第3話「桜 まどかとウサリン」

 Side 羽崎 トウマ


 =昼前・自宅?玄関前=


 光の蝶の出現と共に新たな来訪者。

 

 赤味掛かったボブカットの可愛らしいスカートの私服の女の子。

 そしてピンク色の宙を浮くウサギ。


 現れたのは新たなピュアリア。


 野木 はるなは面識があるので、この状況下で会えて嬉しそうだった。

 なにこれ? ピュアリアオールスター的なアレなの?

 なんかヤバい黒幕でもいんのこれ?


 それはともかく、目の前の新たなピュアリアとマスコットキャラだ。


「はるなちゃん!!」


「まどかちゃん!!」


 野木 はるなは新たに現れたピュアリアの少女、桜 まどかと嬉しそうに抱き合った。

 マスコットのウサリンも喜んでいる。


「まさかこんな所で会えるなんて!!」


「私も!! まどかちゃんに会えて嬉しいよ!!」


 二人とも大はしゃぎだった。


「それはそうとここは何処だリン?」


 マスコットのウサリンは周囲を見渡しながら言う。

 

「そうだよね。明らかにやすらぎ市とは違うし——」


 やすらぎ市とは桜 まどかが住んでいる場所だ。

 その事に困惑している様子だった。


「あー実はその事で話が」


「話?」


 桜さんに野木さんが話を切りだす。


「その——信じられない話なんだが……」


 =昼前・自宅?リビング=


 リビングで——まだ分かっていない部分も多いが——分かっている範囲の事を桜さんに説明する。


「ここが大阪日本橋を中心とした謎の空間で——その人の世界では私達の戦いがアニメと言う形で語られていて——この空間にこの人が関わってるの?」


「まあ正直この事件の黒幕だと思われても仕方ないと思ってる」


 まどかの言葉にそう補足を入れる。


「でもこの人、悪い人じゃないよ。ただ辛い現実や過去に苦しめられてるだけ」


 野木さんが助け舟を出してくれる。

 ……助け舟だよな?


「正直信じられないリン。僕達の戦いがアニメの出来事として語られてたなんて」


 ウサリンの言葉に俺は——


「あくまでアニメとしてだからな。一から百まで全部描いてるワケじゃないからな。それに俺だって、もしかしてどっかの世界では何かしらの形で物語として語られてるかもしれないし」


「そ、そう——」


 桜 まどかは俯き——そしてこう言う。


「私が——長い事病気で苦しめらえていたのも——」


「「違う」」


 俺と野木さんの言葉が重なる。


「まどかちゃんの過去は知ってる。どう言って良いのか分からないけど、まどかちゃんは勘違いしてると思う。羽崎さんも言った通り、ただアニメとして語られていただけなんだよ。私のイジメの過去だって……」


「俺が言っても他人事でしか無いと思うが——野木さんの言った通り、桜さんが経験したことと、自分の知るアニメは別物——ただ自分の人生が何処かの名の知れない世界でアニメとして放映されていたぐらいに考えて欲しい」


 俺と野木さんの言葉を聞いて「……ありがとう。でも、心の整理が上手くつかないかな?」と、悲しげな表情をしていた。


「一昔前にこう言うアニメあったな。アニメや漫画のキャラが現実世界に現れるって言う内容のヤツ」


「そう言うのあったんですか?」


 野木さんが興味を示した。


「その登場人物達は自分達の経験した出来事が物語として語られている事に様々な反応を示すわけだ。創作者に文句を言う者、感謝する者、創作者を殺した奴もいた」


「こ、殺したリンか!?」


 その事に驚いた様子をみせるウサリン。

 他の二人も驚いている。


「ああ、アレはそ殺したかったから殺した感じかな? 中には創造主を拉致監禁して救いのある世界を無理やり描かせようとしたりもした奴もいた」


「さ、流石に私そこまではしないかな?」


 と、引き気味に桜さんは言った。


「だけどその作品によれば——創作された世界に影響を及ぼすには、創作物として存在する世界で周知されている事、そして何よりも内容が受け入れられている事が重要になってくる」


「ど、どういう事?」


 当然の疑問を野木さんが言ってきた。


「例えば普通の高校生キャラを宇宙一最強の存在と言うキャラクターにするとしよう」


「ふんふん」

 

 熱心に聞く耳を立てる野木さん。

 桜さんも熱心な顔つきになる。


「ここで問題になってくるのが——どうして? なぜ? そのように? と言う感じで理由が描かれていないといけない。そしてその理由が多くの読者に納得がいくような物でなければ現実にいる創作キャラに変化は起きない——と言うのがそのアニメ内でのルールだ」

 

「そうリンか……」


「逆に受け入れられさえすれば死者蘇生も可能だった。その世界の現実世界の人間を創作キャラとして限定的に死者蘇生させると言う荒業すら可能だった」


「そんな事可能だったんですか!?」


 と、桜さんは言う。

 野木さんも驚いたようだ。


「まあその作品ではと言う事だよ——話を戻そう。桜さんの悩みは自分が創作っ物の世界の人間なのかそうでないかと言う悩みだが……正直に言うと考えるだけ無駄だ」


「無駄なんですか?」


「何度でも言うけど、俺達の世界でアニメとして描かれた出来事以外の事は知らないし、知りようもないからね? 例えばここに来る前まで何をしていたかとか、昨日の夕飯は何だったのかとかさ——」


 そう言って一息つく。


「もういっそ平成ジェネレーション・フォーエバーとか、スーパーヒーロー戦記見せた方が早い気がしてきた——近くに〇ョーシンあるし——」


「それどんな内容なんですか?」


 と桜さんが食いつくように尋ねて来る。


「実は自分達が架空の存在だったら? 物語の存在だったら? と言うのを題材にした物語——まあ観たからと言って何かが変わるワケでもないだろうけど」


「でも、私は見たいかな?」


 と、野木さんが興味を示す。


「今時の女子中学生って特撮に興味あるの?」


 俺は不思議に思って尋ねた。


「私は単純に興味を持ったから」


 元気よく野木さんが返す。


「私も——それに話してみて分かったんですけど、私の事、頑張って勇気づけようとしてくれていて、はるなちゃんが気を許すのも納得かなと思って」


「そうリンね。まどかの言う通りリン」


 笑顔の桜さんとウサリンにもそう言われて俺は照れてしまう。


「あ——そのありがとう」


「どういたしまして。私、動揺して、怖くて、自分を見失ってた。でも自分を取り戻せたのは羽崎さんのおかげだよ」


「ど、どうも」


 照れてしまう。

 こんな心優しい女子中学生、中学時代にいたっけ?

 いや、だからこそピュアリアに選ばれたんだろうけど。


「そう言ってくれて嬉しいけどお、一応自分三十代のオジさんであまり警戒を解くのはどうかなって? こんなところ誰かに見られたら警察案件だわ」


 そう思うとちょっと頭が痛くなってきた。


「もう、羽崎さんまたそんな事言う」


「私達は大丈夫だから」


 野木さんと桜さんの優しさが二重の意味で染みる。

 とりあえず昼ごはんの準備に取り掛かろう。

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