殺人者たちのワルツ

安藤 龍之介

第1話

短編 『殺人者たちのワルツ』


「現代社会で人殺しをすると・・・警察に捕まっちゃうぞ!

21世紀の日本社会は、まだまだこうの力が、

健在けんざいでなのである。」

       BY 安藤龍之介



「あーあ、血糊ちのりがべっとりだよ。」

シュッ

ぺしゃ

百瀬拓海(ももせたくみ)は、

刃渡り二尺三寸(約75.3㎝)の日本刀を、

横に一振り一閃いっせんした。

刀身に染み付いた血糊を、

住宅のコンクリートべいに払い落した。


「血液って、刀が錆びちゃうから、

本当に嫌いなんだよなぁ。」

百瀬は心の底から思うのであった。

刀身に付いた血糊をそのままにしておくと、

血に含まれる、鉄分と脂質ししつによって、

刀身にさびが出来てしまうのである。

日本刀が大好き百瀬君は、

通勤ラッシュの満員電車に乗り合わしてしまう事よりも、

刀に錆びが付いてしまう事の方が、

とても不愉快なのであった。

「家に帰ったら、ちゃんと綺麗にぬぐおう。」

コットン《絹》100%の今治いまばりの高級タオルで血を拭い、

ついでに、砥石といしで綺麗に研磨しようと計画を立てる。


ブクブクブク。

百瀬ももせの目の前には、

先程まで人間であったはずのが転がっており、

今は肉の塊としていた。

現在も血がとめどなく流れて、

アスファルトの道路には何時いつの間にか、

血のため池が出来上がっていた。

池からあふれた血液は、道路脇の側溝そっこうに、

規則的なリズムでポタポタと滴り落ちる。

月夜つきよに鉄の匂いが漂う。


その元、人間だったの手足は、

ぐにゃっとあり得ない方向に曲がっており、

狂喜のダンスを披露していた。

体の躍動感に反して、の顔は無表情あった。

「平和な世の中にひそむ闇」とでも、

現代アート風なタイトルを付けたら良さそうである。


「危機管理能力が無さ過ぎ。」

と、百瀬は現代社会人に対する憤りを感じていた。

『今から、あなたに斬撃を加えるつもりですよ、危ないですよ、

気を付けてね♪』と、親切な百瀬君は、相手に分かるように、

あからさまな攻撃モーションを取ったはずなのに、

数分前まで人間だった目の前のは、

それに気づきもせず、百瀬の横を無表情で通り過ぎた。

・・・本当に呆れる。

その結果、この血のため池である。


「背も高くて筋肉質で、身体能力が高そうだと思ったから、

君をチョイスしたのに、何で反撃の一つも無いの、

本当にガッカリだよ。」

あ~~あっ、詰まらん。

スーーッ、カチン。

百瀬は刀をさやに納める。

そして、背中にしょっているギターケースの中に、

さやをしょいッと放り込んだ。

「今の日本社会に強者つわものは、

存在しないのだろうか?」

夜空に輝く北斗七星を見つめながら思うのであった。

「は~~~、まぁ、いいや、

それより、お水、お水。」

と、月夜が照る路地裏で、

百瀬はかわきを潤す天然水を求めてさまよい歩き出す。

数分後。

キャーー!!

ピーポーピーポー。

が転がっている現場では、

悲鳴と救急車のサイレンの音が鳴り響いていた。


今日も陽気にグッドモーニング♪

本日、午前2時ごろに、東京都心の閑静な住宅街で、

凄惨な殺人事件が起きました。

被害者は世田谷区でスポーツトレーナーを営んでいた、

安藤龍之介、35歳である事が分かりました。

死因は腹部を鋭利な刃物で切られ事による、

大量出血によるものであり、

警察当局は、3日前に起きた、通り魔殺人事件と、

何らかの関連があるとして、捜査を継続している模様であります。

近隣住民からは、不安の声が・・・・


朝の8時のテレビ番組で、

百瀬がおこなった殺人事件の報道が流れた。

「いや、昨日の殺人は僕だけど、3日前の奴は僕じゃないぞ!

濡れぬれぎぬを着せられている!!」

百瀬は朝食の卵かけご飯を食べながら、

ニュースキャスターと警察当局にツッコミを入れるのであった。


The murders will continue.




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

殺人者たちのワルツ 安藤 龍之介 @pumpkin123

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る