我が国の首相は田舎出身、あだ名がアルソックですが何か?
加藤ゆうき
第1話
「ねぇ、アルソックがこの国の首相になったら、ちょっとはマシになるんじゃなかと?」
一人暮らししている
「いやいや、そんなことはないっしょ。今は誰が首相になっても、国が混乱するだけだって。それに私、国会で晒されているような組織に属するのは向いてないし」
「ま、アルソックはザ・フリーダムやけんね」
「アルソックはどんな枠もぶち壊す、鋼のメンタルの持ち主やけん。頭の回転も速かけん、よかっちゃない? ってか、今の政治家はテレビば見てもパッとせんよね」
私は伊吹への返答に迷った。一部の同学年男子生徒には敬礼され、距離を置かれている。一方で気難しい教授に気に入られている私だが、特別なことをした覚えはない。ただ学生らしく、勉学に励み若い友人に恵まれただけだ。そんな私はいつの間にか、アルソックと呼ばれるようになった。
「俺ら卒業したら社会人よ? しかもただの社会人じゃなくて、税金をがっぽり絞られるだけの労働力。卒業したくねー」
「私も、税金が高くなった今、社会人に戻りたくないね。ってか一人で仕事したい。組織化された辛気臭い雰囲気の職場なんて、もう懲り懲りよ」
アイスに含まれているマカダミアナッツを勢いよく噛んだ。歯で砕けるナッツのように、人を蹴落とすだけの組織人間を打破できればどれほどよかったか。サービス残業に低賃金も、長年の不景気が生み出した負の遺産だと思いつつ、自然の摂理として受け入れることができない性分だった。そんな環境から逃げて、大卒の肩書を手にしようとしていた。再び働くためになど、人間として皮肉でしかなかった。
「だからさ、アルソックが組織で働くんじゃなくて、組織を動かす立場になればよかとって。ってことで伊吹さん、インスタに同じ投稿をしようよ」
「早坂、ナイスアイデア! 『この人に首相になってほしい人~?』ってフレーズが良くね? アルソックの顔写真もしっかり入れて、ユーザーがリアクションできるスタンプも忘れんごと」
二人はハイタッチして、弥生が予告なしで私を撮った。よりにもよって、ハーゲンダッツを完食した瞬間だ。口角に溶けたアイスが付着しているに違いなかった。その上、服装は白無地のトレーナーとジーンズ、両耳には揺れる猫モチーフのイヤリングとカジュアルを極めている。これに畏まったスーツを着て畏まった会議に参加しろなど、誰が言うだろうか。
「ストーリーってフォロワーしか見れんとやろ? なら投稿してもよかよ」
社会に出たことのない一般若者のフォロワーは地元の友人や家族に限られていると高を括っていた。
それがまさか、フォロワーがそのフォロワーにストーリーやDMで拡散していたとは知らずに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます