第10話

『数分で終わるから』

彼女はそう言って俺を逃さなかった。

どうせもっとかかるだろうと思った俺は早いとここの場から消えようと思い病室から出て行こうとした。

もちろん、そんな行動をとったところでこいつには無意味だということは何となくわかっていた。

「まぁそう焦らず」

そう言ってにこにこしている彼女の手には再びナースコールが握られていた。

「はぁ」

やっぱりかと薄々結末が分かっていた俺の口からはため息が出た。

「早くしてください」

そう言って俺はこの場をこいつに任せた。

聞かれる内容は大方想像できる。

どうせ昨日のことだろう。

だが、もうすぐ説明しなければならないことが増える。

いや、彼女にとっては自分の考えがさらに確証の持てるものになる出来事と言うべきかもしれない。

どっちにしろ説明をしなければならないのだし、早いとこ終わらせるか。

そう思った瞬間、隣の部屋が騒がしくなった。

やっぱりか。

「気づきましたか。まぁ、今更なんですけどね」

「え?」

口から出た言葉とは違い、彼女の表情には何か確証が感じられた。

「もしかして…君…」

やはり、もうバレている。

「で、何が聞きたいんですか?」

時間もないんだし早くしてほしい。

「じゃあ…」

彼女は案の定隣の部屋のことについて聞いてきた。

流石に全貌を話すのはまずいと思っていたものの、またもや脅しにナースコールを使ってきたため正直にはないした。

呆れる程、本当に面倒臭い奴だ。

俺はあいつに先ほど回収した魂を所持していることを伝え、長居できないりいゆうを教えた。

こいつとのお喋りはなんだか気に触る。

会話が読まれているような感じがして面白くない。

今だって結界の力を当てにきているし、なんなら結界へのダメ出しもしてきた。

「そんなにすごい結界があるのに、なんで私の元には音が聞こえたのかな?」

確かに、今までこんなことはなかった。

となると考えられるのは、

「それについては今断言することはできないです。ですが、恐らくあなたも魂の回収対象だったことが原因だと思います。余命が迫り回収者となった人間は、その間だけ私たちを視ることができます。そのため、私たちが使う道具にも耐性のようなものがあったのではないかと」

結界との距離が近すぎて彼女も回収者と認識され防音機能が動かなかったのか。

通常の人間なら結界が感知して防音機能が働く。

なのに今回は、

「わたしとおじいさん、部屋隣だったもんね。聞こえちゃうのも無理もないか」

そうだそうだ、部屋の割り当てが悪すぎた。

どっちにしろ改善が必要なことに間違いはない。

この件はすぐに

「上の人?に報告するんだ」

「…!」

なんでこいつの頭は妙に冴えてるんだ、面倒臭い方に。

正直、少し羨ましいと思えてきた。

「そろそろ時間です。今日は失礼します」


上の人、か…

俺はふと先ほど回収した魂に目を向けた。

俺は魂の回収リストを見ようとした。

「い゛ッ…」

その瞬間、突然頭に激痛が走った。

「はぁ、はぁ…はぁ」

俺は自分の手を見る。

何度も見てきたこの手。

何人もの魂を回収したこの手。

俺は自分の着ている服を見る。

見慣れた黒い服。

全身黒。黒、黒、黒。

黒_。

「ウッ…」

吐き気がした。

違う、違う違う違う違う違う。

俺は間違ってない。

俺は人を殺しているわけではない、今生を終えた魂をしているんだ。

そんなことない、そんなことないんだ。

「俺は、死神じゃない…」

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届くはずのない青空に手を伸ばす君を殺して。 透メ @souhakukuukan_283

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