黄の星

 偉大なる発見者であり発明家である、フォーティナイは言った。


『私は自分が求めるものを手に入れるまで、決して諦めるようなことはしない』


 彼はその言葉の通りに、不屈の精神で未開の地や鉱山を切り拓き、見事、金脈はもちろん新しい鉱物や資源を幾つも発見した。更には、それらを利用した機巧を数多く発明し、文明の発展にも大いに貢献した。

 誰もが金銀財宝はもちろん、その手から生み出される魔法のような発明品に心躍らせる。


 “だから、僕は──”


「お前ぇ、また来たのか!」

「毎日飽きずによく来るなァ、坊主!」

「うん! 今日は“西”の坑道に行こうと思うんだ」

「まぁた、お月様の思し召しってやつかァ?」

「そうだよ! 僕が思うに、この鉱山は月の満ち欠けに反応してると思うんだ。その法則に合わせて掘っていけば、いつか必ず“幻月の宝石”にも辿り着けるはずなんだ!」

「はいはい、まァ頑張れ頑張れ。せいぜいその細い腕が折れないように気をつけるんだな」

「なあ、昨日“東”の穴でデカいのが採れたみたいだぜ? 下のヤツらが騒いでた」

「マジかよ。今日は東に行くか!」

「ああ、全部採られる前に早く行こうぜ!」

 一瞬で少年のことなど忘れたように、鉱夫達は見向きもせずにその場を去っていった。


 ぽつんと。


 取り残された少年は、胸元に光る首飾りを握り締める。指の隙間から、透き通った美しい黄色の石が覗いた。背中の大きな荷物を背負い直して、もう片方の手でつるはしを握り締める。

 今ごろ賑わっている東の区画とは真反対、閑散とした区画に辿り着く。ここは最近何も採れなくなり、誰も近づくことがなくなった場所だ。

 それでも、少年の瞳は黄金よりも強く、金色に輝いていた。


 “絶対に見つけるんだ。​絶対に──”


「父さんのような偉大なる発明家に、僕はなるんだ!」


 一心不乱に岩盤を削る。

 その音は鉱山の片隅で、いつまでも響き続けた。


 そして、とある満月の晩。


 目もくらむような金色が光り輝き、少年の名前が世界中に知れ渡るのは、もう少し先のお話。

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