締めの章

 そのあと。


 大貴と初瀬は円満に破局したらしい。自分で言いながらも円満に破局という日本語に違和感を覚えた。円満に破局って何?


 大貴が初瀬の言葉を信じたのかどうかはわからないけれど、別れることには納得したようだ。

 その上大貴は、放課後の篠田先生の推理パートで自作自演だと認めて、クラスのみんなに頭を下げまでした。

「騒ぎを起こしてごめんなさい」

 これに対しては初瀬との間でひと悶着あったようだけれど、「最後くらい男に格好つけさせてくれ」という大貴の想いを聞いて大人しくしたようだった。

 初瀬は恋心を失っただけで大貴のことを嫌いになったわけではないので、多少気まずい雰囲気はあったものの、すぐに付き合う前の状態に戻っていった。

 意外にもクラスでは、気まずくならないようにがんばった大貴の評価が少しだけあがった。

 もちろん謎を解いた篠田先生の評価も上がって、二日も経てばまた受験と高校生活の終わりを憂う元の生活に戻っていった。


「あ!」

「どうしたの、逢沢くん?」

「ぬいぐるみ時計!」

 その時、僕はふと今桜塚市を騒がせている事件、時計台の上にいつの間にかぬいぐるみが置かれている『ぬいぐるみ時計』事件は、初瀬の力を使えば簡単に実行できるんじゃないか、と思った。

 時間を止めている間に時計に登ってぬいぐるみを置けばいい。

「いやいや」

 しかしさほりんがそれを否定する。

「まどかが能力を得たのは数日前でしょう。ぬいぐるみ時計の初犯は数か月前。まどかは犯人じゃないよ」

「……たしかに」


 あれから初瀬が時間を止めた感じはない。


 悪用しようと思えばいくらでもできる能力だけに少し心配だったけれど、彼女は善悪の区別がつく人、もしくは、僕の近くで時間を止めるほど愚かではないらしかった。

 僕もさほりんも、同じ能力者の友達が増えたことに喜びと悲しみが混じった複雑な思いを感じたものの、集まって相談をしあうような関係にもならなかった。


 そんなこんなで、僕は今日もさほりんの隣で勉強をしている。


 隣から聞こえる彼女の吐息や、時折するくだらない会話。

 そんな何気ない日常も、あと数か月で終わってしまうと思うと残念な気持ちになる。



 ああ、時間が止まればいいのにな。



<VS 時間停止能力者 完>

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