第16話 シーの話⑤

「おお、きれい」

 千智と愛はシーの部屋を見て騒ぎ立てた。

 入ってすぐのリビングには、大きなテレビが設置されている。アイランドキッチンが併設され、ダイニングルームまであった。


 3人は千智と愛が買ってきた3個のプリンをリビングで食べた。

「で、どうなの、最近」と千智は言った。

「あー、今度さ、教育テレビでレギュラー持つことなったんだよね、一人で」

「すごいじゃん!どんな番組なの?」と愛は言った。

「家庭菜園、っていうのかな」

「っていうのかなってどう言う意味?」と千智は笑った。

「なんか、野菜作って売って、20万円稼ごうっていう番組。高い野菜を作るか、安い野菜をたくさん作るか、とか戦略立てるというか」

「うわっそれって、あの例のセカンドシングルとコラボってことだよね?」と愛。

「まぁそうだね」とシー。

「あの曲めっちゃダサくない?」と愛は言った。

「いやそれはね、僕らだって思ってるよ。でも、どうしようもないことだってあるし、現に売れてるからなんも言えなくない?今は求められていることをやって、仕事選ぶのはその後だよ」とシーは言った。


「野菜作りって都内でやるの?最近、旅番組も多いのに、できるの?」と千智は言った。

「都内でやるのがコンセプトだからね。確かにいない時期は多いけど、その辺は仕方ないよね」

「テレビ局?それともマネージャーさんが手伝うの?」

「さぁ」

「さぁって、はっきりさせといた方がいいよ。もしマネージャーだったら、あの人今多忙でしょ、しんどくなるよ」と千智は言った。


「彼氏に呼ばれちゃった、私、帰らなきゃ」と愛は言った。

「あ、じゃあ私も」と千智。

「いいよ、私、ここから電車で行けるから」

 そういうと、愛は帰って行った。

 部屋には千智と二人きりになった。久しぶりのことで、しばらく二人は無言になった。

 千智はゆっくりソファに座ると、無言でプリンを食べきった。


「千智、あのさ……」

「お腹すいた」と千智は言った。

「え?」

「おなかすいちゃった。なんかない?」

「あー、えっと」

 シーは冷蔵庫を開けてみた。案の定、その中は文字通り空っぽだった。

「そんなことある?」と千智は言うとにこりと笑った。

「何か頼む?」とシーは言った。


 シーが頼んだのはマルゲリータピザだった。二人では食べきれないほどの大きなピザを千智はじっと見つめていた。

「バカだな」千智は髪の毛をくしゃくしゃに掴んで泣き出した。

「何が?」とシーは言うと笑って千智の頭をぽんぽんと撫でた。


 シーが千智に告白したあの日と同じマルゲリータピザ。あの日もサイズを間違えて大きなピザをシーは頼んでいた。


 シーはそっと、千智を肩に抱き寄せた。

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