第2話「野木 はるなその2」
Side 羽崎 トウマ
=朝?・大阪日本橋?・自宅?前=
とりあえず俺は野木さんを自宅に案内する。
折角なので近所の自販機やコンビニから飲み物や食べ物を持ち込む。
自販機は硬貨を投入しなくても物が買えて、コンビニもそんな感じだ。
まるで文明が綺麗に残ったまま終わりを迎えたかのような状態である。
「親父の車もあるな——」
「ここが羽崎さんの家なんだ?」
「ああ。建てたことを後悔してたよ」
「後悔? どうして?」
「俺がうつ病発症したりして実家暮らしをしてるからだと思う。まあそれだけじゃないと思うが……」
「私——大人って大変だなと思ったけど、まだまだ勉強不足だったんだなって思った」
「自分もそう思う時あるよ」
野木 はるな は、ピュアリアになるだけあってそこらの中学生女児とは出来が違うらしい。
=朝?・自宅内?・リビング=
「ここが家なんだ?」
「父親も母親もいないか……この分だと兄もいなさそうだな」
「兄もいるの?」
「まあな……3兄弟で自分が末っ子、そして真ん中がいる。一番上は東京で最近赤ちゃん出来た」
そう言って棚に飾ってあった赤ちゃんの写真を持ってくる。
「宗助って名前らしい」
「へえ~カワイイ~」
「そうか……」
「え? カワイイとは思わないんですか?」
「正直言うとあまり——可愛いと思うより自分が情けなくなるからあまり直視したくないんだ」
「あの——女の人と付き合ったりはしないんですか?」
ああ、言われるよなそりゃ。
「ない。それに付き合って子供でも作ったら人生的に詰むから作らない」
「詰む?」
「子供を育てるのってどれぐらい掛かるか——えーとなになに」
そしてスマホを検索する。
「子供が成人するまでにかかる費用は大体3000万ぐらいだって……」
「3、3000万!?」
「あれこれ節約すれば3000万は切るだろうけど、普通の人間にとって馬鹿に出来ない金額だ。ちなみにサラリーマンの障害年収は2億6000万円か」
「あ、それなら子供を一人ぐらい余裕で養えるんじゃ——」
「2億6000万円を÷65——大体定年退職するぐらいの数値にして計算すると年収400万円だ」
「年収400万円?」
「大体中小企業ぐらいの年収らしい。月収は約34万円。まあ成人男性が月一で快適な暮らしをするには十分な金だな」
「だけどそれでも色々と金が掛かるんじゃ——」
「まあな。年金とか各種保険料、光熱費、ガス台、水代、飲食費、生活必需品——まあ月収30万円もあればよっぽど無駄遣いしなければ大丈夫でしょう」
「ちょっと安心したかも」
「んでまあ結婚して子供作って——」
「あ、そう言えばそう言う話だった!?」
「3000万円を÷20にして、一年に掛かる子供の養育費は単純計算で150万で——」
「150万!?」
「月換算で13万ぐらいだとさ」
「子育ててそんなに掛かるんだ……超ショック……」
目を丸くして顔を青くして何だか不謹慎ながら面白い事になっている野木 はるな。
「あの——大丈夫? あんま気にし過ぎると親御さんが逆に傷つくパターンだからねこれ? 話ふっといてなんだけど……」
「でも、そんなこと考えた事なかったな」
「それが普通の中学生だよ……俺が中学生の時は夢に逃げてたし」
目に見えて野木 はるなは落ち込んでいた。
「夢に逃げてた?」
「……中学時代、何もかも上手く行かなくてさ。漫画家って言う夢に逃げたんだよ」
野木さんが何か言おうとしたが食事をするように進める。
☆
気まずい雰囲気だ。
テレビをつける。
元の世界のニュースやバラエティやらやってるが、ここ最近のテレビは面白くないと言うのは本当らしい。
政治は紛争地帯の事やら内閣の批判ばっかりで気が滅入るので面白くもないバラエティ番組をつけておく。
「あの、羽崎さんって——その、中学時代になにかあったんですか?」
「……イジメを受けてた」
「そう、ですか——もしかして私のイジメの事も?」
「知ってた」
「……どんないじめだったんですか?」
「学校に通いたくなかった。人生とか社会に絶望した。そんな時代さ。小学校の頃は君のように友人には恵まれてる方だと思ったんだけどね——」
そう前置きして語り始める。
と言ってもダラダラと語らずに、なるべく手短に済むように話す。
自分は絵を描いてて、独り言が多くて、奇行も多くて周囲から浮いたような奴であること。
