横断歩道の白いところを踏み外した友達の話

みょめも

第1話

あれは小学生の頃だった。

僕は通学路が同じだった友達の島田くんと、いつものように帰っていた。

島田くんは運動神経が抜群で、3年生ながら跳び箱8段を跳ぶほどだった。


「今度は9段に挑戦するんだ」などと話しながら歩いていると、いつもの交差点に差し掛かった。

片側2車線で車の往来も割とある交差点だ。

向こう側まで30メートルほどある。

歩行者信号が青になったのを確認すると、島田くんは勢いよくジャンプしながら渡り始めた。

白線の上をタンッタンッと軽快なステップで跳ねていく姿は、さながらカモシカの様だった。

それに対して僕は横断歩道が苦手だった。

まして島田くんのように恐れずに渡ることなんてできなかった。

大人になった今でこそ平気だが、その頃の僕は縦線の上を歩くことに決めていた。


蟹歩きでバランスをとりながら歩いているそのときだった。

前方から叫び声がした。

足元ばかり見ていた僕は恐る恐る前を見た。

すると島田くんがいない。

もう渡りきって僕を置いていったのかと思ったが、叫び声は確かに島田くんのものだった。

視界をくまなく探すと島田くんの『手』だけは確認できた。

近くまで行くと島田くんは両手で白線にしがみついていた。


「やばい、落ちるー」


島田くんは白線から足を踏み外してしまったのだ。

僕は慌てて駆け寄った。


「島田くん!大丈夫!?いま助けを呼んでくるね!」


僕はどうにか向こう側まで渡りきると近くのコンビニに助けを求めに行った。

幸い店内に客はおらず、店員はすぐに救助を承諾してくれた。


しかし、横断歩道まで戻ってみるとそこには島田くんはいなかった。

横断歩道の黒い部分に落ちていったのだ、と分かった。


「島田くーん!」


落ちたであろう場所を覗き込んで叫んでみだが僕の声が永遠に落ちていくだけで、いまにも飲み込まれてしまいそうな真っ暗闇が広がるばかりだった。




次の日、僕は通学路を変えた。

遠回りになるが、なるだけ横断歩道の少ない道を選んで学校に行った。

学校では何事もなかったかのように時間が流れた。

先生は島田くんがいないことを気にもかけなかった。

出欠をとる時にも島田くんの名前は呼ばれなかった。


「あの先生、島田くんなんだけどさ……」


僕がそう言うと、先生は「島田くん?他のクラスの子かしら。」と不思議そうな顔をしていた。


みなさんの周りにも横断歩道の白いところを軽快に渡る子がいたら注意してほしい。

落ちたら消えるよ、と。

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