過去の自分/未来の自分

 Side 羽崎 トウマ


 唐突だが今の時代がこんな時代になるなんて思わなかった。


 良い事はあるが、悪い事も多い。


 本当、どうしてこうなってしまったんだろう。


 選挙に行かない人たちのせい?


 政治家たちのせい?


 増税の嵐でまだまだ上がりそうな、真面目に働くのが馬鹿らしくなってる今の世の中でも、歯を食いしばって、なお頑張れと?


 ふざけんじゃねえよと思うが、それが現実なのだ。


 =昼・閉鎖世界・羽崎 トウマの家・リビング=


 そこで中学時代の自分とゲームをする。

 中学時代の自分は未来のゲームに夢中だった。

 時折こうして俺は中学時代の自分と接して、まるで弟か子供でも出来たような気分になった。

 

 中学時代の自分はロボット漫画家が夢だった。

 だが数年後にはヒーロー物に傾倒する事になるのだ。

 そして専門学校に行くが、テキトーにダラダラ過ごして夢破れてニートになった。

 その事を知って中学時代の俺はショックを受けた。


 そりゃそうだ。


 自分が夢破れてニートになるなんて中学時代の自分は信じられないだろう。

 だが夢を捨てて勉強をしろと言うのも何か間違いな気がする。

 そもそもにしてこの中学時代の自分は本当に過去の自分なのだろうか?


 いわゆるパラレルワールドの昔の自分と考えた方が色々とスッキリする。

 どうでもいいが、パラレルワールドの設定って便利だよな。

 

「信じられないな——未来がそうなるなんて——」


 リビングの大型テレビに家庭用ゲーム機を繋いでソファーでゲームをプレイしながら過去の俺が話しかける。

 隣には自分が座ってあれこれと喋っていた。


「だが君の世界でそうなるかは分からん」


「パラレルワールドだからですか?」


「ああ。オタクの必須科目と言っていい」


 パラレルワールドは昔はそこまで認知されてなかったが、2010年代やそれに突入する頃には幅広く知られる概念となっていた。

 やはりネット文化の発達や創作物の影響があるのだろう。

 

 念のため、詳しく解説するともしもの世界が現実化した世界で、もしもの数だけ世界がある。

 ピュアリアの少女とも出会えたし、こうして過去の自分と閉鎖世界で喋ったりして、とにかくとんでもない大発見をしているのだが公表するつもりはない。


 信じてもらえないだろうし、信じてもらえたとしても厄介ごとになるのが目に見えてる。

 タイムリープマシン発明した中2病の自称狂気のマッドサイエンティストじゃあるまいし。


「酷い事もたくさんあるんだけど、未来って凄い時代なんですね」


「呪われてるの間違いじゃないの?」


「でも、誰もが小説や漫画の投稿者になれる時代って凄いと思います」


「確かにそう言われてみると——でも世知辛い世界だぞ?」


 SNS、インターネットの発達で誰もが小説や漫画をネット上で発表できる時代になった。

 だが同時に闇が多い。

 小説界隈何かもそうだ。

 流行りのジャンルやタイトルの長い名前、テンプレなどなど——挙げたらきりがない。

 だが一定の需要があるのも事実である。


 俺も書こうかな、なろう系ファンタジー。

 チートでハーレムでざまぁすればプロの仲間入り出来るかな?


「でも、辛い事があるのはどの時代もあると思います」


「そう言われればそうなんだけど——」


 確かに過去の自分が言う事も真理だ。 

 間違いではないのだ。 


「確かに、ヒーロー物も進化してるしなぁ——」


「あの、いいネタ思いついたんですけど」


「なんだ?」


「ロボットに乗って過去にタイムスリップして戦うと言うのはどうでしょう? 上手く説明できないんだけど」


「有名な漫画の読み切りであったな——」


「あ、既に未来でやられてる感じですか?」


「いや、だけど多少のネタ被りはしゃあないよ。日本って創作立国なところがあるし」


 クールジャパンは政治官僚が産み出した幻想の産物だったが、その根拠である日本の漫画アニメのサブカルの力は存在したのだ。

 日本のアニメや怪獣映画が映画大国アメリカで無双し、アメコミを押しのけて日本漫画が絶大な人気を誇り、海外の文化や世論に影響を与えるレベルにまで何時の間にかなっていた。


 その源泉である日本は日々、様々なアニメや漫画が誕生している。

 ラノベの世界もそうだ。

  

