I市でのトウマの日常

 Side 羽崎 トウマ


 羽崎 トウマは30代にしては人生に余裕があるほうだ。

 週休二日。

 就労時間も朝10時から午後3時と言う就労A型。

 

 さらに障害年金暮らしと言うのもある。

 

 親は良い顔をしないが、それさえ目を瞑れば夢を追う環境にしては——30代半ばにしては恵まれている方だった。

 

 だが障害年金を貰える身分と言うのは、逆に言えば障害年金を貰えてしまう程に体に障害を持っていると言うことだ。


 就労A型から一般就労に通おうとして——断念したのにも関わっている。

 

 うつ病。

 心の病。

 誰もが発症する可能性がある病気。


 それを薬で抑え込んだり、日々の日常生活の中で改善しようとして頑張っている。

 最近は状態が悪化して就労Aも休みがちになり、労働賃金は低くなるが労働環境はいいBに移行しようかと相談員から提案される程だ。


 実際体はかなり悪い。


 一日中寝たきり状態と言うのもある。


 何かをしようとしても何も出来ずに一日を過ごしてしまうなんてのもしょっちゅう。


 そんなだからか大阪日本橋に行く回数も減り、趣味が無いも同然の状態になってしまった。 


 ラノベ作家になるのも夢のまた夢。

 それに最近は不景気で増税の嵐であり、ラノベ作家になるのに抵抗感、不安感が強まっていて半ば諦めようとしていた。


 それでも、表面上は親の機嫌取りと言われようと社会復帰に向けて頑張らなくてはいけない。



 外に出る時はあるが、基本は近くのショッピングモールをブラブラするだけだ。

 喫茶店で飲み物を飲んだり、図書館をブラブラしたりする。 

 思い切って大阪日本橋に行く時もあるが稀だ。


 障害年金があり、障害年金の収入が入る前にドバっと400万円近くの大金を手にしたが金は有限。


 気をつけて使わなけれればあっと言う間に減ってしまう。


 それに最近の政治の増税ラッシュで大阪日本橋に行くのもタダではない。

 いっそ定期券でも購入しようかと思うが、今の体力では元は取れそうになかった。

 だから近所で済ましている。


 自転車で遠くで出かけようとか考えたが、自転車の遠距離利用は親がいい顔をしないので抵抗がある。

 思えば自分の人生は親の顔色を伺う人生で今もそれは続いている。


 そんな彼が行きついた先はローカルヒーロー……悪役サイドだが——のお手伝いだった。


 ダークスターズ。

 悪の秘密結社。

 悪落ちした、マント付けた昭和戦隊ブラック、ヤミノ博士をはじめに戦闘員1号、2号、怪人の方々で構成された人々で手広くやっているらしい。


 彼達とは利用している相談支援センターや市役者とかなどを通じて知り合った。

 本物の悪の組織ではないので、普通に環境美化活動とか行うし、ローカルヒーローとか招き、I市の彼方此方でヒーローショーを行ったりしている。


 何時しか自分はダークスターズの人達と協力してボランティアを行い日々を過ごすようになった。


 =休日・朝・市役所周辺と公園=


『最近調子はどうだい? 羽崎さん?』


 と、気軽に声を掛けてくるヤミノ総帥。

 手にはトングとゴミ袋を持っている。

 周囲にはボランティア活動に参加している人々で賑わっていた。


「まだまだですね。ずっと横になってた時期が長かったせいか、体力が落ちてますね」


『それだけでなく精神的な病もあるからね。環境美化を手伝ってくれるのもいいけど無理しちゃダメだよ』


「ははは……」


 と、悪の組織総帥(自称)に丁寧な低い物腰で言われてしまう。

 

(年内の仕事の復帰は無理そうだし——もう少し、このままでいいかな)


 などと考えながら今日を生きる。

 生きる事は辛い事も多い。


 子供の時に比べれば余計に感じてしまう。

 だけど大人になるのも悪い事ばかりではない。

 今はそう思えるようになっていた。 

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