第11話 最大の復讐は私が幸せになること!

 この辺りの町内会の役員をしている方々の奥様がたは、日頃からジュエリーブルダンによく立ち寄っている。商店街が賑わっている街だから、役員を引き受ける人達はなにかしらの商売をしていることも多く、人脈も多岐にわたり交友関係も広い。


 私がジュエリーブルダンで働き始めれば陽斗の耳に入り、ジュエリーブルダンにやってくることも予想していた。

見事にその予想は当たり、町内会の役員の奥様方が揃っているタイミングで、わざわざ陽斗はやってきた。おまけに広瀬社長の接客をしている最中だったこともラッキーだった。


 総じてモラルを重んじ、曲がったことが大嫌いな町内会の重鎮たちが集うジュエリーブルダンは、私の復讐に相応しい舞台になった。陽斗は完全に墓穴を掘ったのよ。


 あの場にいた人たちは自宅に帰れば、きっと旦那様や家族に話す。もちろん、親しい友人にも太田宝石店の話題をするだろう。私の目論見どおりに、噂は尾ひれもついて爆発的にひろがった。やがて、SNSでも太田宝石店の悪評が拡散される。真実が散りばめられた嘘が膨れ上がり、一人歩きをし始める。もうこの噂の暴走は止まらない。


 正義をふりかざす者たちは私をドラマチックなヒロインのように描き、夫たちを極悪人に仕立て上げたのだった。


 

☆彡 ★彡



 私はジュエリーブルダンで売り上げを伸ばしながらも、家庭裁判所に離婚の調停を申し立てた。調停の場には髪をひとつに結び、白いブラウスに黒いスカートで出向いた。お化粧は控えめで、ほとんどすっぴんに見えるほどの薄化粧にする。清潔感と真面目さと勤勉さを前面に出すようにした。


 パンプスは三センチヒールの黒でシンプルなもの。調停委員を完璧に味方につけたい。第一印象はとても大事なのに、見栄っ張りな陽斗はブランド物の派手な服装で、コロンの香りをプンプンと漂わせて来た。


 浅はかな人ね。こんな場所では着飾っても意味はないのに。かえって逆効果よ。


 案の定、陽斗の印象は最悪だったようだ。陽斗は遅刻をしてきた挙げ句、この場に相応しくないチャラチャラした格好をしてきたことで、調停委員から嫌みを言われ冷笑を浴びせられた。


 陽斗の浮気の証拠が決定打になり、私に有利な条件で離婚の話は進み、妥当な慰謝料の額も決まった。陽斗には反論する気力もなくなっていた。


 やがて、太田宝石店は潰れ店舗付き住宅は売却され、陽斗たちは引っ越していった。それから樹理には一度も会っていない。躾もしないで、子供たちをあのまま甘やかせばどうなるかは、誰が考えても予想できる。

 陽斗は太田宝石店以外で働いたこともない、コミュ障気味の独りよがりの性格だ。しかもプライドだけはとても高い。きっと新たな働き口を見つけるのは困難を極めるだろう。


 



 ☆彡 ★彡




 私と賢星さんは、ほぼ同時期に離婚が成立した。それから正式にお付き合いをすることになり、楽しい時間を一緒に過ごした。


「高校時代に付き合えなかったぶんを今から取り戻そう。あらゆるデートスポットを二人で行きたいよ。今はお金に余裕があるぶん、ワンランク上のデートを楽しんでもらうね」


 その言葉どおり、賢星さんは私を思いつくかぎりのデートスポットに誘ってくれた。二人でしっかりと手を繋いで、若いカップルに負けないぐらいの熱量でお互いに見つめ合う。賢星さんとのデートの楽しさは、ただ一緒にいるだけで時間が止まったような錯覚に陥るほどだった。ふたりで過ごす時間はまるで魔法がかかったかのようで、世界の喧騒がどこか遠くへ行ったような静寂が広がる。


 これが俗に言う『二人だけの世界』というものなのね。ドラマでも恋愛小説でも使い古された言葉だけれど、実際に夢中になれるほど大好きな人が現れると理解できた。


 恋愛も絶好調だと仕事運もますます上向きになって、全てが良い方向に動いていく。そうして、私は賢星さんとお付き合いを始めて2年目で再婚した。


「これからずっと、仲良く一緒に歳を重ねていこうよ。俺たちは回り道をしてきたぶん、お互いの大切さもひと一倍わかっている。だから、最高の夫婦になれると思うんだ」


 そう、私たちは知っている。裏切られる悲しみも、嘘をつかれる悔しさも。だから、今度は間違えない。


「よろしくお願いします。私、絶対に賢星さんを大事にして良い奥さんになるわ」


「良い奥さんになることは望んでないよ。あかねさんのやりたいことを応援できる夫でいるつもりだ。お互い支え合って協力し、お互いの夢を応援できる夫婦でいよう」




☆彡 ★彡




 それから10年以上の歳月が経った。私と夫はある番組に出演し、インタビューに答えていた。かつての夫であった陽斗の話も出て、心の底から陽斗の幸せも願えた。もちろん、陽斗がどこでなにをしているのかなんて知らないし、興味も全くないけれど、他人の幸せを願わずにはいられない。なぜなら・・・・・・


「お父様、お母様。お帰りなさい!」


 賢星さんと大きな屋敷に戻ると、娘と息子が私たちを出迎えてくれた。私は不妊症などではなく、賢星さんと結婚してまもなく自然と子供に恵まれた。二人とも思いやりのある礼儀正しい子たちに育っている。



 私は溢れんばかりの幸せを抱えて、キラキラした輝きのなかで生きている。

 ここには希望と愛と喜びしかない。


 だから、・・・・・・陽斗と樹理、浮気をしてくれてありがとう!!







 

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