悪霊寿司がお前を殺しに来る

青柴織部

エピローグだよ!クソボケ野郎

 お前はバカなので寿司の祠を壊したのである。


 いいだろう。お前の言い分も少しは聞いてやる。

 顔を見たことも声を聞いたこともない祖父の葬式にはるばる東京から6時間かけてこの田舎に降り立ったわけだ。

 そうして狭いコミュニティに思考が凝り固まったジジババによりなぜか始まる現状への批判とよく分からん説教に耐えかねて、散歩に出るという口実で逃げ出した。

 そうして村の奥の奥まで迷い込み、祠を見つけた。

 不気味に感じただろう?

 帰っておけばいいものをあろうことかお前は祠についている小さな扉を開けようとした。だがずいぶん昔のもので、ろくに手入れもされていない扉は素直には開かない。

 諦めて帰るどころか「引いて駄目なら押してみろって言うし」とほざいてお前は無理やり押し込んだな。ちなみにそれは引き戸だからなアホ。本気で何をしているんだこのクソボケ。


 そうしたら祠は崩壊した。当然の結果だな。

 「なにもしていなかったのに壊れた」?

 ごめんなんだけど、お前の中でこれって「なにもしていない」に入るのか? もしそうであれば今までかかわった人たち全員に頭を下げて詫びを入れたほうがいいぞ。絶対に迷惑かけているから。

 ……まあ。命があればだけどな。


 見ろ、空を。

 下からだとシャリしか見えんが、あれはマグロ、サーモン、イカだ。メジャーどころの寿司はそのぶん恨みも強いからな。大量にいるし、大量に人を襲うだろうよ。

 直に山を下り、町をも襲いだすだろう。寿司屋は個人もチェーン店も含めるとほぼ日本中にある。つまりこの島国に寿司から逃れる術はない。

 は?

 ジャンル? ホラー? パニック? 知るかそんなもん。恋愛タグでもつけておけ。

 お前が出てきた家もご覧の通りのありさまだ。

 アジにエンガワ、ホタテにブリが屋根や壁に張り付いているときた。今は良いがそのうち生臭い匂いに変わるぞ。それまでに生きていられたらな。

 「壊れたらこんなに大ごとになるのに適当にやってたのはどうなの?」

 まあ――本当に、それはそうだな。この村も悪いし、お前も悪い。お前の悪さは揺るがないから安心しろカス。


 寿司に襲われたらどうなるのか? なら、今から家に帰るがいい。答えはいくつか分かるだろうよ。

 海辺じゃあ、寿司の力は衰えない。だからこんな山奥に寿司を治める祠を作ったんだ。縁が無いからな。

 積もり積もった恨みが――うるさいな、回転寿司の皿みたいに? じゃないぞ。何が面白いと思ったんだよお前。緊張感を持て、お前のせいでこんな騒ぎになっているんだから。恨みがいま一気に弾けた。とびっこの話はしていないだろ。プチプチするから? なんなの?


 江戸の時代にも同じようなことが起きた。寿司のブームだったからな。

 そのときに祠が作られ、それはそれは厳かに封印の儀が行われたものだ。地震だの嵐だのでどんどん小さくなり、いつしか適当に管理されているだけの祠になってしまったが。

 「じゃあ自分悪くなくない?」

 マジ?

 この段階でまだそれ言える? 逆にすごいね。全国津々浦々を土下座行脚して来いよ。

 どうにか封じていたんだよ。……確かに、遅かれ早かれこうはなっていただろう。お前みたいなポンコツのせいで。

 

 ……わたし?

 祠が作られたときの人身御供だ。魚が嫌いでな、出来るだけ食べないようにしていたら寿司を慰めるのに最も良いと選ばれて埋められたんだ。

 最初の内はよかった。供え物も、祝詞も、畏れもあった。いつしか無くなってしまったけれど。

 ああ、そうだ。お前も人身御供になればこの騒ぎは収まるかもしれんぞ。

 ん?

 「昨日海鮮丼食べてきた」? うーん、じゃあもう無理だな! 諦めて生身のまま死ぬか!


 木をなぎ倒して寿司が進んでいく。コンクリートを破壊して寿司が進んでいく。

 お前は見えないだろうが、代わりに見えたものを実況してやろう。

 町中を寿司の悪霊が行進しているぞ。

 タマゴ、スマ、サンマ、マダイ。おいおい、サラダ軍艦にローストビーフ寿司か。もうなんだか分からんな。

 祈祷師たちが慌てて準備をしているが、間に合うのかねえ。

 電車の中が寿司でいっぱいだ。はは、まさにすし詰めってか? 笑えよ。なんでこっちから振ったやつにはスンってしているんだ。「そのネタはつまらない。寿司だけに」だと? お前友達いた?


 人たちが悪霊寿司に襲われて手足の先からシャリとなり崩壊していく。布団のようにネタがかけられて巨大寿司の完成だ。

 もう半日もすれば日本中が寿司になるだろう。そうしたら寿司屋のある海外へ悪霊たちは向かう。ニンニクも聖水も効かないと思うが、なにか対策はあるのだろうか。

 お前、この惨事を作り出したんだからなんらかの感想はあるだろう。いや、謝罪か?

 あらかた悪霊のパレードが終われば、寿司たちはここを目指すと思う。完全に祠を壊して自由になるために。わたしは祠を護るちからも理由もない。

 お前だって無事でいられないぞ。どこぞに逃げ延びても物理が通用しない相手だからな。寿司になる時間が長くなるだけだ。あがいてみるか?

 ここにいる?

 ……まあ、わたしも話し相手が欲しかった。お前が寿司になって、わたしの存在が悪霊寿司に食いつぶされるまで、話でもしようか。


 好きなネタ発表?

 だからわたしは魚があまり――え? カルフォルニアロールが好き?

 どこからツッコめばいいんだよこのクソボケ野郎。

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