第3話

 この日は比較的料金が手ごろな中華レストランにて、三人ともちゃんぽんを食した。昨日の酒が起爆剤となり、私たちの胃袋までもが緩んでいた。この日私が外食に罪悪感を感じなかったのは、長崎郷土料理であるちゃんぽんに野菜と魚介類、豚肉が含まれているからだ。一皿で少しばかりの栄養を補給できるのがありがたかった。

「で、緊急事態って何?」

 私がちゃんぽんのスープを飲み干したところで、伊吹と弥生がスマホの画面を見せた。

犬走いぬばしり安紀彦あきひこ? って政治家、インスタに色々投稿しとるってね。国会で首相にめっちゃ反対意見出しとるよ。で、そのからDMが来たと。私たちに会いに、長崎に来るって」

「私、たち?」

「俺と早坂、そしてアルソックの三人に決まっとるやん。やけにこの投稿ば気になっとるとかもね」

 伊吹と弥生が興奮している間に、二杯のちゃんぽん麺が伸び続けていた。

「ずいぶん面倒くさい展開になったね。会うったって、一般人のためにわざわざ長崎に来て、税金の無駄遣いだ! って国民の方々がお怒りになるだけなのに」

 私はピッチャーにて、自分で水をグラスに注いだ。体内循環のため、日頃より水分を多く摂るように心がけている。

「その怒りを国民さま方の喜びに換えればよかとって。大丈夫、アルソックならできるから」

「伊吹さんまで、私が首相になる前提で話ば進めとると? もしかして弥生ちゃんも?」

「真波ちゃん、だって明日の夕方五時って犬さんと約束しちゃったもん」

 何を、と聞く間もなく、弥生は弾んだ声で続けた。

「政治家なんて、滅多に会う機会なかとばい? しかも夜ご飯もご馳走してくれるって!」

 表面上の華やかさに惹かれがちな弥生らしい。それだけで大学卒業後の進路をホテルフロントへの就職に絞るほどだ。私は生活に困らない限り、過去の職業であるホテルフロントに就きたくないというのに。

「一応今日はバイトがないからよかけど。で、場所は?」

「真波ちゃんが決めてよかって! 食べたいものば食べてよかって言っとるけん。でも、個室指定」

「なら、居酒屋だね。庶民の雰囲気も味わってもらおうかね、その政治家サマに」


 最近、私が登録している予約サイトが忙しい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る