第8話 お披露目会
ちょうど住所通りの場所に辿り着くであろう頃合いだった。
シノ「お~~い、ハビトさん!」
僕が見つけるより先にシノさんに見つかり、遠くから駆け足で近づいてきた。
ハビト「シノさん、急に居なくなてしまって……」
言いかけて息をのんだ。それもそう凄く怖い顔でシノさんが睨んでいるのだ。
シノ「コラ、ハビト! あんなボロっちぃ剣で戦場に行くとは何事か!」
そっちか~い
ハビト「ん? っていうか知ってたんですか?」
シノ「ノンラー商会の情報網を舐めてもらっては困るわね! でも無事でよかった!」
ハビト「ご心配おかけしてすみません……」
シノ「今から帰りだからまた護衛してよね、道すがらゆっくり聞かせてもらいますからね!」
ハビト「アハハ……お手柔らかに」
とはいえ、僕の話なんて大したことはない。逸れたウルフを追いかけて返り討ちにあっただけなのだから……
替わりに、シノさんが今手掛けている現場の話を猛烈に聞かされた。
なんでも、女性だけのめっぽう強い戦闘チームがあり、そこのリーダーさんがノンラー商会と縁があるらしく、今回の件もその筋から聞いていたと言うことだった。
今のシノさんの現場もその女性チームメンバーの家屋をリフォームしているのだとか、
近々お披露目会があるからハビトにも参加するように打診され、
当日はムーコさんの護衛をして会場まで来てほしいとのこと。
かくして無事にシノさんを自宅まで送り届けた。
シノ「それじゃ頼んだわよ」
ハビト「了解しました。任せてください!」
この日、2日分の護衛の給料をいただき、安宿だが寝床を確保することができたハビトであった……
それから数日シノさんの護衛をしつつ、街を探索したり、バンチョーさんのギルドに出向いて稽古をつけてもらうなど、少しずつだがこの街にも慣れ始めていた……
そんなある日、自由時間で街をいつものように探索していたハビト、
?「ハビ、ハビトじゃないか?!」
急に声をかけられた。
ハビト「どちら様で……」
またもや言いかけて止まる。それもそうだ、目の前にはよく見知った顔があった。
ハビト「カリス!」
カリス「久しぶりだね! この街に来てたのか!」
数日前の夢の中で見た子供、幼馴染のカリスだった!
カリスは故郷の隣町に住んでいた幼馴染だ、幼少期はよく一緒に遊び、剣術学校では剣を交えた仲だったが、カリスは徴兵で村を出たきり、数年ぶりの再会だった。
今ではこの街の自警団に所属していて、日々治安維持に務めているのだという……
カリス「そっか、あっちでそんな事が……」
僕がこの街に来た経緯をそれとなく話した。
カリス「でも良かったじゃないか、こうして再会もできたし、また一緒に冒険できるしね!」
カリスはいつだって前向きだ。いつも励まされていた。
ハビト「うん。また連絡するよ」
カリス「魔門の件もある、また戦場で会おう」
お互いに戦士であることを再確認し、別れた。
知らない人ばかりではなかった。ハビトはまた一つ背中を押された気持ちになり、心が温かくなった。
こうして迎えたお披露目会の当日。
ムーコさんを無事に送り届け、会場に着いた。
シノ「ハビトさん、ムーコ! こっちこっち~!」
今日も小柄な体で、全身を動かして大手を振っている。
完成したばかりの綺麗な家屋、整った庭先には大勢の関係者と思しき人達が集まっていた。
知り合いと話しているのか、グレイさんもいる。
シノ「もうじき家主の挨拶だわ、始まるわよ。ムーコ、くれぐれも、ね!」
何かの念を押すシノさん。
ムーコ「はいは~い」
耳が痛い様子のムーコさんだったが、口元が緩んでいる。よほどこういうイベントが好きらしい……
家主の女性「本日はお披露目会に出席していただきありがとうございます! リフォームにご協力していただいた方々、ご馳走とお土産も用意しております。ごゆっくりお過ごしください」
シノさん、ムーコさんの護衛というだけの僕は端っこで、賑わう会場をただ見ていた。
家主の女性「本日はありがとうございます、これ記念品ですのでお受け取りください」
そう言って、綺麗な意匠が施されたネックレスを差し出された。
僕は戸惑いつつもそれを受け取ると、にっこりを微笑み女性は輪の中に消えていった……
綺麗な獣人の女性だった。
どこかで会ったような……気のせいだったかもしれない。
何気なく女性が消えていった輪を見ていると、小柄な勝気な声で話す女性、家主を同じ種族であろう女性、輪の中にはいるが静かに佇む女性、まるでチームのような一体感を感じた……
もしかして、例の女性チームだろうか?
家主もメンバーだとシノさんが言っていたのを思い出す……
ということは、僕が先日の戦場で意識を失う前に見た光景も本物……?
急に恥ずかしくなったハビトはより隅を探して会場で縮こまってしまった。
一方、家主の女性達、
小柄なリーダー格「スズどう? やっぱりあの時の彼だった?」
家主のスズ「多分そうだよキト、いい眼をしてた腕は確かでしょうね、チィ、あなたより強いわよ」
同種族の獣人女性のチィ「へぇ~お姉ちゃんが言うなら本当だろうね~マイさんも気になる~?」
物静かなマイ「……別に……」(あの時……か……)
リーダー格のキト「それじゃ、また別の機会に会えるように、シノに言っとかなきゃだね!」
スズ「またまたキトったら、ほどほどにしときなよ」
チィ「強い人見るとすぐだからね~キトさんは」
キト「何よ! 私はあなた達の事を想ってやってんのに」
マイ「まぁまぁそういうのはタイミングってあるしさ」
キト「マイは慎重すぎるのよ! もっとこう……バシッと行きなさいバシッと!」
スズ「アハハ!」
会話が聞こえているわけでは無かったが、楽しそうにしているのは遠目のハビトにも見て取れていた……
終始賑わいを見せたお披露目会だったが、
街の郊外では、着実に強大な魔の手が近づいていた事を、この時は誰も予想をしていなかった……
つづく
Light My Fire 〜ハートに火をつけろ〜 Habicht @snowy0207
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