身動きの取れなかった僕を救い上げた君は

ナナシリア

身動きの取れなかった僕を救い上げた君は

 きっと俺は、大人の期待とか周りイメージとか、果ては自分の限界とか、それらに縛られてがんじがらめになっていたのだろう。


 それで身動きが取れなくなっていて、進退もままならず、だから暴れまわって、どこを目指せばいいのかすらもわからなくなっていたんだ。


「大丈夫? 私には、君が自分を傷つけているように見えるよ」


 はじめの頃は、君さえも俺を取り巻く糸なのかと振り払おうとしていたが、君はそうじゃないと根気強く主張してくれた。


「私は、君が困っているなら助けになりたい。それだけなの」

「君は俺の味方ってこと?」

「そういうこと。私は、君の味方になりたい」


 俺にとって、君よりも仲の良い人はいたはずだったのに、なぜか君は彼らよりも俺のことを理解していて、俺の助けになってくれた。


「じゃあまずは、遊びに行きましょう!」

「受験期なのに?」

「君は大人たちの言うことに囚われすぎなんだよ。受験なんて気にせず、息抜きをする日も必要だから、遊びます!」


 君の言動は、大人から見たら褒めるべきものではないのかもしれなかったけど、それだけに俺は彼女が光のように見えた。


 それでも俺は、大人が言っていることは筋が通っているし、守るのが一番楽だと思っていた。


「君は良い意味でも悪い意味でも真面目過ぎる」

「俺は、自分ではふざけた人生を送っていると思ってるんだけど」

「君が自分を傷つけているって言うのは、そういうことだよ。自分のことを卑下しすぎだと思う!」


 君は底抜けに明るくて褒められるべき姿はしていなくて不真面目だけど、俺の芯を誰よりも正確に見抜いていた。


 きっと、世間には大人が言うような人材よりも彼女のような人が必要なのだと、奇遇ながら彼女の言う通り大人を否定する考えが芽生えた。


 あえて楽な道を選ぶのではなく、自分が正しいと思える道が見えているなら、そちらを選択する。


 俺よりも、どんな大人よりも、君の生き方が正解のように思えた。


「まあでも、人生に正解はないから、真面目にお堅く生きるのも、自分を卑下するのも、一つの生き方だとは思うけどね」


 君の広い視野は俺にとっては予想外としか言いようがなかった。


 俺の知っている人間というのは、一つの凝り固まった意見に囚われて、それを押し付けるだけの生物だった。


 君は俺にとって、他の誰よりも人間として自然に生きている人だった。憧れの対象だった。


「それに、大人が言っている中でも正しいことはいくらでもあるから、やっぱり見極めが大事だよね」

「例えば?」

「法律は守るべきだよ」


 それは例の一つに過ぎなかったが、同じ国の中においては、最も普遍的と言っても差し支えのないことで、わかりやすいたとえだった。


 俺は、突然俺を救い上げてくれた君に導かれていずれ自立するのだろうと、そう思っていた。


 不自由に陥っていた俺を自由な世界へと救い上げた、そんな君は、世界で一番不自由な状態に陥った。


 死亡。


 死因は交通事故で、赤信号を無視して車が突っ込んできたのだという。


「俺は、どうすればいいんだよ……」


 救い上げられた先で、もう一度蜘蛛の巣に突き落とされたような、そんな気分だった。

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身動きの取れなかった僕を救い上げた君は ナナシリア @nanasi20090127

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