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【2*】-3 断罪後@ゲームヒロイン...GAME OVER? / continue:YES
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ようやく迎えた卒業式。
ユード様のエスコートで入場すると、会場中の視線を一身に浴びた。
目立つのは嫌いじゃない。
鮮烈なスカイブルーのドレスはユード様の瞳の色を模したもので、彼の髪と同色の金糸で刺された刺繍は王家の紋章。
王太子の信頼と寵愛を得たわたしだけが着られる、最上級のドレスなのだ。
ミレーユと目が合ったので、笑いかけてあげた。
――ユード様にエスコートしてもらえなくて、悔しいでしょうミレーユ。これからもっと屈辱を味わわせてあげる。
ミレーユは余裕ぶった微笑を返してきたけれど、どうせ強がりに違いない。
臆病者のくせに、堂々としたフリしちゃって。
その強がり、いつまでもつかしらね?
式典中にときおり、隣席のユード様はわたしを愛おしそうに見つめてきた。
ミラルドのせいでユード様が凡夫に見えちゃうけど、そこはガマンしよう……。
やがて式典が終わり、全員がパーティホールへ。
パーティは、会食・歓談タイムで始まる。
乾杯の声は卒業生を代表してユード様がすることになっていた。
開口一番、ユード様は――
「皆の者。これより卒業パーティを開始するが、その前にひとつ『重大な告知』をさせてもらおう。私、王太子ユードリヒ・フローレンは、ミレーユ・ガスターク侯爵令嬢との婚約の破棄をここに宣言する!」
えっ。
このタイミングで言うんだ……??
なんか微妙かも。
みんな飲む気満々っぽかったからビックリしてるし、勢い余ってワインをこぼしてる人もいる。
ちょっと空気読めないタイミングな気がするけど。
……まぁ、いっか!
「ミレーユ・ガスターク! お前はアイラ・ドノバン男爵令嬢に、数々の悪辣な行為を働いた! 貴様のような卑劣な女は、王太子妃として不適格である。よって、婚約破棄を申し渡す!!」
ユード様は堂々と、ミレーユを断罪し始めた。
「ミレーユ、この場で彼女に謝罪しろ! アイラはひどく傷ついている」
ユード様に目配せされて、わたしも彼のすぐそばへ。
そしてわたしは真正面からミレーユを見据えた――婚約破棄を言い渡されて青ざめるミレーユを、ようやく拝めるのね……!
……あれ?
「私がアイラ様に悪辣な行為を? それは具体的には、どのような」
え? どうしてミレーユは平気そうにしているの?
臆病者のはずなのに……。
落ち着いた口調で尋ねてくるミレーユは、なんだか不気味だ。
「しらじらしいぞ、ミレーユ。貴様はアイラを蔑み、常日頃から心無い暴言を浴びせ続けてきただろう!」
「浴びせておりませんわ。ご列席中の皆さまで、私がアイラ様に暴言を吐くところを見た方はいらっしゃいまして?」
ユード様が糾弾しようとしても、ミレーユは淡々とそれを否定していく。
ユードリヒ様が呼んだ証人の矛盾点も、ミレーユ本人ではなく彼女の友人たちが論破していった――ていうか、いつのまに宰相令息とか騎士団長令息とかと親しくなってたのよ!?
それにユード様、手際悪すぎ。
完全に、ミレーユにやり込められちゃってる。
「すべて私に任せておけばいい」とか言ってたくせに、なんて無様なの!?
もしかしてバカなの?
ひやひやしながら見守っていると、ミレーユは冷めきった目で尋ねてきた。
「そもそもの疑問ですが。ユードリヒ殿下は、男爵令嬢に過ぎないアイラ嬢をどのように王太子妃へ押し上げるおつもりですか? 家格が低すぎますし、王妃教育も受けておりませんでしょう? そんな女性を王太子妃にしたら、国政にも支障が出ると思いませんか? そのあたりも含めて、陛下をどうご説得なさるのです」
うっ……。
わたしは思わず顔を強張らせた。
家格のことは、わたし自身も気になっている。
メルデル女公爵の入院イベントが起こらなかったせいで、わたしはメルデル公爵家の養子になれていないのだ。
「ふん。その程度のことは承知している。だが私には、とっておきの秘策があるのだ!」
わたしは、ユード様を信じて疑わなかった。
……まさかの『問題発言』が、飛び出すまでは。
「ミレーユ、本来ならお前など視界に入れるのも煩わしい。しかしお前のずる賢さには、一定の評価をくれてやる。だから、
はい???
