ひとのつくりしもの-5

 キズナの声は、震えていた。一息に叫ぶようにしてから、唇を固く引き結ぶ。


「……さあ、ずっと知りたかったんでしょう? お望み通り、教えてあげたわよ。それで、この話を聞いたあんたは、どうするの」

「どう、って……」


 凍てつくような視線を向けてくるキズナに、シンは何も言い返すことができなかった。

 反射的に、止めるべきだと思った。だが、すぐに思い止まる。


  黄泉津比良坂の扉を開いても、何が起こるかわからない。結界の要となっている神々が一斉に黄泉に下れば、結界は消える。そうしたら、どうなってしまうのだろう。結界の外に渦巻いていた死者たちの怨念が、生きている人たちを全て吞み込んでしまうのか。


 こんな世界でも、人々は懸命に生きている。その人たちの生命さえ、一時に失われてしまうかもしれないのだ。そんなことは看過できないと思った。

 しかし、今の話が本当なら、どうあっても、いずれ自分たちは終わりを迎えるのだ。その事実が、心に重くのしかかる。


 シンは何も言うことができなかった。様々な感情が胸の内を渦巻くが、どれも言葉にならない。喉は喘ぐように息をして、唇は戦慄わななくだけだった。

 そんなシンを呆れたように見つめたキズナは、


「邪魔をするのなら、あんたもこの場で斬るわ」


 帯に挟んでいた短刀を抜くと、切っ先をシンに突き付ける。脅しではない、本気の目だった。シンはただ息を呑んで、それを見つめていた。目の奥がくらくらする。


「言ったはずよ。覚悟もないのに、首を突っ込まないでと」


 キズナは、硬直したように動けないでいるシンの腰に括りつけた袋から、笛を取り出す。そして、そこに結わえられている紐を短刀で切断し、その先に付いていた勾玉を奪い取った。その間、シンは何も抵抗することができなかった。


「あんたとの旅も悪くなかったわ。……さよなら」


 シンを手の中に笛を残し、キズナは背中を向けて大股でざくざくと歩み去っていく。決して振り返らない。そんな強い意志が、後ろ姿から滲み出ているようだった。

 アサヒとヨツユは、おろおろと二人を見比べていたが、やがて真に小さく頭を下げると、小走りに先を行くキズナを追いかけていった。

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