【5】ノエルside
「おまえ、気持ちわりぃよ! 髪の毛、白髪みたいだし。目なんて金色だしさぁ」
「なんでじっと見てくるの? なに考えてるの?」
「ノエルちゃんって、何で喋れないの?」
「人間じゃないんじゃねぇの!?」
「そうだそうだ。おまえなんて、人間じゃない!」
……こいつら、けっこうアタマ良いな。って、じつは思った。
そう。
ノエル、ほんとうは人間ではないのだ。
ノエルは、『チート満載』の
ノエルを生んだのは、なんと『フローレン』っていう女神さまだ。
お花の神さまで、すごく昔にこの国を作ってあげたと言っていた。
ノエル、4年くらい前に
ノエルといっしょに女神さまもつっ立ってて、『あなたは私の子供よ』って言ってた。
(ノエルみたいな子、他にもいるのかな……)ってココロの中で思ってたら、
女神さまが
『わりといっぱいいる。気が向いたときに、ぽーんと生みたくなる』
みたいなことを言ってた。
女神さま、気分で生んじゃうヒトらしい。
『私はもはや人界には直接干渉できません。なので、代わりに花の精霊であるあなた達を産み落とし、あなたたちの目を通して人界見物を楽しむことにしています』
……なに言ってんのか、よく分かんなかった。
か弱い
チートっていうのは、『なんかすごい力』っていうことらしい。
じょうずにお絵かきできるし、木登りうまいし、今はまだ声出ないけどそのうち激ウマに歌えるようになるらしい。
ちょっとだけなら人間のココロも読めるし、1回だけなら時間を巻きもどすチートも使えるんだって。
でも時間のチートは、すごく大好きなヒトのためにしか使っちゃダメって女神さまに言われた。
あと、『くそマズいご飯でも美味しい味に感じるチートもつけといた』って女神さまが言ってた。
(……ご飯以外のチート、どうでもいいのばっかり)
って思った。
『聞いて頂戴、ノエル。花の精霊には一つだけ弱点があるの。信頼できる人間に出会えるまでは【
……なんでそんな仕様にした? って思ったけれど、そういうモノだから仕方ないそうだ。
『花の精霊は、信頼できる人間に出会うと初めて【開花】するの。開花によってあなたの体は成長を始め、完全な精霊となっていくのです。愛しいノエル、あなたが人界で素敵な出会いを果たすことを祈っていますよ――』
女神さまは消えた。
いとしいなら放置すんなって思ったけど、そういう仕様らしい……。
ところで、仕様ってなんだろ。
なんか、最初からしってる言葉。
ノエルは人間じゃないし、たぶん、そういう仕様なんだと思う。
*
それからノエルは、行くとこないからトコトコ歩いた。
兵隊さんにつかまった。
「おうちはどこだい?」って聞かれたけど、ノエルしゃべれないから地面に「お花畑」って書いて答えたら、「可哀そうに」って泣かれた。
それで、教会につれて行かれて、『
『保護』っていうのは、こわいオバサンにいっぱい怒られることらしい。
でも、うるさい声を聞こえなくするチートとか、くそマズいご飯をおいしく食べるチートとかがあったから、ノエルはあんまり困らなかった。
……ほかに行くとこないし、とりあえずご飯くれるし、ここに居とこうかな。
って思った。
そんな感じで、4年くらいたった。
……そしたら。
「ねぇ、ノエル! あなた、うちに来ない!?」
ミレーぅは、すごく元気なお姉さん。
すごいオカネ持ちで、こじいんのオバサンをやっつけて『院長先生』になった。
なんでか知らないけど、ノエルのことがすごく好きらしい。
(きゃぁあああん♡ 生ノエル! 尊い! 尊いキュン死しちゃぅぅうっ♡♡ あーん、かわいぃいいいい!)
……ていうココロの声が聞こえたとき、このお姉さんヤバい人だ。って思った。
そう。
ノエルは人のココロ、たまにちょっとだけ分かる。
じーっと見てると、たまにじわっと伝わってくる。
女神さまのチートだ。
ずっと見ててもぜんぜん聞こえてこない時もあるから、ちょっとポンコツなチートなのかもしれない。
でも、ミレーぅの声はよく聞こえる。
(くっ。このシスター、絶対に許せないわ! ノエルや子供たちにこんな仕打ちを……ただじゃ置かない!)
(絶対に助けるから、待っててねノエル!)
