第2話
オフ会の日の翌日、学校の登校中にふと思った。
「クロくんって誰かに似てるよなぁ」
考えても誰かは思い至らずにいた。ほとんど毎日顔を見ているような気がするけど、誰かに似てるだけでその人と同一人物とは限らないし...あまり深く考えなくても大丈夫だな。
一限目と二限目は特に変わった様子もなかったが、三限目の国語を前に、生徒たちが浮き足立つ。国語の担当教師は、生徒から人気の美人教師だからだ。
ここは工業高校。女子はほとんどいない。そのため、数少ない女子と滅多に話す機会は無い。美人教師が男子生徒から絶大な人気を得るのも仕方の無いことだ。
それに、美人なだけでなく話しかけても全部笑顔で返してくれる。美笑の女神なんてあだ名を付けられるほどだ。
「皆、席に着いて...」
教室のドアが開き、噂の
先生が固まって動かないのを見て、生徒たちが先生どうしたんですか?と先生に聞いた。
「い、いえ、なんでもないわ。授業を始めるから教科書を開いて。」
焦って居住まいを正し何事も無かったように授業を始めた。先生の授業はいつもと変わらず面白くわかりやすいので、あっという間に終わりを迎えた。チャイムが鳴って先生が教室を出ようとする前に話しかけた。
「あの、先生。今日の授業のココが分からなかったんですけど...」
俺が話しかけると、話しかけられると思ってなかったのか、先生は目を見開いた。
「あ、今日はちょっと忙しいから放課後に職員室に来て、そしたら教えてあげる。」
困ったように目を泳がせて言った。嘘をつく時に視線があっちこっちに動くのは、クロくんと一緒なので、同一人物だと確信する。
「分かりました。では、放課後にお願いします。」
ただ、ここは焦っても仕方ないので、指定された放課後まで待つことにする。
そして、放課後になり職員室にノックをして入室し、氷河先生を呼ぶ。
「来たね。生徒指導室に行くから、ついてきて。」
いつもより険しい顔をしている氷河先生の後ろをついて行った。生徒指導室に机がふたつ並べられていて、そこに対面で座った。
「早速ですが、昨日のオフ会に来たのって先生ですよね?」
先生も話の内容は分かっていると思っているので、まどろっこしい前置きを飛ばして、いきなり本題に入る。
「ええ、そうよ。私だって、シロくんが自分の学校の生徒だって気づいてたら、直ぐに切り上げてたわよ。」
それもそうだ。俺だって、クロくんが先生だって気づいたなら、その場で解散していたに違いない。
「良い、このことは誰にも言わないこと。これは、君の為でもあるし、私の為でも有るの。わかった?」
「それは、勿論です。先生に迷惑をかけるのは本意ではありませんし。」
決して先生に迷惑をかけたい訳では無い。教師と生徒という立場上、良くない事であると理解しているので、本来は未然に防ぐ必要があったとも思っている。
「そう?ありがとう。」
それに対して、氷河先生は淡白に答えた。いつもの先生と違って感情の起伏が少ない。それに違和感を覚える。
「なんか元気無いですね。」
俺が、心配するとはぁ、とため息をついて気だるげに言った。
「仲の良かったネ友が教え子って発覚したら、元気も無なっちゃうよ。」
「それは、すみません。」
先生に気を使わせているのが申し訳なく思って、頭を下げる。
「ああ、いや、ごめんね。別に君のせいじゃないのに。生徒にこんな愚痴吐いちゃうなんて、教師失格だね。」
視線を伏せて、だんだんとしおらしくなっていく先生を見ると、心が痛くなってくる。迷惑をかけるのが本意ではないと言っておきながら、これだけの心労を与えてしまっているのが心苦しい。
「そんなことないですよ。先生は、生徒にもすごく慕われてて、教師失格なんてことないと思います。それに...」
そこで言葉を止めた俺に、先生が食いつく。
「それに?」
「...なんでもないです。忘れてください。」
この先は言ってはいけない。先生の負担が増えるだけだし、自分の胸の内に閉まっておかないと取り返しのつかない事になる気がする。
「私、生徒に慕われてるかなぁ?とてもそうは思えないんだけど...」
自己評価が低いのか、ネガティブなのか分からないけどこの先生が慕われていなかったら、この世の先生のほとんどが、生徒に慕われていないことになる。
「どうして先生に自覚がないのか分からないくらい生徒に人気ですよ。」
「そうかな?君にそう言って貰えると嬉しいよ。」
照れくさそうに笑った先生を見て、気になっていたけど、聞く気のなかったことを思わず聞いてしまった。
「先生って好きな人いるんですよね?」
「え?なんで?」
「この前、ゲーム内で恋バナをさせられた時に、言ってたじゃないですか。」
その時のことを掘り返すのは自分でも恥ずかしい。男同士で恋バナなんてなんでしなくちゃならないんだと思っていたが、クロくんが先生となると話が変わってくる。
「あー、確かに言ったね。けど、それがどうしたの?」
「先生に好きな人がいたら、悲しいなって思って...」
言ってしまった。こんなこと許されるはずが無いのに、どうしても我慢できなかった。
「それってどういう?」
「やっぱり忘れてください。」
本当に言ってる意味が分からなかったのか、わかっていて惚けたのかわからないけど、上手く伝わっていないことを祈るばかりだ。もう二度とこんなことは言わない。そう心に誓った。
「今日はそろそろ下校時間だし、帰っていいよ。また一緒にゲームしようね。」
「はい。」
こんなことがあったのに、まだ一緒に遊んでくれることが、たまらなく嬉しい。先生の笑顔につられて俺も、頬が緩んで、だらしない顔をしてしまっている。
オフ会に来たのは学校で人気の美人教師 浅木 唯 @asagi_yui
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