 だから完全にオリジナルの作品を産み出すのは難しくなってきている。

 そう言う作品を産み出せて、なおかつヒットを飛ばせるのは本当に凄いと思う。 

 独自色が強い作品ってWEB小説じゃまず読まれないんだよな……何かしら流行りの要素入れないと読まれないから。


「未来の日本の漫画やアニメってそこまで評価されてるんですか?」


「うん。まあネットの知識だからどこまで正解か分からないけどね」


「ネットの影響力もそうですけど、テレビが没落するなんて思いませんでした」


「そういや俺が子供の頃はまだテレビの影響力があった時代だな。懐かしいわ」


 今は衰退しているが、昔は「テレビにちょっとだけでも出演出来たら嬉しいな~」なんて言う時代もあったのだ。

 今でも一定の影響力はあるが、昔の威光がまるで感じられなくなった。


「ああそうそう。漫画の話だけど、別に戦わなくてもいいんじゃない?」


「でも、カッコよくて強いロボットが戦うのがいいかな?」


「そうか~」


 過去の自分と会話してジェネレーションギャップを感じる。

 

「でも、アイディアがポンポン浮かび出るのは凄いと思う」


「そうか?」


「知ってると思うけど、絵が下手くそだし、良い漫画が思いつかなくて——」


「漫画を上手く描こうとするからダメなんだ。下手でも描ける、面白くて長く続けられる作品を考えるのもプロの条件だよ」


「そんな作品——あっ、だから日常物を書けって言ったのか」


「そうそう。別に4コマに拘らず、2コマ漫画でも3コマ漫画でも描けばいいと思うよ。とにかく画力は置いといて、漫画を作る事に慣れる。中学時代の僕に不足していたのはそう言う体験だ。永遠とオリジナルキャラをノートに書き続けるけじゃダメなんだ」


「凄い実感が籠ってますね——」


「並行世界の自分とはいえ、過去の自分の事だからね」


 だからどうアドバイスすればいいのか手に取るように分かるのだ。

 並行世界とは言え、思考回路や趣味嗜好は当時の自分とそう変わらないのも大きい。


「あの、今は小説を書いてるって聞きましたけど、漫画はもう描かないんですか?」


「そう言われると——」

 

 最近はあまりイラストすら描いてない。

 だがそう言われると描きたい気持ちが湧くのが人情だ。



 =朝・元の世界・自分の部屋=


 閉鎖世界から元の世界に戻る。

 元の世界に戻るまで昔の自分とイラストの描き合いっこをした。

 

「昔の自分は辛い事も多かったけど、夢に満ち溢れてたんだな——」


 今の時代。

 夢を見ずに現実を見なければならない時代なのかもしれない。

 そう思う時は沢山ある。

 けれども——


「もうちょっと頑張ってみますか——」


 この頑張りも、熱意も努力も、運命とやらに仕組まれているのだろうか。

 日本がこうなったのも、世界中が大変なのも、運命とやらに仕組まれているのだろうか。

 

 だが分かる事はある。


 分からないものは分からない。  


 あの世なんて物が本当にあるのかどうかも分からない。

 運命なんて物もあるのかどうかも分からない。

 

 過去の自分が未来の今のようになるのかも、もう分からない。


 世の中分からない事だらけだ。


 何が起きても不思議じゃない。


 戦争に巻き込まれるかもしれないし、大地震が起きて死ぬかもしれない。

 なんなら車に轢かれて死んだり、通り魔に刺されて死んだり、病気に掛かって死ぬかもしれない。


 考え出したらキリがない。

 

(本当にキリがないな——)


 自分に今できる最良の事をやるしかない。

 月並みな答えだが、ある意味では最善なのかもしれない。

 

 今の世の中は、過去の自分が言った通り悪い事も多いが、良い事もある。

 小説と言うか——ラノベ業界も今後どうなるかは分からないが、何かしらの形で存続していくかもしれない。


 それに例え業界がどうなろうと自分は今更、文字を書くのを諦めるのは無理だろう。


 プロになるのが例え夢物語だったとしても文字を書くのを諦めるのはできない。

 それ程自分は器用ではない。不器用だったからこそ今があるのだ。

 過去を幾ら否定しても今が変わるワケでもあるまいし。

 

 まあ、なにはともあれ、世の中がどう変わろうと、自分は小説を書き続けるのだろうと思った。

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