(ノエルがのびのび暮らせる環境にしたいのだけど……どうしたら良いかしら)
ミレーぅはいつもノエルが好きで、あと、すごく良い人だ。
ミレーぅになでなでされると、気持ちいい。
絵がじょうずってほめられたのも、うれしかった。
だから、ミレーぅのおうちにお引越しできて、毎日たのしい。
ノエルの絵がじょうずだから、ミレーぅのお兄さまのミラぅドが『ぱとろん』になってくれたんだって。
絵をあげるかわりに、このでっかいおうちに住ませてくれて、おいしいごはんをくれるんだって。
ミレーぅは院長先生だから、よく
「ノエル。おいしい?」
「……」
おいしい。
くそマズいご飯をおいしくするチートなんか使わなくても、ミレーぅはいつもおいしいものを食べさせてくれる。
「ノエル。今日は一緒に絵本を読みましょ。お膝にいらっしゃい」
「……」
本当はぜんぶ、字、読めるけど。
ミレーぅのおひざ、やわらかいし。ミレーぅの声が好き。
ミレーぅ、好き。
「……………………ミレーぅ」
口から、はじめて声がでた。
ミレーぅは絵本を落っことして、目からぽろぽろなみだを落としてた。
「お、お兄様……! 今、ノエルが。ノエルが喋ったんです!!」
ノエルのことを抱っこしたまま、ミレーぅはミラぅドの部屋まで走ってった。
ミラぅドはあきれてたけど……
そういうミレーぅのことが『すごく愛しい』って、ミラぅドはココロの中で何度も言ってた。
ほんとの兄妹じゃあ、ないんだってさ。
だからミレーぅが『ほしくてたまらない』んだって。
……いろいろフクザツらしい。
*
しゃべれるようになってから、ノエルは前よりもっといろんなチートが使えるようになった。
激ウマなお歌が歌えるようになったし、
コイントスするとぜったいに思ったほうを上にできるようになった。
ココロ読めるからババ抜きもポーカーも最強だし、
ペタンク最強だし、
馬より早く駆けっこできるし、
パンケーキだって、じょうずに焼けるようになった。
……いらないチートばっかりだけど、ミレーぅは「ミニゲームと同じだわ!」って喜んでた。
ミニゲームって、なんだろう。
*
そういえば、2週間前からミラぅドはおうちに帰って来てない。
王宮のおしごとで、『泊まりこみ』なんだって。
この時期は毎年、いそがしいらしい。
ミレーぅは、ミラぅドのこと『大好き』って思ってる。『早く帰ってきてほしいな』って。
口ではぜんぜん言わないけど、ココロの中はだだ漏れだ。
「……好きなのに、けっこんしないの?」
「え? ノエル、いきなり何の話をしているの?」
「ミラぅドのこと好きなのに、どうしてけっこんしないの?」
「え!?」
ミレーぅは目を丸くしてから、おかしそうに笑っていた。
「確かにお兄様のことは好きだけど、……これは家族の『好き』だもの。でも、私が今お兄様のこと考えてたって、よく分かったわね。顔に書いてあった?」
うん。って答えておいた。
チートのことも、お花の精霊だっていうことも、だれにもまだ言ってない。
聞かれてないから、とりあえず内緒にしている。
「ノエル。お兄様のことは呼び捨てしちゃダメよ。私の名前はむしろ呼び捨てにしてほしいけど、人前では『様』をつけておいて。礼法は身につけておいたほうが、あとあと役に立つし」
……ほんとの兄妹だと、ミレーぅは思い込んでいる。
でも、兄妹なのに『なんだかすごく好きになってきちゃった』んだって。
ミラぅドのことを考えると、どきどきするんだって。
ついつい、『お兄様のことばかり考えてしまう』んだってさ。
だから最近のミレーぅは、じつはすごく困ってる。
ミラぅドが、『兄妹じゃない』ってちゃんと教えてあげればいいのに。
そしたら、ふたりで好きどうしになれるのに。
好きどうしの人間は、けっこんするんでしょう?
このまえミレーぅが読んでくれた絵本には、そう書いてあったよ?
「……むぅ」
「どうしたの? 不満そうな顔しちゃって」
ノエルはミレーぅが大好きだ。
だからミレーぅが困ってたり、悲しい気持ちになってたりするのは、なんかイヤだな。
*
次の日。ミラぅドがおうちに帰ってきた。
「お帰りなさいませ、お兄様」
ミレーぅはすごく喜んで、にこにこでお出むかえしてたけど。
でもミラぅドは、ミレーぅをぜんぜん見ようとしなかった。
「あぁ――」
なんか冷たい感じでミラぅドは通り過ぎて、そのままお部屋に入ってしまった。
――『ミレーユを想ってはいけない』
――『自分ごときが触れて良い娘ではなかった』
――『距離を取らなければ』
ミラぅドはいつもどおりみたいな顔をしてたけど。
ココロの中は、ものすごくザワザワしてた。
……王宮のおしごとで、なんかがあったらしい。
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