部活は卓球部だったがそんな熱心な方ではなく、ぶっちゃけ親の機嫌取りのために通っていたこと。
何時しか不良を筆頭にいろんなグループからイジメられたこと。
物を隠されたり、漁られたり、机に落書きされたり、罵倒を浴びせられたり、暴力を振るわれたりしたこと。
酷い時はトイレに連れ込まれてボコられた事もあった。
何度も親や教師に相談したが一向に解決しなかった。
そうして自分の人生に絶望して、漫画家になって復讐すると言う謎の結論を持つに至った。
そうして負け犬のような気分になって学校を卒業したこと。
それが自分の中学時代である事を語った。
「——悪い、調子に乗って語り過ぎた。ごめんなさい」
「うんうん、羽崎さん悪くないから——辛かったんだね——」
「ごめんなさい―—ごめんなさい——」
野木 はるなは泣いていた。
中学生であると同時に伝説の戦士ピュアリアに選ばれる少女なのだ。
普通の少女である筈がない。
そして彼女は歴代戦士の中でもいじめの過去を持つピュアリアである。
だからこそ辛さが分かる部分があったのだろう。
そんな彼女だからこそ、聞いて欲しかったのかもしれない。
そんな自分の弱さに吐き気がするほど後悔してしまった。
少し席を外すために外に出た。
☆
【昼・自宅・玄関前】
野木 はるなが自宅から出てきた。
「大丈夫か?」
「うん。私は大丈夫だから——あの——」
「なに?」
「漫画家の夢? どうなったの?」
「……叶わなかった。もう二度と目指すつもりもない。今は作家目指している」
「そう。同じピュアリアでそう言う人いたよ。漫画家目指している子とか、作家目指している子とか」
いわゆるオールスター時空での関りだろうか。
他作品のピュアリアのことを語る。
「……自分の場合、夢を復讐の道具に使った時点で何かが間違ってたんだと思う。漫画家の夢を諦めて作家を目指そうとしてはや十年以上経つけど、一向に目が出ないな……」
「そう」
「作家の夢を目指そうと思ったのも、今にして思えば漫画家より楽そうだからとかがキッカケだったけどね——」
「夢が叶わなくて、辛いと思った時はありますか?」
「あるよ」
即答した。
「小説——と言うかラノベの作家デビューの方法は二つあってな。一つは出版社に送る方法、もう一つはWEB連載で人気を出して出版社の声が掛かるのを待つ方法だ。自分は出版社の声が掛かるのを待つ方法を選択してしまった」
「してしまった?」
「……自分、出版社に小説を書こうとすると、どうしても途中で手が止まるんだよ。だからWEB連載と言う形で声を掛かるのを待つ方法を選択した」
「そうなんだ……」
「だけどWEB連載ってのは、タイトルの付け方とか流行りの要素とかを敏感に感じ取る力とか必要らしくてな——それに+αが必要なんだって。今じゃもう異世界転生だけじゃ流行らないんだとさ」
「異世界転生? ああ、なんかWEB小説でよくあるアレですね」
「自分も書こうと思ったけどなんか無理だった。安易に流行りに乗らない自分カッコいいとかじゃなくて、何か自分の書きたいものじゃないから——」
「そう言えば羽崎さんってどんなの書いてるんですか?」
「ヒーロー物だわな。ライドセイバーとか戦隊とかメタルヒーロー、ウルトマイトとか好きでね」
「そう言うヒーロー物があるんですね」
「うん。高校時代にライドセイバースピリッツって言う漫画に出会ってから目指し始めたんだ」
「ライドセイバースピリッツ?」
「昭和ライドセイバーの初代からZまでの10号セイバーの活躍を描いた作品だ。月間連載でかれこれ20年以上連載しているんじゃないか?」
「20年も!?」
「うん。うんで最近ようやく終わりが見え始めた感じ」
「へえ——」
「どうした?」
野木さんを見ると、何故だかとても嬉しそうな表情をしていた。
「なんか今の羽崎さん、生き生きとしてるよ」
「ああ、ごめんなさい。趣味の話になるとつい——ね」
恥ずかしくなってつい謝る。
「もう、謝ってばっかりだよ」
「……あ、その——」
「ふふふ。それが本来の羽崎さんなんだね」
そう言われると何だか照れてしまう。
「光の蝶?」
ふと、野木さんの言葉につられ、視線を辿ると光の蝶が現れた。
そしてその先には新たな人物が——
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