疑念と真実-2
彼らは、別れた地点から一番近いご神体がある場所で、火を焚いていた。
どうやら、レキは行けるところまで先に行こうと提案したらしいが、アサヒとヨツユがそれを断固として拒否したらしい。この様子からすると、二人が戻らなくても、キズナに言われたように住める集落を探していたのかは、怪しいところだ。
それならば、レキもここでアサヒとヨツユとは別れて先に行けばよかったものを、そうしなかったようだ。首を突っ込んだ物事を見届けたいのかもしれないが、やはり何を考えているのかよくわからない男だと思った。
「で、探し物とやらは見つかったのかい?」
レキが興味津々といった様子で尋ねるが、
「……ええ、まあ」
キズナの答えは素っ気ない。
シンとキズナは、焚き火に当たりながら、アサヒたちの作ったスープをすすっていた。
温かい食べ物は、疲れた身体に沁みる。たった一日のことだったのに、長い時間が経ったような気がしていた。
「何はともあれ、ご無事で本当によかった……」
「我々も寿命が縮みました。後生ですから、あまり危険な真似はなさらないでください」
懇願する二人に、キズナは歯切れ悪く答える。
「……善処するわ」
おそらく、今後も目的のためなら危険を厭わないつもりだろう。そうまでして果たしたい目的があるのなら、きっと止めても無駄だ。
腹が温まると、猛烈な眠気が襲ってきた。シンは大きな欠伸をしながらキズナを横目で見る。彼女も既にうとうとしており、アサヒとヨツユが毛布を掛けてやっている。
シンもハヤテに括りつけてある荷物から毛布を引っ張り出して、くるまる。ハヤテも主人が戻って来て嬉しいのか、ずっとシンの頬や手に鼻面を擦りつけていた。
その温もりを感じながら、シンも目を閉じた。
翌朝、一行は再び西へ向かって旅を再開した。途中、道が分かれている箇所もあったが、レキはキズナたちと別れるつもりはないようで、カイと共に同じ方向についてくる。
「あなた、いつまで一緒に来るつもりよ」
キズナが鬱陶しそうに、レキにじっとりした視線を送る。
レキはそんなキズナを見て、「そうつれないことを言うなよ」と肩をすくめる。
「小さい子供もいるんだ、大勢で行動した方が安全だろう。第一、俺みたいな擦れた男が、この子の面倒を見てくれなんていきなり頼んで、受け入れてくれる集落があると思うか? カイのためを思うなら、あんたたちと一緒の方が、何かと都合がいいんだよ。それとも、お嬢ちゃんたちが責任もってこの子の面倒を見てくれるのかい?」
言われて、キズナは言葉に詰まる。
レキを追い払うなら、カイをこちらで引き取ってしまうのがいいだろう。だが、そうしたところで彼があっさり別行動を取ってくれるとは思えなかったし、いつまでも小さな子供を連れて旅を続けるのも難しい。
「まあ、やっぱり眉唾だろうが、
単純に興味もあるしな、とレキは軽い調子で言う。
その天ツ原とやらも、キズナの目指す《
ちなみにだが、月読が笛に宿り、勾玉の力が完全なものになってからは、シンにも勾玉同士が呼び合う気配というものがわかるようになっていた。微かな鈴の音が遠くから呼ぶような、不思議な感覚だった。それは確かに、西方から聞こえてくるのだった。
レキをどうするかはひとまず置いて、ここは倫理的にも、カイの安全を確保することが最優先と思われた。巫の頼みとあれば、受け入れてくれる場所もあるかもしれない。そう思って、旅を続けた。
途中、小さな集落にいくつか行き当たり、そこでいつものように清めの儀式を行っていく。代わりに、一夜の宿を借り、物資の補給をさせてもらった。カイを置いてもらえないかとさりげなく聞いてみるも、どこも芳しい返事はもらえなかった。
だが、どの人々も、キズナの舞を神聖なありがたいものと受け取り、深々と頭を下げて感謝の意を示すのは、変わらない。
しかし、それの裏側にある真実を垣間見てしまったシンは、気持ちをどう切り替えていいのか、考えあぐねていた。
結界の外に遍くのは、死者の怨念。生きるものの一切を許さない、歪んだ呪い。それらはもしかしたら、元は誰かの家族や友人だったかもしれない。シンの母――アオイの魂は、キズナが黄泉の国へ連れて行くことを約束したようだが、そうできずに呪いと化してしまった魂たちは、何を思っているのだろう。
キズナは、
シンはふと、空を仰ぐ。そこには、いつもと変わらない、鈍色の雲に覆われた、寒々しい曇天が広がっていた。この空のように、世界の行く末も閉ざされている――シンはそんな気がしてならなかった。
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