[短編] 怪奇列伝

黒崎 京

第1話 黒電話

『ジリリリリリリ、ジリリリリリリ』

 ビルの立ち並ぶ路地裏のゴミ捨て場の袋の中で何かが鳴り響いていた。

 初めにこの現象に気づいたのは管理人の耳鳴さんだ。

 彼は夜な夜な音の出所が気になって寝られずに困っていた。

 手のひらですぐに溶けてしまいそうな柔らかい新雪が降り始めた12月末にも関わらずまるで蝉が鳴いているかのような音が外からしているのであった。


 怪奇荘の管理人の耳鳴さんは外に出てアパートの周りを一周してみるが音の出所は分からない。諦めようとした時、ゴミ捨て場のところから聞こえてくることに気づいた。

 近づくに連れて、その音はより鮮明に聞こえてくる。

『ジリリリリリリ、ジリリリリリリ』

 電話の着信音だと言うことにその時、気づいた。

 しかし、この時代には珍しい古風なタイプの音だ。着信音というよりも中低音のビープ音のような感じでもあった。

 耳鳴さんは音がしている黒い袋を見つけた。

 かなり気が引けたが、開けてみると中に毛布に包まれた“何か“がそこにはあった。その中から音がしていた。

 耳鳴さんは毛布を取ってみることにした。恐る恐る毛布をめくっていくと中から古ぼけた黒電話があった。当然、電源も何もない。かなり珍しい年代物だった。

 奇妙な寒気を感じたが、その電話からまた音がした。今度ははっきりとした着信音がした。

 咄嗟の事態に投げ出してしまった。しかし、まだ音が鳴り続けている。

 耳鳴さんは恐怖で電話を蹴り飛ばした。受話器の部分が本体から外れて壊れた様子だった。

 流石にこの現象も終わると安堵した矢先、またあの不快な音が耳鳴さんの鼓膜を揺さぶる。

 耳鳴さんは恐怖と苛々で受話器に近づく。そして手に取った瞬間、音が鳴り止んだ。

 耳鳴さんはやっとこの現象が終わったと思い、本体部分も拾い上げ、毛布共々、袋に戻し捨てようした時だった。受話器から何か聞こえる。

 恐怖よりも好奇心と苛々がまさってしまった耳鳴さんは受話器に耳を当ててみた。

「やっと見つけてくれたね」

 はっきりとそう聞こえたのであった。


 翌朝、アパートの住人たちが騒いでいるのを聞き、僕は目を覚ました。

 玄関のドアを開けると警察や野次馬たちが多数、駆けつけていた。

 僕は警官の1人に声をかけた。

「あの何かあったのですか?」

 そういうと警官は「いやあ、それが」と言葉を濁すも教えてくれた。

 

「昨晩、このゴミ捨て場の付近で管理人の耳鳴さんがお腹を裂かれ殺されていたそうです。その上にまるで誰かがおいたかのように黒い電話、昔の黒電話が置かれていたそうです」

 想像したくもない無惨な惨劇を僕は聞いてしまった。

 もう遺体も片付けてある。僕は部屋へと戻った。

 猟奇殺人の類なのだろうか、しばらくは警察がアパート周辺の警備を強化するみたいでだが、不安になってきた。

 しかし、学校へは行かなくては行かなければならない。僕は支度を済ませ学校へといくことにした。


 深夜26時。

『ジリリリリリ、ジリリリリ』

 僕の部屋の隣に住む音鳴さんは外から聞こえる音が気になって眠れなくなっていた。

 昨日の今日だ。音鳴さんは警察へ連絡した。

 すぐに近くで警備中の警官が来て、音の正体を探り始めた。

 しかし、警官には何も聞こえていなかった。

 若い警官は音鳴さんにどこから音がするのか聞いた。一緒に探るとゴミ捨て場の方からだった。近づいてみると黒いゴミ袋からだという。

 警官は中を確認する。そして毛布に包まれた電話を発見した。

 警官は直ちに他の警官へと通報する。犯人が近くに潜んでいる可能性があるからだ。

 音鳴さんは恐怖と苛々で警官に詰め寄るも警官は迂闊に手を出さない方がいい、他の警官が来るまで待つようにいうが音鳴さんはずっとなっている音に我慢の限界だった。電話を貸してくれと警官の静止を振り切り奪うと壁に投げつけた。

「何してるんですか! 物的証拠かもしれないのですよ!」

「ずっとずっと、五月蝿くて仕方ないんじゃよ」

 警官は電話の残骸を拾いにいく。すると音鳴さんが頭を抱え始めた。

「まだ聞こえる。聞こえんのか?」

「ええ、私には何も」

 警官は音鳴さんに何がどう聞こえるのか尋ねた。

 音鳴さんは受話器から聞こえるというと警官は不気味そうに受話器を調べ始めた。しかし何の変哲もない年代物だということしか分からなかった。

 音鳴さんは何か聞こえるがはっきりとしないそのもどかしさに苛々し受話器を警官から奪い取った。そしてその声を耳にする。

「やっと見つけてくれたね」

 音鳴さんはその場に蹲った。

「ちょっと大丈夫ですか」

 警官が音鳴さんの方を掴み声をかけると音鳴さんは不気味な笑みを浮かべこう呟く。

「やっと見つけてくれたね」



 午前8時。

 僕は昨日の一件もあり、友達の家に泊まり帰宅していない。

 着替えをとりに帰ってきたら、またしてもアパート周辺に警官と野次馬たちがごった返していた。

 僕は何事かと思い警官に聞くとこう話した。

「昨晩、警官1名と音鳴さんが殺されたんだ。殺害方法も一緒さ。困ったものだ」

 すると別な警官が来てゴミ捨て場から何か聞こえると言い出した。何か事件に関係する手がかりかもしれないと

 それを聞いた警官はこう呟く。「やっと見つけてくれたね」と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

[短編] 怪奇列伝 黒崎 京 @tku373536

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