オフ会に来たのは学校で人気の美人教師
浅木 唯
第1話
俺は、アニメやゲームをこよなく愛する所謂オタクと言うやつだ。今日は一番仲のいいネ友とオフ会の日。約束の場所に到着して人で混み合う中、事前に知らされていた服装の年上っぽい男を探す。
「どこにいるんだ?」
どれだけ探しても紺のパーカーに黒の帽子、黒色のズボンの男は見当たらない。約束の時間はとうに過ぎている。遅刻の確認のために、チャットを送ろうとした。
「あの、私のこと気づきませんでしたか?」
その時、背中をトントンと軽く叩かれ後ろから声をかけられた。だが、その声は男にしては甲高く、まるで女性のような声だった。
しかし、振り返るとその服装は紺のパーカーに黒の帽子、黒色のズボンと知らされていた服装と合致する。
「もしかして、クロくん?」
「やっぱり気づいてなかったんだ。」
男だと思っていたネ友が、年上の女性だったことに頭が混乱している。
「ここだと人も多くて話もしずらいし、あそこの喫茶店に入って落ち着かない?」
「賛成。俺はクロくんが年上の女性だったことが、何よりも落ち着かないことだけどね。」
最近流行りのオシャレ喫茶店な感じではなくて、昔ながらのモダンな雰囲気で心が安らぐ。マスターも白髪の生えたイケメンなおじさんで、非の打ち所のないどこをとっても完璧と言えた。
「まずは、騙していてごめんなさい。」
イケおじなマスターに注文を受けてもらって直ぐに、頭を下げられた。
「俺は、騙されたと思ってないよ。ゲームがゲームなだけに、仕方ないこと思う。」
俺たちが、こうして出会うきっかけになったVRMMORPGマジック・オルトロス・オンライン。通称マジオル。ストーリーは、普通の魔法を駆使して魔王を討伐し、世界に夜明けをもたらせ!というシンプルなものだが、プレイ人口は何故か九:一
で男が九と、異様な数字に落ち着いた。
その為、数少ない女性プレイヤーは、男性プレイヤーからナンパ目的でパーティーに勧誘されることが多々有った。だから、女性プレイヤーが姿を男性に変えてプレイしているのは、珍しくもない。クロくんもその一人だ。
「でも、やっぱり事前に言っておくべきだったと思うの。」
「確かに、伝えておいて欲しかったけど、トラブルの種になる可能性もあったし、俺が信用されてる証拠なんじゃないかな?って思ってるよ。」
秘密を明かさずにオフ会を開いたのは、俺になら秘密をその場で明かしても幻滅されないと思ったからだとポジティブに考えるならそういうことになる。
「ありがとう。シロくん。」
頬をポリポリと掻きながら照れくさそうに笑った。ゲーム内では見ることの出来ない表情だ。アバターはあくまでアバターなので、細かい表情の変化には対応していないからだ。
「そんなことは、さっさと忘れてゲーセンでも行こ。」
席を立ってお会計を済まそうと財布を取り出す。
「あ、ちょっと待って。ここのお金は私が出すよ。」
クロくんに慌てて止められた。
「シロくんまだ、高校生なんでしょ。私は、もう働いてるから私にださせて。」
払わせるのは申し訳なかったが、私が払うと言って聞かなかった。結局、押し切られてお金を払わせてしまった。
「それじゃあ、ゲームセンターにしゅっぱーつ!」
「おー!」
クロくんが腕を高らかに上げたのにつられて、俺も拳を天に掲げてしまった。周りからの視線が痛いが、クロくんは気にした素振りを見せずに歩き出した。
喫茶店から徒歩数分。目当てのゲームセンターに着いた。店内をウロウロしてひとまず何をするか決める。
「何からやりたい?」
「うーん。私はあのレーシングゲームかな。」
そう言って、クロくんは赤を基調とした筐体を指さした。
「いいね。そうしようか。」
