志方あきこ様『Stella Tone』公募作品まとめ
el ma Riu(えるまりう)
赤の星
遠く、美しい歌声が微風に乗って流れてくる。
頬を撫でるように通り抜けたそれに、薄紅の花弁がひらひらと舞い踊った。
見上げた極彩色の建築物に、どこまでも突き抜けるような青空。瑞雲が式典を寿ぐようにたなびいている。
微かに、低い太鼓の打つ音と、甲高い笛の音も聴こえてきた。近くを流れている小川のせせらぎと、どこかで鳴く鳥の声も混ざれば、正に夢見心地なのだが、
……どうやら迷ってしまったらしい。
「「……お兄さん?」」
石造りの塀に寄りかかり、途方に暮れて空をぼんやり眺めていると、小さな鈴を鳴らしたような声が二つ、響いた。
「!」
驚いて視線を下げれば、いつの間にそこにいたのか。
まるで鏡に映したような、瓜二つの顔をした幼子たちが見上げていた。花々の刺繍に飾られた上質な着物に、瞼の上で切り揃えられたぬばたまの髪。お揃いの桜の花飾りがしゃらしゃらと揺れる、可愛らしい人形のような双子だった。
「お兄さん、迷子?」
「ここは裏通りだよ」
同じ動作で小首を傾げる双り。この子らよりも大人であるのに、言われた通りの現状に気恥ずかしくなり「……うん」とだけ答える。
「ここは入り組んでるから、たまに迷い込む旅人さんがいてね」
「わたしたちがこうして、案内してあげるの」
『さあ、一緒に行こ?』
差し出された小さな二つの手を思わず取る。引かれるまま小橋を渡り、狭い小道を右に左に。通りすぎた脇道に、にぁと鳴いた猫を横目にして。狭い階段を軽快に登ると、耳に届く音楽も歓声も次第に大きくなっていき──
「!」
ふわり。一枚の花弁が舞い上がると、一気に視界が開けた。
──燦燦と輝く陽の光の下、眼前に広がるのは立派な朱塗りの舞台。その壇上で鱗粉を纏う羽衣を揺らめかせ、美しい天女たちが厳かに舞い踊っている。
翼を広げたような扇が翻り、手にした神楽鈴がしゃんと響く。
周りを囲む立派な桜の木々はどれも満開で、淡雪のように降り注ぎ、舞台を空から彩った。
まるで“天の国”に訪れたようだった。この星の言葉で云うならば“極楽浄土”か。
「綺麗だ……」
思わず零れた自分の声音さえも、五色に彩られたような妙音に変わる。
──春は、紅梅、桜花に遊び
──夏は、みんみん蝉時雨
──秋は、芙蓉、紅葉に踊り
──冬は、しんしん雪化粧
奏られる楽の音に合わせ、双子も嬉しそうにくるくると踊り始め、教えてくれる。
これは神々に豊穣を祈る舞で、四季折々それぞれに纏わる舞踊と歌があり、違う催しがされるのだと。
二人の楽しそうな“詠”が紡ぐ世界が、みるみる目の前に広がっていく。
今は春、次に来るという夏も、その次の秋も冬も。全ての季節を見てみたいと思った。今度は誰かと一緒に来るのもいいかもしれない。
「ありがとう。必ず、また来るよ。必ず──」
魅入られ高鳴る鼓動の先。
双子の承女は天上の桜を映して、満開に笑った。
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