第1話「野木 はるな」
Side 羽崎 トウマ
=朝?・1日目・大阪日本橋?=
「野木 はるな?」
はて、どこかで聞いた事のある名前だ。
その名前と容姿、制服と言う背格好といい、何かのアニメキャラのコスプレだろうか?
ともかく——
「羽崎 トウマ。現在休職中の三十代のおじさんだ」
そしてその場から離れようと——
「てっ、どうして離れようとするの!?」
「いや、だって絵面的に職質案件でしょこれ? 三十代と十代半ばの少女がこんなワケの分からない場所で二人きりとかヤバいって」
俺は俺なりの持論を展開するが……
「どちらかって言うとこの状況で離れ離れになるのが危ないと思うんだけど? あ~皆どこ? アイちゃんも心配だよ~」
「アイちゃん?」
「あっ、アイちゃんてのは赤ん坊のこと——」
「その……なんだ……聞いてすまなかった」
「あの、なんか勘違いしてません!? アイちゃんってのはその、空からリオンと一緒にやって来た赤ちゃんで——」
「落ち着いて。何を言ってるのか分からないから。つかアイちゃんに——野木 はるな?」
「え? なに? どうしたの?」
野木 はるなは不思議そうに此方を眺めて来るが、自分は構わずにスマフォを探す。一度スマフォを落とした教訓からズボンにチェーン(近所のホームセンターで買った1000円ぐらいのヤツ)でスマフォを繋いであるので落としてもすぐわかる。財布も同様の処置をしている。
それよりも今はスマフォ。
パスワードを解除してネット検索を開き、検索欄には「のぎ はな」「アイちゃ ん」そして最後に「ピュアリア」と検索した。
ピュアリアとは日曜朝型にやっている変身ヒロインものアニメでると同時に女児向けアニメである。
トウマが高校時代のぐらいに第一作目が発表されて大ヒットし、それから続編、新シリーズと3作目の新シリーズ、3作目の続編、以降一年交代で新たなピュアリアが誕生していっている。
そして目の前の超ハイクオリティコスプレ少女、「野木 はるな」はシリーズ第15作目の記念すべき主役ピュアリア、「ピュアエール」。
アイちゃんは物語に関わる重要人物の赤ん坊だ。
妙に記憶に残るピュアリアだった。
と言うのも彼女はイジメを受けていた過去があるせいだ。
自分のいじめ体験とアニメキャラのいじめ体験を重ね合わせてシンパシーを感じてしまうのは自分でもどうかとも思ってしまうが……だから印象に残った。
久しぶりのピュアリアオールスターをやったシリーズでもあったので映画も観に行った。
「君は——本物のピュアリアなのか?」
「え、それ、どういうこと——」
明らかに動揺している。
その表情を見て俺は——
「まあどうでもいいか」
「どうでもいいの!? それはそれで超ショックなんだけど!?」
「とりあえず自己紹介も終わったし、周囲を探索するか——」
「あの、何か重要な部分を誤魔化しませんでした?」
などと聞かれたので俺はハァと溜息をついて——
「えーとやっぱり、ピュアエールなの君?」
「何で知ってるの!?」
「あースマホで検索したから?」
「スマホに載ってるの!? 初耳なんですけど!?」
そして俺は軽くスマホでピュアリアシリーズ15作目、「LOVEっと!ピュアリア」の公式サイトを見せる。
はるなは「ナニコレ?」と言った表情になった。
「ちょ、これ、どう言うことなの?」
「こっちが聞きたいんだけど——」
正直目の前の野木 はるなが、ただの野木 はるなを名乗るコスプレイヤーだったら完璧な名演技である。
女優目指せるレベルだろう。
「まあ落ち着く―—のは無理かもしれないが——これだけは言っておく」
まるで善良な、何も悪さをしていない子供を𠮟りつけるようなイヤな気分になりながらも告げなければならない。
それも慎重にだ。
「俺達のいた世界では、ピュアリアの活躍はアニメと言う媒体で放送されていた」
と言う感じに言った。
これでもかなり配慮した言い回しだ。
少なくとも「アナタは漫画やアニメのキャラです」と言うよりかはマシだ。
「俺はそう言う世界線の人物だ」
俺は畳み掛けるように説明する。
「世界線?」
「並行世界についての知識は?」
「へ、並行世界ってアレですよね? 何かよくゲームとか漫画とかである、もしもが実現した世界?」
「そうだ。そう言うもしもの世界が実現したのが並行世界だ」
「えーとつまり、私達はテレビの世界の住民であなたはテレビの向こう側の人だったとか?」
