紫の星

 暗黒を溶かした空間。

 誰も見る者がいないそこで、ぼんやりと淡い光が点った。

 吹き消された蝋燭の煙が巻き戻るように細かな粒子が集まり、やがて美しい「紫」の灯火に変わる。色を失くした鉱物は輝きを取り戻し、それを合図にしてそこかしこで同じ現象が起きては様々な光彩が明滅して、みるみるうちに幾つもの図形を描いていった。

 足元に照らし出された瓦礫の合間から、透けた植物のツタが伸びていく。膨らんだ蕾が弾け、花粉のように中空に舞うとそこからまた新しい芽が吹いた。窪地には水がたゆたうように、波はさざめき光の海が生まれる。


 ​──この星の大陸や海洋を模した世界地図。


 それがどれだけ正確であるか、空だけが知っていた。

 天蓋には、満天の星空を映したように輝く鉱石たち。瑠璃、黄金、翠玉、紫水晶、金剛石、紅玉からステラムジカ星系を構成する美しい色彩が爛々と煌めきを放つ。

 隙間を行き交う流れ星は、瞬きと瞬きを線となって結び、忘れられた神話を描き出した。


 気の遠くなるような昔。

 地底深くに眠った、古代都市の亡骸。

 世界の秘密を紐解こうと、人智の限りを尽くして築きあげられた巨大な祭壇。

 紫水晶に守られ、幾何学模様に飾られた入口は固く閉ざされたまま。


 ──“アナタ”が見つけてくれる日を、“ワタシ”は待っている。

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