早速椅子に座って、コインを投入しハンドルを握りしめた。カウントダウンと共にレースが始まった。
「いやぁ〜、最後にあのアイテム引くのはずるいよ。シロくん。」
くそー。と、額に手を当てて悔しそうに天を仰ぐクロくん。
「実力的には負けてたし、運が良かっただけだから実質クロくんの勝ちじゃない?」
「いや、負けは負けだよ。次は、あれで勝負しよ。」
今度は、赤と青の太鼓がある音ゲーを指さした。
「何その嫌そうな顔。」
音ゲーは唯一苦手なゲームと言っても過言では無いだけに、いやがっていたのが、顔に出てしまっていたみたいだ。
「音ゲーは勝てる気がしないんだよ。」
「ふふん。音ゲーが苦手って言ってたの覚えてたんだよね。」
項垂れる俺に、鼻を鳴らして勝ち誇った笑みを浮かべて来た。ムカッと来たので絶対に勝つと意気込み、バチを握って曲を選択する。選んだ曲は勿論マジオルの挿入歌。難易度は最高レベル。
結果は、当然惨敗。リズム感の無さを露呈させた俺と違って、クロくんは一ミスとフルコンボまで惜しいところだった。
「にしても、シロくんはほんとに音ゲーが下手くそだね。」
俺勝ったのがよっぽど嬉しかったのか、ニコニコと満面の笑みで、毒を吐かれた。クリアラインにすら到達できなかった男に、反論の余地は無い。
「俺の無様な姿は一旦忘れてもらって。クレーンゲームでもしよう。」
「そうだね。ゲーセンと言ったらクレーンゲームだもんね。」
ココこそが、音ゲーの失態を挽回するチャンスだ。昔からクレーンゲームは得意で、だいたいは三回くらいで取ることができる。
「ねぇねぇシロくん。あっちにマジオルの公式キャラクターのフィギュアがあったから行こ。」
手を引かれてその場所まで連れていかれた。マジオルの公式キャラクターは、銀髪のメイドでチュートリアルやクエストの案内をしてくれる人気キャラだ。
「まずは私からやるね。ちゃんと見ててよ。」
気合いは十分といった面持ちのクロくんだったが、アームは狙いを大幅に外した位置に着地した。
「今のは気の所為だから!もう一回見てて。」
今度は、アームの片腕が箱の上に着地しただけで、動かすことは叶わなかった。
その後も、ムキになって千円程使っていたが、全て飲み込まれていた。肝心のフィギュアはと言うと、とは元いた場所からほとんど動いていなかった。
「クレーンゲーム下手くそなんだな。」
さっきのお返しで、軽く煽ってからチラリとクロくんの方を見ると、肩をプルプル震わせて顔を真っ赤にしていた。
「今日はたまたまだし、普段はもっと上手だもん。」
「そうだね。今日はたまたまなんだもんね。」
クロくんの主張を適当にいなして、クレーンを操作する。アームは狙い通りの位置に着地してきっちり掴んだ。それを繰り返し、今回も例に漏れず三回目で、フィギュアを落として見せた。
「すごーい。」
手をパチパチ叩きながら手放しで喜んでいるクロくんの前に、取ったフィギュアを差し出す。
「はい。じゃあこれあげる。」
「え?なんで?」
クロくんが、ポカンと口を開けたまま動かなくなった。
「なんでって、欲しいんでしょ。」
「いやいや、受け取れないよ。」
自分で取ったわけじゃ無いからと渋ってなかなか受け取ってくれない。
「ならこうしよう。喫茶店代と、今日のオフ会に来てくれたお礼。」
「そ、そこまで言うのなら受け取っておくね。」
恥ずかしいことを言って、ようやく受け取ってもらえた。
「名残惜しいけど、今日はここまでかな。」
羞恥心を紛らわすために切り出した。
「そうだね。今日は楽しかったよ。また、オフ会やろうね。」
「うん。またやろうか。」
ゲーセンを出て、またオフ会をする約束を取り付け、解散した。
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