せめて、人間らしく-2
「キズナ様……」
シンを置き去りにしてきたキズナは、速度を緩めることなく、ずんずんと歩き続けていた。その間は、一言も発しなかった。アサヒとヨツユは、口元を固く引き結ぶ主人にかける言葉が見つからず、顔を見合わせて困ったように顔を見合わせて、おとなしくその後に続くのだった。
だいぶ歩いて、ご神体である小さな道祖神を見つけた。そこでキズナは体力の限界にきたのか、ようやく速度を緩めて立ち止まった。軽く息を切らせて座り込むと、膝を抱えてそこに顔を埋める。
アサヒとヨツユはそんなキズナの背中をそっと撫でて水筒を差し出すが、キズナは動こうとしない。
しかし、じきに夜になってしまう。二人は野営の準備を始めることにした。火を焚き、小さな鍋を取り出して、いつもの具が少しだけ入った粥を作る。
温かな湯気が立ち上り、ようやくキズナもそれにつられたようにのろのろと火の側に寄ってきた。空腹には勝てないらしい。そんな主を見て、アサヒとヨツユは微笑ましく思うのだった。
「……ありがとう」
粥の入った椀を受け取ったキズナは、息を吹きかけて冷ましながら、それを口に運ぶ。
食べながら、キズナはぼそぼそと力なく言葉を紡ぐ。
「あなたたちも、これ以上無理をしてわたしに付き合わなくてもいいのよ。あなたたちがそういうふうに作られているものだとしても、あなたたちにも自分の意思があるし、自分の意思で歩いて行けるのだから」
しかし、二人はきっぱりと首を横に振る。
「何をおっしゃるのです」
「そうです。わたしたちは、自分の意思で、キズナ様の旅に最後まで同行する所存です」
それすらも、
キズナはそう思ったが、何も言わなかった。
最初から、一人でやればよかったのだ。それなのに、仲間を求めてしまったのは、己の心の弱さだ。
あの少年の顔が、脳裏をよぎる。勾玉を持っていたから、同行させただけのはずだった。だが、勾玉と月読を正しく受け継ぎ、力を貸してくれるのではないかと――力を貸してほしいと思ってしまった。でも、自分の背負う荷物を他人に持ってもらおうなんて、思ってはいけなかったのだ。
キズナは
食べ終わると、猛烈な眠気が襲ってきた。昨晩はろくに眠っていないし、その後は歩き通しだったのだ。流石に限界だった。毛布にくるまると、すぐにうとうとして、眠りの世界に誘われていった。
すっかり眠りこけてしまい、目が覚めた時には再び夜になりかけていた。シンは冷えてきた空気に、思わず身震いする。仕方なく、今日は移動することを諦め、その場で野営することにした。ご神体のない場所で夜を明かすのは初めてだが、世界の姿を知った今、まあ何とかなるだろうと思った。
ハヤテも、のんびり昼寝をしたり、気ままに食事をしたりして、待っていてくれたようだった。
そんな賢くて優しい相棒を労いながら、シンは火を熾した。携帯食を口に入れ、揺れる炎を見つめながら、改めて今後どうするべきか、自分の心に問いかけた。
しかし、答えは既に決まっていた。
これから何が起こるのか、この目で見届けようと思った。生きているものは例外なく死を迎える。そうだとしても、突然わけもわからずに終わるのは嫌だと思った。死というものが、そういうものだとしても。覚悟を決めて、何が起ころうとも受け入れる。それだけだ。
昼間の間に眠って体力も気力も回復していたし、夜通し歩くことも考えたが、今後を考えると無理は禁物だ。それに、向こうも生身の人間だ。休息は必ず取っているはずだし、きっと追いつける。夜が明けるのと同時に出発しようと決めて、再び横になった。
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