第2話

『日本のアルソックになってください』

『居眠り集団の鼓膜を打破して』

『ってかイロイロ破壊してww』

『一般人がいきなり首相になるとか、かつてのドラマ再現かよ!』

 伊吹と弥生のインスタグラムアカウントにてストーリーを投稿して一時間、コメント通知が止まなかった。

「アルソックが首相に就任する前提でのコメントってのがウケるよね」

「いいねがもう二千も超えてる! さすがだね」

 私としては、名前も顔も知らない人たちから称賛されても、最善の反応ができる自信がない。盛り上がる二人にもテンションがついていかず、私は手あたり次第に伊吹の漫画単行本を読み漁っていた。伊吹は最近、ボーイズラブ漫画に夢中だ。

 その後、私たちは浜の町にあるお手頃価格の居酒屋にて夕食を摂った。私が予約サイトにて席のみを予約して、しっかりポイントを獲得した。いわゆるポイ活は、私のささやかな楽しみの一つだった。

「やば、アルソックが焼き鳥一本食べるより、いいねの数が増える方が早かとけど」

 弥生は未だにインスタグラムの画面を見ていた。オレンジジュースを飲んでいたのに、ハイボールを飲んでいた私よりハイテンションだった。

 伊吹は人の面倒を見ることが好きなので、だし巻き卵とシーザーサラダを私と弥生の分まで小皿に取り分けてくれていた。ちなみに伊吹は生ビールを飲んでいた。

「はいちょっと! 二人とも、焼き鳥足りてる?」

 飲酒していないときと変わらないテンションで、伊吹は注文用タブレットを掴んだ。期末試験明けなので、久々の憩いで注文する品数が増えていた。

 気を許す友人とのひとときは、明日以降に備えた活力補給に欠かせない投資だ。彼らとの会話がなければ、私は単なるアルバイトとしての労働力と学習機能マシンになってしまう。それなのに、私はこの食事代を割り勘した後の金額が気になっていた。財布に一万円を入れてはいたが、それでもアルコールに気を許すまでにはなれなかった。いちいち消費税が十パーセントも加算されることが辛い。

 それから私たちは三人で焼き鳥を合計二十一本食した。他には豆腐サラダ、チーズ入り卵焼き、枝豆をそれぞれ一皿完食。アルコールは私がハイボールと生ビール、締めに芋焼酎のロックを一杯、伊吹が生ビールの後にレモンサワーとコークハイを呑み干した。弥生はオレンジジュースとウーロン茶を飲み、最後にカシスオレンジのカクテルをグラス半分呑んだ。三人で五千円ずつ出した。この投資を一瞬でも惜しんでいた自分が恥ずかしかった。

 それでも、日々の金銭への意識が役立つこともあった。


 翌日、伊吹と弥生が私を呼び出した。休日のアルバイトを終えて、私は予約サイトにて、ショッピングモールのレストランを獲得した。

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