第21話

 東京駅は平日の早朝は特に、人の詰め放題状態だ。被災地訪問への出発日はさらに混乱導入剤の効果でメディアまで詰め放題のに自ら入る羽目になった。

「総理、今のお気持ちをお願いします」

「自民党を敵に回し、新体制も整わないまま東京を離れるその意義を一言、国民に向けてお願いします」

「総理は無所属でありながら虹の党の議員を補佐に迎えましたが、どういった経緯でしょうか」

「総理」

「総理」

 亘理がカメラとマイクの前に立ってくれたが、メディアも負けていなかった。むしろ体が女性である亘理一人では物理的に不利だった。

「ではお言葉に甘えて」

 私は亘理の左肩に手を置き、本人を鎮めた。各メディアは息を呑んだ。

「私はタレントではない。私一人のために、通勤している人に迷惑をかけるな。そんなことをする暇があれば、国民の皆さんにとって自己投資や、経済的状況の回復に繋がる情報を提供してほしい」

「アルソック!」

 スーツに重みを感じる若者の一人が拳を上げて叫んだ。すると二十台後半の男女が一人ずつ拳を上げ始めた。

「俺たちの未来はアルソックの手に!」

「打倒自民党!」

 拳の数が増え、メディアは何の収穫もなく撤退せざるを得なかった。

「皆さん、私の愚行で大変ご迷惑をおかけしました」

 この日、各SNSでは一万回拡散された。

 トピックは『史上初、労働者へ頭を下げた首相・アルソック」


 新幹線のエコノミー席にて、亘理はスマホの画面を見せてきた。

『総理、現在の支持率は四十パーセントです。また何かやらかしましたね?』


 私は自分のスマホでLINEメッセージを送った。

『で、仕事の進捗は?』

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