第6話 : 経験、それは中高年のギフト

 基本の流れについて少し。


 前回書きましたように、小説の本質は非常にシンプルなものです。

 かの有名な『坊っちゃん』だって、「新米教師が碌な事をしていない上司に制裁した」に収束されます。

 でも、これだけじゃ名作にならないことはお分かりですよね。


 そこで、「A男とB子が恋人になるまで」をどう肉付けするかになります。


 肉付けにはアイディアが必要です。

 誰かの盗作に近いテンプレ物を書きたいのならともかく、自身でしっかりと考えて自分なりの独創性があった物を書きたいとなればどうしてもアイディアを生み出さねばなりません。

(このアイディアの話は別に書く予定があります。私としてはテンプレ展開を否定するものではありません。念のため)


 それができれば誰も苦労はしないだろ。


 そう言われることを承知でこの文章は書いています。

 中高年の皆さんは、実はこの部分にもの凄くアドバンテージを持っているのです。

 だから私がその方々に向けて物を書きましょうと勧めているのです。


 余程優秀な方でもない限り、アイディアは自らが持っている知識と経験からしか生まれません。

 そう、経験とは年齢を積み重ねる度に増えていくもの──中高年は経験の塊ですね。言葉を換えれば経験とは年齢が生むギフトみたいなものです。


 そんなこと言ったって自分達は異世界で生活する経験までは持ってないぞと言われそうです。

 異世界もの、ファンタジーものはハッキリ言いますが中高年にはハードルが高いです。ファンタジー系のゲームを遊び込んででもいれば多少違うかも知れませんが、私にはそもそも読む段階から最初は違和感がありましたから(今は読み慣れたので大丈夫です)。


 ですので、最初に物を書くのは自分の経験を生かせそうなものから手を付けるのが賢明です。

 ちなみに筆者は現在異世界ものを書いていますが、それを決断するに至るまでかなりの葛藤がありました。経験から来る「常識」が思考の邪魔をするのです。これが中高年にとってのハードルになります。


 魔法なんかあり得ない、エルフなんているわけがない、などとどこかでブレーキが掛かりそうになります。思いつきだけではこれは書けないと実感しましたので、いきなりこのジャンルに取り組むことはあまりお薦めしません。


「A男とB子が恋人になるまで」の過程を自分の経験と照らし合わせて考えてみましょう。


 出会い、付き合い始め、様々な初体験、婚約、結婚、親になったり、誰かの不幸があったりと骨格にちりばめることができる経験を持っているのが中高年の方です。

 シチュエーションだって、学生から社会人、アルバイトやニートの時代を経験した方がいるかも知れません。職業だって一次産業からITまで様々ありますから、知っている世界を土俵にそう言う小説を書くことができます。


 例えば、ですが、こんな風な骨格ができませんか。



・サラリーマンの男性と保育士の女性が見合いで出会って、結婚した。

・お互い初めての異性との交際だから恋人らしいことの全てが初体験で、失敗だらけ。

・些細なことで誤解が生まれたが、男性(女性)側の必死のフォローで解決。

・育休の取得やママ友の付き合いでの苦労を経て、子供が恋人を家に連れてくるようになる。

・子供の姿を見ながら、こんな恋愛経験を若い頃したかったね。でも今幸せだから良いか。

 これで終了。



 骨格 + 経験 = 小説のプロット ができあがります。


 どうです、意外と簡単でしょ。

 ひょっとしたらこれだけで千文字書けてしまうのではないですか。

 そうなればしめたものです。後は細かな設定やキャラクターの性格付けをすればそれらしい作品が出来上がります。


 文章のクオリティだとか、格調だとか、そんなものは気にしません。気にしたらダメです。文体だって誤字だってこの段階では気にしなくて大丈夫です。

 気にするべきは話の筋が通っているかどうかだけです。


 これ、中高年の方にとっては特に大事です。

 中高年の方と話をしていて、途中からいきなり話題が変わっていたり、主語も述語もなんだかわからない会話をされたりという経験はありませんか。

 別に話をされている方がボケているからだとかそういう事を言いたい訳ではありません。


 中高年になると頭の中で話したいことが整理できなくなるのです。

 もっと言えば、話したい内容に対して言葉を考える部分が着いていかないとも言えます。


 つまり、A + B = C と言うべき所を

 Cになるには、Aがあるのだけど、このAというのは……、でBというのは……、あれ、自分は何を話しているんだっけ。

 そんな感じになってしまうことが多々あるからこそ、文章として考え方を纏めるのは非常に良い脳トレになると言いたいのです。


 評論家や政治家の方で百歳になっても筋道が通った話をされている方を見ると凄いなと本当に感心します。

 日常からそういう訓練をするのだと思うと気が引けますが、誰かに読んで貰う小説(文章)を書くのだと思えば、少しは気が楽になります。匿名(ペンネーム)で大丈夫ですしね。


 物事には筋道が大事なのは今も昔も変わりません。

 どうか物書きを通じて脳を鍛えてみて下さい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る