「アイラには清らかな心と人心を掌握する才能がある。しかし王妃教育を受けておらず男爵家という家格では、王妃に就任したとき役目を果たし切るのは難しい。そこで将来的にはミレーユを我が側妃に迎え、政務の一切を任せてやろう! 思う存分働くがいいぞ」
ぴきり。
ガラスにひびの入るような音が頭の中で聞こえた。
ユードリヒへの信頼感が、崩れ去る音だ。
この男。頭が空っぽのクズだわ……。
わたしだけを愛するんじゃなかったの!? なに堂々と浮気宣言してるのよ!
マジであり得ない!
わたしも周囲もミレーユも、全員がドン引きしていた。
王太子一人はグッドアイデアだと思い込んでいたらしく、みんなの態度に「えっ?」と意外そうにしている。
ダメだこいつ、全然使えないわ!
こんな男に任せていたら、ふたりまとめて身の破滅だ。
わたしはユードリヒを押しのけて、ミレーユに食って掛かった。
「ミレーユ様って、やっぱりズルい人ですね! 今はわたしの話じゃなくて、『ミレーユ様が王太子妃にふさわしいか』というお話でしょう!? 話題をすり替えないでください!」
わたしはやや強引に、ミレーユの問題へと話題を引き戻した。
わたしが王太子妃として適切かどうかは、この際どうでもいい。
ミレーユを引きずり降ろして王太子妃の空席が出来れば、あとでわたしが食い込む余地はある。
メルデル女公爵とのコネさえ作れれば、ゲーム通りになるはずだもの!
ともかく今は、ミレーユを失脚させることだけ考えなくちゃ。
さもないと、ミレーユに向けた刃はそのままわたしに刺さることになる。
「ミレーユ様は王太子妃にふさわしい女性じゃありません! だってわたしが贈ったお花を、あなたは捨ててしまったでしょう!?」
花束を踏みつけられたあの事件は、現状のわたしにとっては一番の切り札。
なんとか食らいついて、ミレーユを引きずり降ろしてやる!!
――そのとき。
パーティホールに国王陛下が入ってきた。
その背後には、まさかのミラルド!
途端にわたしはときめいていた。
もしかしてこれ、王太子ルートじゃなくて変則的なミラルドルートだったの!?
ごたついたタイミングで駆けつけるなんて、素敵すぎるわ。
ミラルドは、ミレーユの断罪を手伝ってくれるつもりなのかしら。
やっぱりわたし、あなたと結婚する!!
国王陛下は、『ミレーユが花を踏んだ』という一件のことで眉をひそめた。
「花を踏んだ? ミレーユ嬢、それはどういうことだ」
すかさずミラルドが答える。
「恐れながら、陛下。我が妹ミレーユは、ドノバン男爵令嬢に花束を贈られたことに激怒して踏みにじったのです。嘘偽りなき事実であることは、私が確認しております」
最高!!
ミレーユは、顔を青くしてよろめいていた。
ずっと見たくてたまらなかったのよ、そういう表情!
ユードリヒからは何を言われても平気そうだったのに、ミラルドに責められるとそんな顔をするの? ブラコンだったのかしら。
残念だったわねミレーユ。ミラルドは、わたしの味方――――
「実は私は本日、ドノバン嬢が妹に贈ったのと同じ花を用意して参りました。王太子殿下並びにアイラ嬢への手向けとして、お贈りいたしたく存じます」
――え?
