ひとのつくりしもの-2
キズナはユイの力で顕現した光の太刀を振り、果敢に闇の中心に斬りかかっていく。
しかし、元はこの地の神が変じた闇は、己から生じた邪気と、死者となった住人たちの怨念とで、どんどん膨れ上がっていく。
何度跳躍して踊りかかっても、触手のように伸びてくる闇の手に叩き落とされてしまう。そうやって幾度か地面に倒れ伏して立ち上がろうとするが、腕に力が入らない。身体を支えることができず、地面に頬を打ち付けてしまった。太刀が手を離れるが、指先を動かすことも億劫になりつつあった。
ここで終わるのか、とキズナは不思議と凪いだ気持ちで思った。
それも悪くない。もう疲れた。
所詮、自分には無理な話だったのだ。たった一つの成し遂げたいことのためにここまで来たけれど、この世界はどのみち終わるのだ。だったら、残された時間を、何もせずにぼんやりと過ごしたっていいじゃないか。
『……キズナ、しっかりせぬか』
ずっと一緒に歩いてきた、己の半身のような存在の声。いつも明るく楽しげで、ともすると深淵に沈んでしまいそうになる心を、あるべき方へと導いてくれた。その声も、今は掠れて力がない。
ごめんなさい。わたしには約束を果たすことはできなかった。
目の前に漆黒の闇が迫る。キズナは瞼を閉じて、全ての思考を放棄しようとした。
その時、目の前に一筋の閃光が走り、闇を斬り払った。
刀を振り、シン――否、月読は満足気にごちる。
『ふむ。久し振りにやったが、悪くない切れ味だな』
「俺の身体なんだけど……。どうなってんだよ、本当にさあ」
自分の身体が他の何者かによって動かされているというのは、どうにも気持ちの悪いものだった。だが、シンの嘆きにも似たぼやきに、月読は淡々と返す。
『悪いようにはせぬから、心配するでない。お主は戦い方など知らぬだろう。おとなしくわたしに任せておけ』
そして、月読は冴え冴えとした瞳でキズナを見下ろす。
「大丈夫か」
『何をしている。さっさと終わらせるぞ』
シンの声は、キズナに届いたのかわからない。だが、キズナと、彼女の中にいるユイは、太刀を拾ってよろめきながらも立ち上がった。
『言われなくても……っ』
太刀を正面に構え、キズナは闇を見つめた。その先に、血のように赤い、二つの禍々しい光がある。
シンの中にいる月読も、同じように太刀を構えた。二人は視線を交わして軽く頷き合うと、同時に地面を蹴って大きく跳躍する。
この人間離れした身体能力も、神たちの力で成せることなのか。シンは経験したことのない高度と速度に、胃の底が冷えるような恐怖を覚えた。だが、この身体は月読の意思で動いているから、シンには抵抗する術がない。だったらいっそ何も感じなくて済むようにしてほしいと思うのだが、それは叶わないようだった。
二人は弧を描いて宙に飛び上がり、頂点に到達すると落下を始める。シンは声にならない悲鳴を上げるが、その勢いのまま、闇の中心点に向けて、大きく刃を振り抜いた。
漆黒の闇の塊は、徐々にほどけて消えていく。
それに向かって祈るように両の手を合わせて、キズナは目を伏せた。
「ひふみよいむなやここのたり……。ふるべ、ゆらゆらとふるべ……」
唱えるキズナの声は、細く震えていた。
そして、辺りには人の消えた集落と、黒く枯れたような木々に畑の作物、それに夜の帳だけが残った。
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