第19話
この日の国会は建物の外が騒がしかった。国民民主党、自民党、立憲民主党、輝く未來党、明るい日本党、共産党の群れが、いわゆるストライキを起こしていた。
「開は首相を辞任しろ!」
「この国を壊す不届きものは国外追放!」
「人間辞めちまえ!」
窓ガラスが揺れるほどの轟きなど気にせず、私は国会を開始するよう玉園を促した。
この日の参加者は三十一名。いあいぎり隊、真の自由党、黄金の国党は私が指定した通り二名ずつ。虹の党は、亘理が私の補佐となったため、急遽、党の副代表が一名で参加。無所属は二十名全員、黄金の国党と社会民主党は各一名。自民党と国民民主党はストライキ中でありながら一名ずつ代表者が参加していた。亘理と石嶋は私の補佐として私の両隣に控えているため、国会参加者として数えていない。
過疎化した会場で暖房をつけていないため、すき間風が気になった。
「さて、私は明日から東北、静岡、熊本の各自然災害地を訪問する。ついでに災害地以外にも各地域をじっくり見てくるから、しばらく国会は夜間のオンラインにする。今いる参加者の誰もが酒や夜遊びに耽らないことを切に願う。今ここに居る者はリンク共有用のメールアドレスを提出するように」
すると自民党の代表である花丘が挙手した。玉園は彼の発言を許した。
「総理、かの災害は一体何年前の過去です? 今必要なことは何なのかご存じであるはずですが」
花丘は鼻で笑っていた。中継用のカメラがおさえていたのかは知らないが。
「ええ、大事なことはきちんと把握していますよ。あなた方が国民の苦しみを後回しにして政治家の福利を最優先したことも。温室でのほほんとしているあなた方には、あの災害が過去の出来事で片付かないってこと、分からないでしょうね。想像力が足りなくて、逆に可哀そうですね」
嵐の予兆により、玉園の髪が一本机上に舞い降りた。
「お言葉ですが、あなたこそ生産性に欠けています。その年齢で結婚も出産も未経験の女性が、国民の生活の何が分かるとでも? 税金を三年間も停止して、被災地に物資を届けにあなた自ら出向いて、国家予算が一気に減るだけですよ。あなたの生活はどうするのです」
花丘は亘理を横目で見た。亘理は拳を握りしめていたが、私は感情の抑制を促した。
玉園が許可し、私は起立した。
「逆にお尋ねしたいことがいくつかあります。まず、男性であるあなたこそ出産を経験することがないのでは? 確かに私は未婚ですけどね、結婚で性格も価値観も変わることはないと思っています。色んな既婚者を見てきましたが、むしろそれぞれの価値観が強固になるだけですよ。そんなこと、既婚者であるあなたが、私よりご理解しているのでは? むしろ私のプライバシーよりも国政においてより重要なことが山積みでしょう。ってか、男とか女とか、結婚だの出産だのと御託を並べるのっていつの時代ですか。持っているってだけで、なぜそんな偉そうなことが言えるんです?」
私は遠く離れた花丘の下腹部を指さした。すると彼の顎が外れた。彼の後ろに控える官僚は、顎がずれて鳴る音が聞こえているに違いなかった。
「ま、そういうわけで私は、あなたの仰る過去の傷跡を癒すことと今必要なことを同時に行う必要があるんです。ああ、ついでに年齢のことでお答えしますけどね、年長であるあなたから学ぶのは、辛気臭い御託なんて不要だということで十分ですよ。国を改善するための政治に興味がなければ、今この場で退場すればいいだけの話ですからね」
「そもそも、政治の『せ』も分からない素人がこのしかるべき国会に参加しているのが問題なんですよ」
花丘は玉園の許可を待たずに発言した。またしても玉園の髪が一本机上に舞い降りた。
私は彼の吠える声にヒントを感じた。
そのころ、インスタグラムをはじめとする各SNSでは、国会中継を一部抜粋した動画が拡散されていた。
「開総理、もっとやれ!」
「私たちは開首相の味方です」
「老害や頭でっかちなんかに負けるな」
コメントも秒ごとに増えている、と郷友の伊吹と弥生からダイレクトメッセージが届いた。
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