白の星

「バウムおばぁちゃん! ご機嫌いかが?」


 いくつもの大きな風車がゆっくりと回る小高い丘の上。

 色とりどりの花畑の中に可愛らしい木造の家が一軒あった。そこへ繋がる一本道を足早に、リースのかけられた扉を勢いよく開けると、娘は元気に飛び込む。


「あらぁ、ナンシェちゃん。来るのは午後じゃなかったかい?」

「おばぁちゃんに早く食べてもらいたくて、急いできちゃった!」


 明るい色のポニーテールを揺らしながら、手には大きなバスケットを持って、向日葵のように笑う孫娘に祖母はにっこりと微笑んだ。

 飾られたドライフラワーに溢れたリビング。ロッキングチェアにゆったりと腰掛けるバウムに、ナンシェは頬を寄せた。


「今度レーヌさんのカフェでだす新しいケーキね、わたしが一から考えて作ったの!」


 戸棚から食器を取り出して手際よく縞模様のランチマットの上に並べると、バスケットから宝石のような果実とぷくぷくとした生クリームのたっぷり乗ったタルトを次々に盛り付けていく。


「この果物はルトの森まで採りに行ってね、生地はリームの葉の朝露にレープの砂糖を混ぜて、妖精さん達にも手伝ってもらったの!」


 作り方を楽しそうに話すナンシェに、バウムはうんうんと頷き「めしあがれ」の言葉に、しわしわの手でケーキを一つ掴んで口に運んだ。


「ん~今回のもとっても美味しいねぇ。何個でも食べられちゃう」

「ほんと……? よかったぁ! 他にもね、旅人さんのお土産用に日持ちするお菓子も考えてるの」


 きらきらと瞳を輝かせるナンシェが嬉しそうに両手を上げると、その右袖から白い包帯が覗く。


「あらぁそれ……」

「あ、色々試してたらちょっと火傷しちゃって……。でももう大丈夫」

「心配だねぇ。毎日遅くまで作ってるんでしょう?」

「ん……」

「がんばり屋さんだねぇ。わたしの自慢だよ。でもね、無理だけはしないように気を付けるんだよ? おばあちゃんとの約束ねぇ」

「うん……!」

「ナンシェちゃんは偉いねぇ」


 怪我をした腕に優しく添えられた、バウムのふくよかで温かい手に、ナンシェは顔を綻ばせて、へにゃりと笑った。


「えへへ。だって、みんなに美味しいものをいっぱい食べてもらって『幸せだな』って『この星に来てよかった』って、想ってもらいたいんだもの!」

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