律千五百円を宣言した。

 この日の晩、規模を問わず百以上の企業主がオンライン国会に参加した。議題は無論、週休三日制と最低賃金の引上げへの反対意見だった。

 彼らなりの意見に耳を傾けるのに、私は憤りを内側に抑えるので必死だった。国会後に食べるはずのスーパーカップは、翌朝までゲストハウス共用の冷凍庫に入れたままだった。

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