隣の悪の女幹部さん

 最近I市も物騒になって来た。


 エンジェリアのような女児向け戦闘アニメのような女の子が戦ってるのだ。

 何か理由があるのかもしれないが、地元住民からすると物騒でたまったもんじゃない。


 だけど慣れとは恐ろしいものだ。

 それに被害らしい被害は出ておらず、日常の一つとして溶け込んでいった。


 物騒と言えば最近日本橋も切り裂きジャック事件で物騒になった。

 マスコミが勝手にそう呼んでる事件だが、真相はとんでもないネットがお祭り騒ぎする内容だった。

 博多を舞台にした殺し屋小説を思い出してしまうレベルだ。

 そうして事件が解決した後も再び事件が起きてもうネット界隈は大混乱に陥っていた。


 とまあ、そんな感じで日本橋も騒がしくなったのでちょっとばかり距離をとろうとした矢先の出来事である。


 キッカケはローカルヒーロー団体、ダーク・スターのボランティア活動中に知り合った黒髪の外国人の女性「ミストレス」さんとの出会いだ。

 主に駅とショッピングモール周辺の清掃活動をしていた時、知り合ったのがカトレーヌさん。

 ボリュームあるフワッとした長いウェーブ掛かった黒髪に大人の女性らしくいて綺麗な顔立ち。

 赤く凛々しい瞳。

 大き過ぎず、小さすぎずな赤いリップ。

 豊満な男には目に毒過ぎる爆乳にヒップ。

 二次元でしかあり得ないようなドエロい人妻キャラのような雰囲気の女性だ。

 

 なんでもミストレスさんはヒーローが好きらしく、ダーク・スターの代表者、ヤミノ博士を挟んで紹介された。

 つっても自分はヒーローは詳しいかどうかと言われると微妙だ。

 最近の令和のヒーローは分からないのに昭和のヒーローに詳しくなっていく一方だからだ。


(しかしこの集まり、やはりヒーロー好きが多いな)


 ダーク・スターの集まりに参加する人間は何かしらのヒーローが好きだと言う人間は多い。

 ダーク・スターの活動に参加するための目的の一つに、同じヒーローの話題とかで盛り上がりたいと言う理由の人々も大勢いた。

 その中には女の子もいて、ちょっとした合コン状態になるのだ。

 

 自分はそう言う目的を持って参加しているのはもう諦めている。

 たぶん四十代になっても五十代になっても女とは無縁の人生を生きるだろう。

 そう思っていた矢先に最近は女っ気が出てきた気がする。 


 それはそうとミストレスさんだ。

 外国の方で日本の事に詳しくはないらしく、更にディープなヒーローマニアで二本には本物がヒーローがいると信じ込んでいるようだ。


 まあエンジェリアの例もあるしNOとは言い辛かった。 

 

 =ミストレスさんの家=


 まさかのミストレスさんの家に招待である。

 一軒家だ。 

 付き人の女性たちが家事をしているらしく、裕福な家庭のようだ。

 俺はミストレスさんとリビングテーブルで挟んで二人きりで話した。


「私はアークゾネスの先遣隊として地球侵略の為に活動していて、ダークスターとは協力関係の身だ」


「つまり、ローカルヒーロー仲間と言う事ですか?」


「そのローカルヒーローとは何なの?」


 どうやらローカルヒーローの事には疎いようだ。

 外国ではあまり盛んではないのかな?


「ローカルヒーローと言うのは——まあ、有志の人が頑張って演じるご当地キャラ、マスコットキャラみたいなのかな? そのヒーロー版みたいなの」


「うーん。分かったような分からないような?」


 説明しても首を傾げていた。

 俺もミストレスさんはあまりローカルヒーローの事情には疎いのかなと思っていた。


「それはともかく、地球侵略云々は信じていないようね?」


「えーとそれは——」


 そう問われて俺は困惑する。

 確かに本物のピュアリアとかと出会ったりもしたが、実はこの世界に悪の侵略者が存在するとかは流石に——ないとは言い切れないよな。

 エンジェリアみたいなピュアリアみたいなのいるワケだし。


「証拠がなければ信じないですね」


「そうか証拠ね」


 そう言ってミストレスさんは立ち上がり、姿を変えた。

 

 まるで特撮物に出てくる悪の女幹部のような姿になる。

 SFチックとかサイバーパンクとも言えるかも知れない。

 頭部にはサークレット。

耳にイアーパッド。

 赤いマントに胸の谷間丸出しのハイレグボンテージ、バックルベルト、大きな金の肩のアーマー、サイハイブーツ。

 長手袋にゴールドのガントレット。

 体の各部に金のプロテクター。

 ボリュームある黒く長い髪の毛、爆乳と豊満なヒップなどが合わさり、とんでもなくセクシーな魅力満載な大人の悪の女幹部が誕生した。


 一瞬の出来事だった。

 

「本物のピュアリアの次は本物の悪の女幹部か——」


 その事に何故だか苦笑してしまう。

 

「で? この後どうするんですか? アークゾネスに忠誠を誓って地球侵略の手伝いをしろとかそう言う——どうした?」


「いや、その、なに? 変身してまで信じてもらおうとして私は何をやってるんだと思ってしまって―—」


「は、はあ……」


「正直に話しても誰も信じてくれなくて、だけどようやく信じてくれる人が現れてちょっと嬉しかったり——」


 などと言いながらミストレスさんはモジモジしていた。 

 なんだこのカワイイ生物。

 


「で? 何をすればいいのか分からないと?」


「ええ。地球を侵略しろと言われても、あまり予算や軍事力を割けないらしくて——地球ってこう言うのも失礼だけど、辺境銀河の月に行くのも一苦労な程度の低水準の文明のイメージがあるらしくて、上の方も楽に征服できるだろうとか考えているらしくて」


「それでも、ある程度纏まった戦力は必要だと思うんですけど——」


「だけど、派手に動くとアルティアスとかタイタニアン、銀河連邦が動いて征服どころでは無くなる可能性もあるの。だから戦力は基本現地調達よ」


「つまり強いヒーローに目を付けられてしまうから地道に活動しているワケですね」


「ええ。こうして正体を明かしたのも賭けに近かったわ。それに——」


 と言って顔を赤らめる。

 なんだ急に?


「いえ、なんでもないわ。それと時間はある?」


「まあ暇っちゃ暇ですけど」


「なら——」



 一体何だったのだろうか。

 洗脳されるワケでもなく、改造されるわけでもなく。

 ただ一緒に特撮ヒーローのアレコレについて語り合ってゲームして遊んだだけだった。

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