午前4時の大人には

彼方の充電スポット

今日は何をやっても上手くいかない日というやつだった。日用品の買い足しに行き、風呂掃除用洗剤を買うのを忘れた事から始まって、ずっと放置していたクレジットカードの利用明細が印刷出来なかった。

何度やっても会員専用ページに入れないのだ。途方に暮れた俺はカスタマーセンターの電話番号を調べた。しかし出てくるのはショートメールや専用アプリのチャット機能への誘導ばかり。やっと辿り着いた電話番号にかけると、オイカワと名乗る爽やかな声の男が出た。塩焼きにしたら美味そうな名前だなと思った。

オイカワに事情を説明し、本人確認のあれやこれやをした。そしてオイカワが

｢お客様のゴールは利用明細の印刷ですよね？｣

と確認をしてきたので

｢そうです、クレジットカードの利用明細を自分でやれると聞いたので｣

と返すとオイカワの声音に困惑が混じった。ここからがややこしいのだが、俺はUQモバイルを使っている。しかし大元はauだ。長年auユーザーでスマートパスプレミアムにも加入している。そのサービスはUQモバイルに乗り換えても金さえ払えば受けられるのだ。故にauIDやパスワードは所持したままだった為、無論auのクレジットカードの利用明細もauIDとパスワードさえ入力すれば自分で印刷出来ると思い込んでいたのだ。しかし2段階認証が出来ない。なぜならばauユーザー契約は切っており、現在使用しているのはUQモバイルの回線だからである。自宅にはWiFiのモデムもあるから気にしなかったが、外出先ではauの回線では無くUQモバイルの回線を繋いでいたのだ。

だからスマホの利用明細すら今かけているauの窓口では対応出来ないのだという。さらにクレジットカードに対応している会社は違うという。この非常にややこしいシステムをオイカワも分かりにくいと認識していた為、速やかにクレジットカード会社の電話番号と音声ガイダンスで押すべき番号を教えてくれた。最後に

｢お客様の(利用明細を印刷するという目的の)お役に立てず申し訳ありません｣

などと謝るものだから俺の方も申し訳なくなってしまって

｢いえ、そんなそんな。一人だとここまで気付けなかったのでとても助かりました。ありがとうございました｣

と返した。オイカワはまだ平身低頭で何か言っていたが、近年稀に見るホスピタリティの持ち主だなと思った。きっと品質向上の為に録音されているが故のムーブかもしれないが、それにしてもあれだけ誠実な感情の乗った声色が使えれば窓口係としては無敵だろうな。声優になれるかもしれないと思うレベルであった。

結局クレジットカードの利用明細は自分で印刷出来ず、クレジットカード会社に過去2ヶ月分の利用明細を送付してもらうことになった。簡単で便利になる文明社会で、まだアナログなシステムは必要らしい。己の無力さを感じた出来事だったので、ここに書き留めておく。

そしてオイカワはマジで良い奴だった。マニュアル通りだったとしてもアレが神対応だと思う。どうかオイカワに良いことがありますように。