ミラルドの合図で、白い大きな花束を抱えた何十人もの給仕たちが、パーティホールに入ってきた。わたしとユードリヒにそれらを手渡し、受け取り切れない花束は足元に積み重ねられていく。
待って。
待って待って待って。ダメ。
この花は――
「これは……『死別花』ではないか!」
「陛下のおっしゃる通りです」
ミラルドは花束のひとつを取って高らかに掲げた。
「これは『死別花』――平民階級の者たちが、死者の棺に詰めて弔うための野草です。ドノバン嬢はこれを、我が妹に贈りつけたのです」
わたしの喉から引きつった悲鳴が漏れた。
「い、いえ、違います! わたしが贈ったのは、ただのバラで……。お葬式の花なんて、贈るわけないじゃないですか――」
「ふん、見え透いた嘘を」
ミラルドは容赦なくわたしを断罪する。
わたしが教えた花屋に出向いて、帳簿を確認したのだと。
わたしが死別花をミレーユに贈って、嫌がらせをしたのだと。
「……っ! だ、騙したのねミラルド!」
わたしに気があるフリをして、情報を引き出していたなんて。
「こんな花を渡されたら、ミレーユ嬢が激怒するのは当然であろう! わざとミレーユ嬢を焚き付け、揉め事を起こさせたのか。卑劣なのはそなたのほうだ、ドノバン嬢」
という国王陛下の怒号が飛び、わたしとユードリヒは王都外追放を言い渡されてしまう。
国王に食い下がろうとしていたユードリヒは、国王に錫杖で殴り倒されていた。こいつ本当に使えない。
衛兵がわたしたちを取り囲み、手荒に連行していった。
待ってよ、こんなの狂ってる。
やめてよ、離して。
引っ立てられていく途中、招待客の中にメルデル女公爵の姿を見つけた。
彼女が来てたなんて、知らなかったわ!
藁にもすがる思いで、私は声を張り上げた。
「おばあ様! あなた、メルデル女公爵よね!? わたし、実はあなたの孫なの。だから助けて!! あなたの息子のパウエルが、平民の女と駆け落ちしたでしょ!? それでデキた子供がわたしよ! パウエルとわたしの顔、似てるでしょ?」
よかった、これできっと助けてもらえる……!
しかしメルデル女公爵は、蔑みの瞳でわたしを見据えた。
「なんと無礼な! 当家を侮辱するつもりなら、許しませんよ! 衛兵、早く引っ立ててくださいませ」
そ、そんな……!
どうして?
わたしはそのまま、ユードリヒと一緒に連行されてしまった――
***
それから1か月。
……『転落人生』。
今のわたしを説明するのに、これ以上ぴったりな言葉は存在しない。
わたしを待ち構えていたのは、まさに地獄の日々だった。
ドノバン男爵家から勘当された私は、平民に逆戻りしてから王都外追放となった。
女が一人で生きるのは危ないし、『クズでもいないよりはマシ』と思ってユードリヒと偽装夫婦を演じることにしたのだけれど……むしろ大失敗だった。
わたしとユードリヒは何とか近郊の小都市にたどり着き、そこの救貧院を頼って辛くも命を繋いでいる。
救貧院の雑魚寝部屋で、家のない貧民たちとごちゃまぜになって暮らす日々……。
配給食は粗悪な芋と味も具もないマズいスープで、救貧院から斡旋される仕事は過酷な農作業ばかり。
日の出から日没まで働かされ、日給のほとんどは救貧院の宿泊所代としてせしめられてしまう。
お風呂も入れない、服も小汚いボロばかり。
耐えられる訳がなかった。
「もう嫌よ! こんな生活!!」
一日の農作業を終えて寄宿所に戻る道すがら、わたしは声を張り上げていた。
手に持っていた農具を打ち捨て、着の身着のままで農道から逃げ出す。
何もかもどうだっていい、逃げたい逃げたい逃げたい!!
