緑の星
この宇宙に存在する、あらゆる星々から「緑」を象徴する色彩を全て集めて創りあげたかのような、生命の楽園。
緻密なグラデーションが鮮やかに重なり合い、しゃらしゃらと清涼な音を奏でる。一枚一枚の葉は水晶のように透き通り、触れ合う度に星くずが零れた。木漏れ日が植物を生き生きと照らし、応えるように花は虹色を映して揺れる。
───古木の森。
両手を広げても到底届かない太い幹。立派な木々が聳え立つ小道を歩く。草葉の上では精霊たちが朝露で水浴びをしていて、頭上では羽のない野ねずみがふわふわ浮かんでいる。蝶々は泡を纏い、美しいヒレをゆらゆらさせて風と戯れ踊る。
彼らを横目に、辿り着いたのは湧きいずる大きな泉。
中央には、一際立派な大樹が君臨していた。
堂々たるその様はこの森の主と呼ぶに相応しく、何千年もの月日を刻み、天蓋を覆うように伸ばされた枝葉は鬱蒼と。辺りはまるで陽が陰ったように、日中でも薄暗い。
……此処には、森に生きた全ての魂が集うという。
碧色の水面から伸びるのは幾つもの茎。その先には何枚もの花弁が重なりあう妙なる花が咲いていた。そのうちの一つが手招くように揺れ、誘われるまま濡れるのも意図わず泉へと入る。
近寄れば金細工のように繊細で儚い花は、懐かしい瞳の色と同じ優しい光へと変わった。
「……………」
手でゆっくりと掬い上げる。
愛しさと共に胸に抱えたそれは、とくとく、とくとく。まるで鼓動するように明滅する。
どれだけそうしていただろうか。
遠い隙間から覗く空の向こうには、薄らと双子の月が顔を出していた。
名残惜しみながら一度頬を寄せて、水面へと光を還す。
ちゃぷんちゃぷんと揺蕩うゆりかごに揺られて、流れだした光の花。描く波紋には宝石のような日々が次々と映し出される。永い時間を共に過ごした。けれどどれも鮮明に覚えている。
星々が天空を廻るように、生命は循環する。
泉から流れ出した川は“森”を巡り、やがて遠い遠い“海”へと至る。水は空に昇り雲となって、雨はやがてこの地に降り注ぐだろう。
だから、
──また“貴方”に出逢える日を、“私”は信じている。
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