第7話「大阪日本橋探索2」

 Side 羽崎 トウマ


 =昼過ぎ・大阪日本橋(?)・ジョー〇ン本館=


 結局ジョー〇ンの建物で元の世界に帰れる手掛かりらしい手掛かりは見つからず、4人と一匹と一緒にジョー〇ンの本館へと移動した。

 

 そこでも探索したが収穫はゼロ。

 ついでだから俺の世界のヒーロー達の展示ディスプレイを見せる事にした。

 

「さっきのジョー〇ンでも見たけど、これ全部ヒーローの変身ベルトなの!?」


 と、黄戸 ようこが興奮気味にディスプレイに飾られた20人分以上のライドセイバーのベルトを眺める。

 

 他の皆もこの世界のサブカル文化に圧倒されてる様子だった。


「こんなに沢山ヒーローの玩具があるんですね!」


 と、セイナさんも満更でもなさそうだった。


「トウマって本当にヒーローが好きなんですね」


 はるなの言葉に俺は「まあね」と苦笑して返しておいた。

 

「どんな男と結婚するかは分からないけど、俺みたいなのとはやめとけよ~」


「うーん? そう言われてもピンと来ないな?」


 はるなは真剣に考え込む。

 俺はハァとため息ついて——


「30代にもなって彼女も出来た事もなく、玩具とかゲームとか小説とか書いて、うつ病発症して休職中の実家暮らしで障害年金暮らしだぞ?」


「それってそんなに悪い事なの?」


「——え」


「仕事できないから休職してるわけだし、ちゃんと制度とか利用して賢いなって思うんだけど——」


「う、うーん?」


 そう言われるとそうかも知れないなぁ、などと思った。

 母親にクソカスのように言われてるからか、年下の女の子にこう言われるのは何だか新鮮だった。


「極端な話、病気で休んでダメな人になるんなら病気で苦しんでる人は全員ダメな人になりますよ? それって社会的にどうなんですか?」


「た、確かに——」


 一理ある考え方だ。

 だが悲しいかな、正論を説いても通じない相手には通じないのだ。

 ウチの母親がそうだ。

 昭和の価値観に縛られていると言っていい。

 俺より頭のいい筈の政治家とかも案外昭和の考えに縛られているのかもしれない。でなければとっくの昔に経済は回復してるだろう。


「なに真剣に考え込んでるんですか?」


 と、調べ終えたまどかとウサリンがやって来た。


「——勉強は大事だけど、学校の勉強だけでなく、人生の勉強もしないとなと思っただけ」


「人生の勉強ですか?」とまどかが言い、


「何だか難しい話リン」とウサリンが難しげな表情をする。


 俺は何を考えてるんだ。

 考えたところで何かが変わるワケでもないのに。 


「30年以上生きて来て、普通の人とはかなり違った人生歩んできたけど——ふと、普通の人生って何だろうなって考えちゃって」


「普通の人生リンか?」


 ウサリンが尋ねる。


「昔は普通の人生って言えば、何となく大学に入って、適当な企業で働いて給料もらって、女性と付き合って結婚して、家庭を持って、子供作ってマイホームとか車とか持つ——とかだったんだけどさ、今はもうそれが当り前じゃなくなって来てるんだよな——」


「ソレを聞くと私の家って恵まれてるかも」


「うん——」


 俺の言葉にはるなとまどかが頷く。

 ようこも同じく顔を曇らせる。

 セイナは異世界人ゆえか地球の経済事情には疎く、戸惑っていた。


「ちゃんと選挙の投票には行ってたんだけど、日本の世の中どうしてこうなっちゃたかな——そんな世界でも夢を持ち続けろって政治家連中は言うんだぜ? 勝手だよな?」


「トウマも夢があるの?」


 ようこに尋ねられる。


「君と同じだよ。ようこ先生。君の場合は漫画家だけど、偉大なヒーローを産み出した先生のように俺もヒーローが活躍する小説を作りたい」


「トウマ——」


 気色悪いかも知れないが俺は自分の夢を少女達に明かす。


「中学時代はロボット物の漫画家を目指してたんだけど、高校時代からはライドセイバーの漫画の影響でヒーロー漫画家を目指して——専門学校にも通ったけど、そこから小説家を目指してはや10年以上——芽が出ずに時間が経過して気が付けば三十代も半ばさ」


 と、自嘲気味に自分語りをする俺。


「どうして漫画家から小説家に?」


 当然の疑問をようこがする。


「自分の絵に自信が持てなくなったのもあるけど、小説と言う媒体の方が多くのヒーローを出せる、活躍させる事が出来るんじゃないかって思ったんだ」


「そうなんだ」


 何故か安心したようにようこは言う。


「それに三十代になって辛い事も多いけど、楽しい事は沢山あるぞ? それに君達にこうして出会えたのは人生で最高のプレゼントかもな」


「「「「えっ?」」」」


「リン?」


 皆の反応に俺は慌てて——


「ごめんな、三十代のオッサンがこんな気色悪い事言って——」


「うんうん気色悪くなんかないよ」


 必死に取り繕うとする俺の言葉を遮るようにはるなが嬉しそうに言う。


「私も——ちょっと変わった人だと思うけど、悪い人じゃないと思ってる」


「そうリン、自信持つリン」


 はるなに続くようにまどかとウサリンが、


「そうだよ。ヒーローが大好きな人に悪い人はいないよ」


 ようこも続き、


「そうです! トウマさんは悪い人じゃありません! 私が保証します!」


 最後にセイナが断言する。


「たく、皆そう言うところが凄いんだよ。ピュアリアに選ばれるワケだ——」


 敵わないな。

 そう思ってしまった。


「そう言うところがってどう言うところがですか?」


 セイナが疑問をぶつけてくる。


「普通、君達ぐらいの女の子が出会ったばかりの30代のオッサンの自分語りなんか聞いたら、何て言うかその、何言ってんだこいつ? みたいな対応するのが普通だよ」


「そんなものですかね?」


 セイナが首を傾げる。

 皆も首を傾げた。

 

「本当に君達は——凄いよ——ピュアリアだからじゃない。なるべくしてなったんだな、ピュアリアに」


 本当に敵わない。

 心の底からそう思ってしまった。 


 

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