「――きゃぁ!!」
そのとき、後ろから誰かに腕を掴まれた。
髪の毛を引っ張られ、罵声を浴びせられる。
「どこへ行くつもりだアイラ! 私を置いて一人で逃げるのか、卑怯者め! お前は私に対する責任を放棄する気か!?」
ユードリヒだ。
この1か月の苛烈な日々に、彼はすっかり精神を病んでしまった。
痩せぎすで目は焦点が定まらず、どこからどう見ても「ヤバい奴」だ。
「は!? ふざけんな! なんで私があんたなんかに責任を負うのよ」
「貴様が私をたぶらかしたせいで、こんな悲惨な目に遭ったんだ。貴様は私を幸せにする義務がある! 一人で逃げ出すなど許さん! 就労中に『妻』に逃げられたりしたら、救貧院の役人どもに嘲笑われるのが目に見えている…………あぁ、くそ、嗤うな。この私をバカにするな、私を私を私を……あぁあ!!」
ダメだ、こいつ本当におかしくなっちゃってる。
「あああああ、くそ、くそ、ミレーユが、ミレーユがいけないんだ! あいつが私をバカにするから、私はアイラなんかに騙されてしまった……。くそ……ミレーユを殺してやりたいのに。王都にはもう戻れない……あああ」
人生をやり直したくてたまらない。
時間を捲き戻せたのなら、こんな無能男は絶対選ばないのに!
……でも、やり直しなんて不可能だ。
ゲームの中でさえ、『やりなおし不能』なオートセーブシステムだったんだから。
裏技を使わない限り、やりなおしのできないゲームだった。
……裏技を、使わない限り。
わたしの頭に、ふと妙案がよぎる。
(もしかして、裏技を使えばルートを選び直せるんじゃあ……?)
素晴らしいひらめきだ。
わたしは光明を得た気分になった。
「そうだわ! 裏技を使えばいいのよ! 『ノエル』を利用すれば、この人生をやり直せるかもしれないじゃない!」
どうして気づかなかったのかしら!
ノエルという切り札を、わたしは今世でまったく活用しようとしなかった。
この人生の敗因は、きっとそこだ。
「は……ノエル? 裏技? なんの話をしてるんだ貴様」
ユードリヒに尋ねられても無視をして、わたしはノエルに思いを巡らせていた。
ノエルは攻略対象ではなく、王都の平民街で生活しているモブキャラだ。
ノエルはいわば、ミニゲーム担当キャラだった。
連続イベントをいくつかこなして親密度を上げていくと、ノエルが音ゲーやパズルゲームなどのミニゲームを提供してくれるようになる。
ゲームの一部ファンからは「ノエルきゃわ♡」とか「むしろノエルしか愛せない!!」みたいな熱烈な声が上がっていたみたいだけれど、わたしはノエルなんてどうでもよかった。
あんなキャラ、どこが良いのか分からない。
ミニゲームにも、まったく興味がわかなかった。
ストーリー進行とは無関係なノエルにかまうメリットが見いだせず、わたしは平民街でノエルと出会うイベントフラグが立っても、全て無視をしてやり過ごしていた。
(……それがいけなかったんだわ。ノエルと関わって親密度をあげておくべきだった。そうすれば、
ノエルは『ミニゲーム担当モブ』と言われていたけれど、実はなにげ重要な隠しスキルを持っていた――それが「時間の巻き戻し能力」だ。
wiki情報によると、ノエルのイベントをたくさん起こしてノエルの親密度をMAXにすると、一度だけ好きなタイミングへの『時間の巻き戻し』をしてもらえるらしい。
「……ノエルだったのね、わたしの人生に足りなかったのは!」
そうだとしたら、まだ間に合う。
今からでも王都に戻ろう。
ノエルに絡んで親密度をMAXまで上昇させて、時間を巻き戻してもらおう!
攻略対象を選び直して、こんな悲惨な現状とはサヨナラするのだ。
再び駆け出した私を、ユードリヒが執拗に追いかけてくる。
「こら待て貴様! どこに行くつもりだ」
「放っておいて頂戴! 王都に戻って、ノエルに会いに行くんだから!」
「王都に戻る? 馬鹿か、そんなこと出来るもんか! 関所で捕まるに決まってる」
「うるさいわね! それでも何とかするしかないのよ!」
わたしたちが言い合っていると、どこからか現れた旅装の男性に声を掛けられた。
「お二人は王都にお戻りになりたいと?」
びくりとして、ユードリヒとともにその男性を見つめる。
死んだ魚のように仄暗い目をした男が、不気味に唇を吊り上げていた。
「ユードリヒ・フローレン殿下とアイラ・ドノバン男爵令嬢でいらっしゃいますね? あなた方が王都にお戻りになるつもりなら、
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