顔を青くしながらそう語り掛けて来る。
俺は慌てて——
「解釈は間違ってないが最悪の部類の解釈の仕方だな——俺とこの君の出会いだってどっかの世界では小説媒体で出版されているかもしれないし、あるいはWEB小説の形であまり誰にも知られずにヒッソリと存在しているかもしれない」
と言った。
「??? ますます分からなくなってきた」
今度は首を捻り出すはるな。
「つまりアレだ。無理かもしれないが、自分がアニメのキャラだとかどうとか考えても無駄だと言う事だ―—」
「う、うーん」
説明の仕方が悪かったのか納得してないようだった。
「とりあえず脱出方法を探してお互い一刻も早くここから出よう。ここでの出来事は悪夢か何かだと思って忘れて日常戻ろう……そっちの方が賢明だろう」
とは言ったが、何処から探索するべきか。
「あの——」
「な、なんだ?」
女子中学生とはいえ、女の子に手を繋がれて動揺してしまう。
「その、一緒にいてもいいですか?」
俺は顔を手で塞ぎながら——
「あのな。こんなワケの分からん状況で、自分の事をアニメキャラ扱いする変人と一緒に行動したいとか——もうちょっと警戒心を持ってだな——」
「超ショック!? いや、だけど、この状況下で一人で行動するのって危険だと思うんです!」
「と言っても、君は正直俺に不信感を抱いてるだろうし、それにあのやり取りがあった後で——」
「そりゃ正直自分がアニメキャラだと知った時はショックでしたけど——」
「正確にはアニメとして描かれていた世界の出身な」
「ほら、そう言うところですよ。何だかんだ言って私を傷つけないようにしてくれたり、心配したり、気を配ったり。色々ショックな事もあったけど羽崎さんは悪い人じゃないと思ってます」
「悪い人じゃないか……」
自分が悪い人じゃない?
女もつくらず。
子供もつくらず。
三十代にもなって趣味に生きて夢を追い、実家暮らしで子供部屋おじさんで、職業も同年代の人間と比べれば雲泥の差。
「俺はそんな奴じゃないよ——今でも自分の両親に迷惑を掛けて生きてるし——仕事だって休職中だし——」
「きゅうしょくちゅう……ってお仕事探してるの?」
「いや、病気に対して職場の理解がある方で——無期限で休みを貰ってる」
「病気なの?」
「うつ病——聞いたことないかな?」
「聞いた事はあるけど、具体的にどう言う病気かは分からない」
「もはや現代病の一種で誰にもなってしまう可能性がある怖い病気」
「ぐ、具体的には?」
「まず日常的にネガティブになる。食事量が減ったり、増えたりする。何もする気力が起きなくなる。一日寝たきり状態なんてのも珍しい話じゃない——あと、風呂入るのもめんどくさくなる」
「た、大変そうだね……」
「実際大変だ。酷いレベルになるとリストカットや自殺を考えたりとかする」
「今はどうなの?」
「幾分かマシになって、ボランティア活動に参加できるようになったけど、元気だった頃に比べるとまだまだかな? 最後にゲームしたの何時だっけ? アニメはまあピュアリアシリーズの劇場版をチョクチョク見てる感じ」
「私達の劇場版?」
「えーと君達がやすらぎ市で温泉巡りのために、旅行に来て——現地のピュアリアと宇宙モチーフのピュアリアと共闘した奴とか」
「ああ、まどかちゃんとあかりちゃんのことね!!」
桜 まどか。
やすらぎ市のピュアリアだ。
星奈 あかり。
宇宙を舞台に活躍するピュアリアだ。
「今はもうピュアリアシリーズが心の支えになってる感じかな。オトナピュアリアとかも見てるし」
「オトナピュアリア?」
「オトナになったピュアリアの物語。最初は興味本位だったんだけど、見て行く内に他人事のように思えなくなって——」
「そう——」
悲しげな表情でそう言った。
何となくだが辛い物語である事を察しているのだろう。
「ともかく、ここで立ち話し続けるのもなんだし——何処かで座りながら今後の事とか話そう」
「うん、そうだね」
「……嬉しそうだね。もっと警戒した方が」
「大丈夫。羽崎さん自分が考えてる以上にいい人だと思うから」
「そうか? まあいざって時は変身して殴り倒せばしまいだもんな」
「そんな事言ってると怒りますよ?」
「ああ、ごめんなさい」
そうして俺達は場所を移す事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます